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17.ミオラと叔母さん

 それなりの距離を全力でダッシュしたものだから、ミオラの家に着いた時には、私はヘトヘトになっていた。

 レオンだって微かに息が上がってる。だったらそんなに走らなくてもいいのに。いや急ぐ必要はあるんのよね。


 ミオラの家は、一見すると何事もないように見えた。売出し中の表示はそのまま。扉が開けられた様子もない。周りの住民も、特に不審がっているようには見えない。


 けれど家の中から微かに声が聞こえた。怒っているような声だった。つまり侵入者がいる。


「勝手口があるんだろう。こっちだ」


 少し疲れた様子のレオンだけど、しっかりした足取りで家の裏に向かう。私だって疲れで倒れてるわけにはいかず、文句も言わずについていった。


 レオンの予想通り、勝手口が壊されていた。裏口というべきものであまり目立つところにないから、周囲の住民もそれに気づいていない。無人の家だから注目もされていないのだろう。


 そっと中に入るレオンに続いて、私も家の中へと足を踏み込んだ。


「思い出しなさい! 屋根裏部屋はどこ!?」

「そ、そんなのあるかも知らないし……」

「あなたがあるって言ったのでしょ!?」

「い、言ってない。あるかもって言っただけ」


 知らない女の声と、ミオラの声だ。

 ミオラを激しく責め立てて、絵の隠し場所を知ろうとしている女が叔母さんなんだろう。レオンが先導して、息を潜めてそちらへ向かい、様子を見た。


 中年の、あまり美人とは言えない女。けどどこか、ミオラと似ているようでもあった。目元とか。髪の色とか。可愛らしいミオラとは雰囲気がかなり異なるけれど。

 それがミオラの手首をぎゅっと掴み、恐ろしい形相でまくしたてている。空いている手には、家庭でよく使われる包丁が握られていた。


「孤児院でミオラがひとりになったところで、ナイフを突きつけて連れ出したんだろうな。騒ぐな大人しくしろって」

「だから孤児院のみんなは、ミオラがいなくなったのに気づくのに時間がかかった?」

「そういうことだな。止めないと。おい、そこまでだ」


 ローブの中に入れているナイフを取り出しながら、レオンは姿を見せた。騒々しい声が一旦止んだ。


「あなたたちも、絵を探してるんでしょう?」


 叔母は静かに尋ねた。こっちを何だと思っているんだろうな。

 私たちの姿を、彼女は見ているのかもしれない。昨日、ここに来た時とかに。レオンが中に入れないか試して、家の周りを探っている様子を遠巻きに見ていた。こちらの素性は知らなくても、目的は絵だと決めつけた。理由はわからない。この叔母さんが絵のことしか頭にないのだから、他人もそうだと考えるのは自然だろう。

 自分以外にもお宝を狙う者がいたと知った彼女は、慌ててミオラの誘拐という荒っぽい手段に出たというわけだ。


「いいや。絵なんか興味ない。俺はミオラの知り合いだ。その子が拐われたと聞いて、助けに来ただけだ」

「来ないで!」


 レオンが近づこうとすると、叔母は持っているナイフを見せつけた。片手はミオラの腕を掴んで離そうとしない。


「来ないで。一歩でも近づいたら、この子の命はないわ!」

「あんたね……」


 仮にも姪なのに。なんでそんな振る舞いができるんだ。そんなに金が欲しいのか。


「ミオラの知り合いなら、あんたたちも知ってるでしょ! あの絵描きのこと! どうせあんたも絵が目当てなのよ!」


 だめだ。この女は錯乱している。目先にあるはずの金目のものに、判断力を失っている。

 万が一絵を手に入れられたとして、こんなことをしたと複数の人間に目撃された現状、彼女に待っているのは社会的な死だ。彼女にも日常や人間関係があるのだろうけれど、それが完全に崩壊する。

 が、それも金の力でなんとかできると考えている。そう思い込んでいるのだろう。


「レオン。どうする? 説得するのは無理よ」

「だろうな。隙を見て飛びかかってナイフを取り上げるしかない」


 レオンは、自身が手にしているナイフをぎゅっと握り直した。

 そうするしかないのはわかっているけれど。


「ミオラちゃんが危険よ」

「わかってる」


 あの女が姪の首に本気でナイフを刺すかはわからない。けど、錯乱状態ならやりかねない。

 だからレオンも、慎重に隙を探している。睨み合いを続けて相手が疲労したところで襲うとかの方法を探していた。


 なのに。


「ミオラ! なあ! ミオラそこにいるんだろ!」


 睨み合いが始まった少し後、なぜかリュダの声が聞こえてきた。

 表のドアがガチャガチャと音を立てて、開かないと見たら足音がして、裏に回っていくのがわかった。

 ああ、最悪だ。ユーファが見てるはずなのに、なんでここにいるんだろう。というか、彼はこの場所を知らないはずなのに。なんでいるんだ。


 彼は家の侵入経路を正しく把握して、裏口から中へと駆け込んだ。そして私たちの背後に駆け寄った。


「ミオラ! 無事か!?」

「リュダ!?」

「今助けるからな!」

「待て!」


 叔母に向けて跳びかかろうとしたリュダを、レオンが慌てて引き止めた。


「ナイフを持ってる。下手に動くとミオラが危ない」

「くっ……」


 悔しそうな顔を見せるリュダ。

 一方の叔母も、次々に部外者が出てくる状況に苛立っているようだった。

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