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11.ミオラの生家

 看板の効果に、レオンはそこまで興味はないらしい。この店が人気店であること自体は重視している様子。

 けど貴族か。美味しいと評判のお店なら、貴族が買いに行かせることも多い。


 ああ。そうか。


「ええ。時々噂を聞きつけた貴族の馬車が来るわねぇ。毎日ではないけれど」

「貴族の方にも評判なんですね。彼らはお抱えの料理人を雇ってることも多い手前、美味しい料理でも庶民の食べ物を毎日調達させることは無いと聞きます。それでも時々食べたがるのだから、すごい評価だと思います」

「あら。そういうものなのねえ……」

「ちなみに、あまりにも食べたいから急いで馬車を走らせるお金持ちもいたり?」

「ええ。たまに、とても急ぐ方もいるわね」


 レオンが知りたかったのはこれだ。


 ミオラの両親は急いで買い物をしていた貴族の馬車にはねられて死んだ。けど、この素朴な庶民が住む地区に、貴族の求めるものがあるのだろうか。死人が出るまで急いで買わせたものに。

 それがこの肉屋のシチューというわけだ。


 両親の死について、謎はひとつ解けた。もちろん、それで私に憑いた霊がどうというわけじゃないけれど。


「自分の死の真相が知れたから、冥界に行く気になったとか、そういう気分ではないか? なさそうだな、うん」


 ご婦人に丁寧にお礼を言って、肉屋から離れながら霊に語りかけていた。数百の霊がわたしの前で入り乱れているわけで、その中でミオラの両親の霊がどんな反応をするかなんてわからない。

 私は不用意に転ばないように壁に手をつきながら歩いているし。霊と意思疎通は取りたいけど、そのために痛い思いなんてしてたまるか。

 とにかく、霊の未練がこの程度で晴れるとはレオンも思っていない。


「とりあえず、家の様子を見に行くか? 懐かしい気持ちになって、未練を忘れて冥界に行く……ってこともなさそうだな」

「行ってくれればいいのにね」

「人生はそう複雑じゃないんだよ」


 クソガキが人生を語るな。


 そんな不毛な会話をしている間に、目的地へとついた。

 周りの家々と同じく、古さを感じさせる小さな木造家屋。親子三人、慎ましく暮らすのにはちょうどいい。


 家主が死んでから、長らく放置されていたのだろう。手入れもされておらず朽ちるままになっているようだ。ミオラの両親が亡くなった時でも、既に建てられてそれなりの年月が経っていたのだろう。それから数年経てば、かなりボロくなるのも当然。


 空き家という表示がされているから、求める者がいれば売りに出されるのだろうけれど、今の家の持ち主にも積極的に売るつもりはないらしい。

 あまり人気がある土地ではなく、綺麗な物件でもない。取り壊して綺麗な家に建て替えるのも費用がかかる。

 もの好きが買うか、取り壊す手間がかからないくらいに朽ち果てるまで放置するつもりだろうな。


 もちろん、浮浪者なんかが中に入って勝手に住み着くなんて事態にはならないよう対策はされていて。


「中に入れないな」

「当たり前よ。ていうか、平気で不法侵入しようとするな」

「鍵がかかってる。けど、なんか無理やりこじ開けたような形跡があるな」

「おいこら。話を聞きなさい」

「誰かが中に入ろうとしたんだな。けど誰だろう」

「あ、待って」


 しゃがんで鍵穴の様子を見たレオンは、次に建物の横に回って様子を確かめていた。


「窓に傷がついてるな。割ろうとしたけど、住宅地で人目がある場所だ。しかも家と家の間隔も狭い。割ったら周囲に気づかれるかもって思って、中途半端にしか叩かず諦めた」

「いやいや。そんな推測当てにならないでしょ」

「本気で割りたいなら、夜中に決行すべきだ。石を布でくるんでぶつければ、比較的小さな音で割れる」

「だから」


 そんな物騒な知識はいらない。


「結局、この空き家に侵入した人はいないのね?」

「いないらしいな。けど、侵入を試みる目的はなんだろう」

「忘れ物があるとか?」


 ミオラのご両親が亡くなった時、彼らの持っていた財産はどうなったのかな。家具や食器や、日常で使う小さな道具。そんな家財道具はどこに行ったのだろう。

 処分されるとして、残ったものがあったのかも。


「この家が売りに出される時、中身は一切処分されたんだろうな。捨てるか、金に変える」

「それをしたのは誰? ミオラちゃん?」

「まさか」


 でしょうね。そんな手続きをするには、彼女は当時幼すぎた。今でも無理だろう。


「家を買い取って、今は空き家として売ってる商人か。それかミオラには親戚がひとりいたはずだから、そっちか」

「叔母さんだっけ」

「そう。天涯孤独の姪を引き取らなかった女」

「悪い言い方をしない」


 事情があって、そうしてるのだと思うし。

 その人がミオラの家の財産を売り払って着服したとか、そういうのなら話は別だけど。


「どうせ家財道具と言っても大したものはなかったのだろう。全部売っても大した金にはならない。叔母さんは、それを教会に寄付する代わりに孤児院にミオラを引き渡し、自分の所で世話できないことへの罪滅ぼしとした」

「なるほど。それはありそうね」


 レオンと一緒に、空っぽの家の中を見ながら説明に頷いた。

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