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10.繁盛している精肉店

 調査はエドガーたちに任せるとして、私たちは翌日から仕事を頑張り、そして経営者一家にレオンと私と同じ日に休日を取りたいとお願いした。


「いいよー。デート行きたいってことだよねー?」

「違うわよ!」


 ニナにからかわれながらも、すんなり了承を得られた。

 私たちの性質や仕事について理解があるから、本気でデートと思われてるわけでもないし。

 うん、そのはずだ。


 というわけで、また休日。私たちはスルンデル地区へと向かっていく。レオンは相変わらずローブを羽織っている。フードは被っていなかった。


 ヘラジカ亭は王都の中心部を突っ切る大通りに面している。この太い道を辿れば王様の住む城へたどり着くし、その周りには街の行政施設が多く立ち並んでいる。あとは有力貴族の屋敷とか。

 人通りが多いから、地価も高い。それだけ、儲かっている大きな店が軒を連ねる。もちろんヘラジカ亭がそのひとつだし、お金持ち御用達の菓子店であるフローレンス堂も大通りの中心部に近い場所に建っている。


 そしてレオンは、そんな大通りからどんどん離れていく方向へと歩いていった。道はだんだん細くなる傾向にあり、建っている建物も簡素で小規模なものになっていく。

 あるいはそう。裕福ではないと言うべきか。


 貧しいまではいかないと思う。雑然とした雰囲気になっていき、道行く人の格好も小綺麗な物からみすぼらしい物へと変化していっているが、さりとて人々の表情は暗くはない。

 庶民的。あるいは、お金はなくとも日々満ち足りて幸せに暮らしている人々がいる地域なんだなと思えてきた。


 そんな場所を、レオンはキョロキョロと周りを見ながら歩いている。


「ミオラちゃんの家、この近くなの?」

「いや、もう少し歩く」

「じゃあ何を探してるのよ」


 家が見つからないのとは違うのか。確かにレオンの足取りは、目的地がわかっている様子で迷いがなかった。


「なんだろうな。店とか。このあたりの評判の住民とか」

「なによそれ」


 なんて漠然とした言い方。レオンは、自分でもよくわからないものを探しているらしい。


 すると、レオンは何かを見つけたように足を止めた。視線の先には一軒の建物。一階部分が店舗で二階が住居となっているらしいその建物には、こじんまりとした看板が掲げられていた。


 真新しいというわけではない。けれどこまめに掃除がされているのか、綺麗周囲の建物や商店と比べてもみすぼらしいという印象はなかった。

 看板自体のデザインの力もあるのだろうな。店名が書かれているだけではなく、隅にちょっとしたイラストが描かれていた。繊細なタッチで描かれた牛の絵だった。


「精肉店か。儲かってそうだな」


 看板を見て、それから店の様子を見たレオンが小さく言った。この店が精肉店であること自体も、見つけた当初の彼には興味がなかったようだ。じゃあ彼が注目したのは、あの看板だったのかな。

 確かに、あのイラストは綺麗だな。目につくのもよくわかる。


 店にはちょっとした行列が出来ていた。みんな、自分の家から持ってきたと思しき鍋を持っていた。店から出てくる人も多くが鍋持ち。中に何か入っているのか、ちょっと重そうだ。


「スープでも入ってるのかな。すいませーん」

「あ。こら」


 レオンがなんでこの精肉店に興味を持つのか、よくわからない。けど彼は並んでいる暇そうな客のひとりに話しかけた。

 人の良さそうな中年女性を選んでいるあたり、打算はあるのだろう。それか目的意識か。


「このお店、なにが名物なんですか?」

「おや。見ない顔だねえ」

「はい。アルディス地区の酒場で働いていまして。この近くに評判のお店があるって聞いて調査に行ってこいと、店主に命じられました。どうやらここっぽいなと思いまして」


 おいこら。平然と嘘をつくな。そんな理由でここに来たんじゃない。


 厄介なことに、酒場で働いているのは事実だし、飲食店がほかの店に偵察しに行くこともよくあること。だから探られても嘘は突き通せる。

 幸い、話しかけられた婦人は気にすることなかったようだけど。


「そうなのねえ。このお店のシチューが評判なのよ。安くて美味しいって、みんな買っていってるのよ」

「シチューですか。美味しそうです」


 肉屋が肉以外にもそういうものを売るのは珍しいことではない。

 レオンはさらに尋ねた。


「評判なのは昔からですか?」

「ええ。もう十年も、ここでお店を構えていて。このあたりの家の人はみんな知っているわ。でも有名になったのは……ここ五、六年ほどのことかしら」

「シチューを売り出すようになった時期、ということですか?」

「いいえ。看板を変えたのよ。画家見習いって言う男の子がこの街に住んでいたの。お世話になっていたこのお店が看板を新しくするって言うから、隅に絵を描いてプレゼントしたの」


 すると、なんとなく人目につくようになって客が増える。その客が、この店の作るシチューはうまいと思って知人に告げる。こうして評判が広まっていき、人気店になった。


 看板って大事なんだな。


「それはすごい。……時々、貴族が買いに来たりとかは?」


 レオンはさらに踏み込んだ質問をした。

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