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15.貴族は消えることもある

 その後、私たちもシスターに挨拶させてもらった。シスターとしても、頻繁に会いに来る叔母さんには思う所があったらしい。今後は来ても追い返してもらえるとのことで、一応はミオラへの負担が軽減されると思う。

 絵でお金儲けを企んでいる叔母が、それで諦めるかどうかは別問題だ。そして、たぶん私たちはそれを解決しなきゃいけない立場にある。


「霊の未練って、どう考えても叔母さん絡みよね?」


 ヘラジカ亭に帰る途中、なんとなく察していることをレオンに確認してみた。彼も同意見らしい。


「そうだな。それで間違いないと思う。五年前に両親が亡くなった時は、単純にミオラが心配だとかの気持ちで取り憑いたんだろうけど……その後、叔母さんが頻繁に来るようになった」


 あの絵に関する悩みがなければ、ミオラの両親の霊はレオンの祈りで他の霊と一緒に冥界に向かったはずだ。

 けれど私やレオンが来る前に、ミオラに問題が起こってしまった。だから行くに行けなくなってしまった。娘の危機を救うために、わたしたちに協力を求めて転ばせた。


「叔母さんに、なんとかして絵を諦めてもらうしかないかなー」

「そうねー。でもどうするの?」

「そりゃ、あの家を売ってる業者にお願いして、中に入れてもらうとかして。それで絵を探す。先にこっちが見つけてしまえばいい」

「見つけて、自分のものにするの?」

「いや。業者に渡す。別にそこで儲けたいわけじゃないから」


 絵の所在が明らかになって、その所有権が誰の手にあるのかは争いになるだろう。

 今の家の所有者である業者なのか、遺族であるミオラのものか。叔母さんだって所有権を主張するだろう。


 けど、その係争は好きにやってくれればいい。ミオラには権利を手放してもらおう。そうすれば叔母さんが訪問することはなくなり、彼女に平穏が戻る。両親の霊も納得して冥界へ行ってくれるだろう。


 業者に中を見せてもらうのは、神父パワーでなんとかできる。それから次の休みもレオンと私で揃って取れるようにして日程調整をしてから、エドガーに頼んでみよう。

 問題は、本当に隠し場所が見つかるかどうかだ。今まで見つかっていないものを、家に初めて入る私たちが即座に見つけるっていうのは現実感がない気がする。

 それからもうひとつ。


「絵以外にも未練がある可能性だなー」

「そうね」


 この前話したこと。両親は馬車に跳ねられて死んだ。貴族のわがままが原因だ。そこに恨みを持っている可能性もある。


 と思ったら、それは解決した。


「その貴族の家ですが、今はないそうです!」


 ヘラジカ亭にリリアが来ていた。そして休みの私の代わりに料理の仕込みをしていた。

 私よりもずっと手際が良かった。仕方ないじゃない。向こうは家事を仕事にしているメイドなんだから。


 リリアはスタイルが良くて美人。だから男性の店員にチラチラ見られている彼女の手を引いて、二階の私の部屋に連れて行ったというわけだ。

 そして開口一番、そう言った。貴族の家がなくなったと。


「どういうこと?」

「ミオラさんの両親を殺した貴族について調べました!」

「それは知ってるけど」

「事故を起こした御者も亡くなったのですが、彼は下級貴族の中では評判の人だったそうです。仕事が速く丁寧。なのにそんな彼に、必要以上に速く仕事を頼んだと、その貴族は周りからの評判を落としました」

「ふうん」


 まあ、ありそうな話だ。

 特定の貴族に雇われてるわけではない。貸し馬車と貸し御者みたいな業者があって、貴族のお願いで物を運ぶ依頼を受ける。

 そこまで裕福ではない貴族は、家専属の馬車を雇い続けるよりも、そっちの方が安上がりだからな。


 その御者の評判が本当なのかはわからない。実際に仕事ができる人だったのかもしれない。飛び抜けて優秀というわけではないけど、人柄がいいとかで顧客が受ける実績の印象も上がることはあるだろう。

 で、事故が起こった。あそこの家のせいだと噂が立つ。

 下級貴族の中でも力関係とか、政治的な繋がりがある。そして下級貴族はもっと上の階層の貴族と繋がりもある。彼らの人事権を握っている権力者にもつながっていく。


 貴族社会で居心地が悪くなった上に、仕事でも冷遇されていったその家は、この数年の間に没落したのだろう。

 小さい、さほど偉くもない家が失脚して消えるのはよくあることだ。もっと大きな家の偉い貴族でもそうなることはあるのだから、弱い貴族ならなおさら。


「今は王都から地方へ左遷され、下級役人の家として過ごしているそうです」

「だってさ。ミオラのご両親。あんたを殺した原因は、相応の報いを受けた。だから満足しろ。ミオラの件が解決したら、ちゃんと冥界まで行くんだぞ」


 返事はない。レオンは霊が見えるとは言うけれど、それがやる細かな仕草なんかはわからない。そもそもミオラの両親の霊は他の大勢の霊にまぎれてよく見えない。コミュニケーションのために私を転ばせるのも論外だし。


「聞き届けてくれると祈るしかないな。リリア、これからどうする? うちで夕飯食べていくか?」

「いえ! このあたりでお暇させてもらいます!」

「そうか。じゃあついでに教会に寄ってエドガーに伝言を痛い」

「こらレオン。リリアはお客さんなんだから。そういう雑用はさせないの」


 空き家見学のこと、エドガーにお願いしに行く手間を省こうだなんて。ひどい奴め。


「リリア。うちでお茶していかない? ゆっくりしていきましょうよ」

「そうですか! ではお言葉に甘えますね!」

「ほらレオン。お茶の準備しなさい」

「えー」

「えーじゃない!」

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