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13.ミオラとリュダ

 孤児院へ行けば、子供たちが外で遊んでいた。何人かが、すぐに私たちの姿に気づく。

 今日はシスターのお休みの日ではなく、誰か代わりの人員が来ることはないはず。レオンは子供たちの人気者だし、私の顔も覚えていたようで、けれどなぜ急に来たのか疑問って感じだった。


「ミオラはいるか?」

「わからない。朝は見かけたんだけど」


 子供のひとりに尋ねると、そんな返事。朝ってことは、みんなで朝食を食べた時だろうな。


「俺見たぜ! ミオラにお客さんが来たって!」

「お客さん?」

「朝早くに、なんか女の人が来て。その後ハンスも呼ばれたんだよなあ。今日はお客さんが多い」

「ふうん」

「それよりレオン! 遊ぼうぜ!」

「また今度な。ルイ行くぞ」


 せがむ子供は少しテンションが高くて、それを軽くいなしながらレオンは私を伴って建物のの中に入る。


「お客さんが多い日か。ハンスのやつ、幸せになればいいけど」

「そうねー」


 孤児院へのお客さんとなれば、目的はほとんどひとつだろう。


 子供の引き取り手が来たというわけだ。


「聞いたことがある。離れた領地の貴族に使用人として働いている親戚がいるって。手紙のやりとりはしていて、いつか引き取るって約束してたんだってさ」

「なるほどね」


 どこの領地かも、そこの貴族がどの程度のものかも知らないけれど、使用人が子供を引き取るというのは場合によっては難しかったりする。遠方だとなおさらだろう。

 この王都まで引き取りに向かう間の休みを取るのも大変だし、引き取った後の暮らしの準備もしなきゃいけない。

 そういうのに理解がある貴族も世の中には大勢いるから、すんなりいくこともある。ハンスという子供の場合は、どうなるかなんて知らない。引き取られた後の暮らしがどんなものになるのかも、私にはわからない。


 たぶん、知る術もないだろう。幸せになるよう祈りながら、良き思い出としてずっと胸に抱く。孤児院の子供たちも、何度かそういう別れを経験していたんだと思う。


 さて、ハンスという子供の客はそれとして。


「ミオラちゃんのお客さんもそうなのかしら」

「引き取りに来たって? どうかな……」


 レオンはそうだとは思ってない様子だし、私も実は同意見だ。


 ミオラには引き取り手になりそうな親戚はいる。叔母さんだ。けれどそれなら、両親が亡くなった時に引き取ってるはずだ。

 今になって事情が変わったとかは、もしかしたらあるかもしれないけど。


「養子を探している家庭が孤児を引き取るっていうのもあるけど、その場合はミオラを指定して呼び出すことはしない。そもそも養子が欲しい人は、もっと幼い子を望むはずだ」


 確かに。要は赤ちゃんが出来なかった家庭なわけで。引き取るとしたらそういう子供がほしいはず。

 年長さんでも温かく迎え入れて大切に育てる家庭だってあるだろうけど、傾向としてはより小さい子が好まれるのが世の常。


 ミオラ指名というがわからないな。

 私が転んだの関係があるのかもしれないけど、それも不明。


「あ。リュダ」

「ようレオン」


 施設の廊下で、ミオラと同い年の少年を見つけた。手には大きなクッキー。


「レオン、遊びに来たのか?」

「いや、ちょっと気になることがあって。ミオラはいるか?」

「ついてこい」


 年上のレオンに対しての、相変わらずの生意気な態度。レオンも生意気だからお似合いだ。

 それよりも、彼は当然のようにミオラの居場所を知っているらしい。


「今朝、ミオラの叔母さんが来たからな。そういう日はいつもあそこにいるんだ」

「いつも? 叔母さんが面会に来るのが何度もあるのか?」

「うん。今まで三回くらいかな。今年に入ってから、急に来だした」

「引き取りたいっていう相談かな」

「そうじゃないみたいだぜ。なんか、話したいって感じで」


 親戚なのだから会いに行くのはおかしなことじゃない。けど今まで会ってなかったのが、急に頻繁に何度も訪れるのは不審だな。


「それに、叔母さんと会った後のミオラ、いつも元気ないからさ」

「ますますわからないな。なんで元気ないのかは、本人から聞くべきかな」

「そうしてくれ。あそこだ」


 施設の敷地内の片隅に小さな倉庫が置いてあった。リュダはその倉庫の扉には興味なさそうに、裏手に回る。

 ミオラが三角座りして、膝に顔をうずめていた。


「ミオラ。食うか? 半分こしようぜ」


 リュダの方を見たミオラは、私たちにも気づいて軽く会釈した。そしてリュダの持ってるクッキーに目を向けて。


「それは?」

「ハンスの親戚が来て、お土産にって。子供が喜びそうな大きなお菓子買ってくれたらしいけど、子供の数が思ったより大きかったから全員分無くて。早いもの勝ちみたいになったけどミオラいなかっただろ?」


 そして当然ように、リュダはクッキーをふたつに割ってミオラに渡した。


「ありがとう。リュダはいつもこうしてくれて。わたしは分けてあげたこと一度しかないのに」

「気にすんな。いつも助けてくれるだろ。それでおあいこだ」

「うん」


 優しい笑みを見せるミオラ。このふたり、普段からこういう関係なんだろうな。

 みんなのまとめ役をしているミオラは、それに疲れてしまうことがある。それを支えるのがリュダというわけだ。

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