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14.所在不明の絵

 次にミオラは、レオンと私の方に目を向けた。


「えっと、レオンさんとルイさん? どうしてここに?」

「それはほら。この前ミオラと会った時に、様子がおかしかったから。あれからずっと気になってて。……叔母さんが頻繁に会いに来るって本当か?」


 霊に転ばされたとは言えない。レオンはそれっぽい言い訳を取り繕った。

 前に会った時には既に、叔母さんの訪問を受けていたんだろう。だから元気がない様子に気づいたと言っても嘘だとは見抜かれにくい。

 完全に嘘なんだけどね。レオンも私も、そんなこと気づかなかったんだから。


「そう、ですか。ありがとうございます……」

「ミオラちゃん。なにかあったら、教えてほしいな。私たちで力になれるかもしれないから」

「……はい」


 私たちは施設からすると部外者に近い立ち位置。たまに来て手伝ってくれるだけの人間に、どこまで頼っていいのか。ミオラだってそこに迷いはあったのかもしれないけれど、かといって他に頼れる人もいない。

 だから意を決したようだ。


「叔母さんが、これまで何回か会いに来てくれるんです。けれど施設から引き取ってくれるって話は全然してくれなくて。なんというか……なんとかっていう画家に描いてもらった絵に心当たりがないかって訊いてくるんです」

「絵?」

「はい。家があった近所に、有名な画家が住んでたとかで。お母さんが前に、その人に絵を描いてプレゼントしてもらったことがあったらしくて」


 それはつまり、あの肉屋やフローレンス堂の看板に絵を描いた画家ということだろうか。


 ミオラの母が絵をもらったのは、もちろん彼女が存命の頃だから五年以上前。というか、ずっと前のことなのかもしれない。

 まだまだ無名だった件の画家が、近所の仲のいい人に絵を描いてプレゼントした。あってもおかしくはないことだ。


「どんな絵なんだろうな」

「私にもわからないわよ。レオンの方が詳しいでしょ?」

「詳しくはないさ。でもたぶん、絵の雰囲気は看板で見たのと同じようなものだ。そして大勢の画家と同じようにキャンバスに絵の具で描く」


 王都には美術館があるし、私も学園にいた頃行ったことがある。それに、かつて住んでいた公爵家には絵画がたくさん飾られていた。

 キャンバスのサイズは大小色々あるけど、イメージはつく。画家が書く絵画とはそういうものだ。


「家にあるはずなのに、叔母さんは見たことがないって。お父さんとお母さんが死んだあの時、家財道具は整理したけれど、そんなものは無かったって。……わたしも、そんなすごい画家さんの絵が家にあるなんて知らなかった」


 ミオラは、その画家のこと自体よくわかってない様子。

 話を聞くに、絵をもらった時ミオラは本当に小さかったのだろう。画家が家に来たとして、それを覚えているとも思えない。

 そして絵はいつの間にか消えてしまった。


「叔母さんはわたしの家のどこかに、絵が隠されてると思っているんです。整理した遺品の中にないなら、あの家にまだあるはずだって」

「なるほど。でも隠されてるって?」

「よくわかりません。秘密の倉庫か何かがあるんじゃないかって。でもわたし、そんなの知らないのに……そもそも、そんなのあるんでしょうか」

「普通の家にはないよな。あるとしたら屋根裏部屋とかかな。入るのに少し手順を踏まないといけない仕組みになってるとか」


 それはありえるかも。屋根裏部屋は高所まではしごを使って出入りするもので、子供は危ないから幼いミオラに両親はその存在を伝えなかった。そして両親は死んで、遺品整理の際に屋根裏部屋の存在を誰も知らず見過ごしてしまったとか。


「叔母さんはわたしの家のどこかに、絵が隠されてると思っているんです。だから何か覚えていないか、叔母さんが何回も訊きに来て……」

「覚えてないって答えるたびに、不機嫌になるのか?」

「はい……次に会うまでになにか思い出してって、毎回言うんです」


 身元を引き取る気などない、つまりミオラのことを家族だと思っていない親戚が何度も尋ねてくる。目的も予想がつく。


 有名になった画家が無名時代に描いたとされる絵だ。好事家にさぞ高く売れるだろう。

 その過程でミオラがどれだけ傷つこうがお構いなしだ。


「そいつムカつくな! 今度来たら俺が追い払ってやるよ!」

「ありがとう、リュダ。けど、そんなことできるかな?」

「シスターたちにも相談しようぜ。ミオラが会いたくないって言うなら、会う必要なんかないって。来ても追い払うようお願いしよう。金が目当ての奴のせいで、ミオラが困ることはないから」

「うん……」


 リュダはたぶん本気だし、ミオラを守る気持ちにも嘘はない。

 けれど彼だって一介の孤児だ。幼く力も弱く、知恵が回るわけじゃない。気持ちだけでは問題が解決するわけではない。ミオラが暗い顔しているのは、そういう理由。

 とはいえ、私たちにもできることは少ないから。リュダが頑張るのが現状一番の対応策。


「俺たちも、何か力になれそうなことがあったら協力するから。あんまり気を落とすなよ。ほら、これを食え」

「あ、ありがとうございます……」


 レオンがミオラに、買ってきたお土産を手渡す。

 さっき大きなクッキーを半分こしてもらったばかりで、食べすぎかな。

 構うもんか。辛いことがあった時は、お腹いっぱい食べて元気になるのが一番。それがお菓子なら、なおのこと良い。

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