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第2話 プレゼント

 年が明け、一ヶ月が過ぎた。先輩が東京に戻って来てからすぐにカフェで話した。二月ということもあり、私は先輩に聞いた。


「もうすぐバレンタインですよ。私からのチョコ欲しいですか?」

 実は、今までバレンタインと言うイベントはスキップして来たが、これまでお世話になったから何か先輩にしたいと思い聞いた。


「あ〜、めっちゃ欲しいわ」

「なんで棒読みなんですか。私からのチョコってレアですよ。レア」

 私は、今までチョコすら作ったことがなかった。


「ありがたき幸せ」

 茶化すように返す先輩に少しイラついてしまった。


「まぁ、チョコなんて手作りできないんで適当なお菓子あげます」

「手作り期待したのになー」

「先輩なんかお菓子で十分です」

 先輩との会話は心地が良かった。なんとなくこの関係がずっと続けばいいなとさえ思った。


バレンタイン当日


 この日は、私も先輩も塾のバイトが入っていた。

 最後の授業を終えて、先輩にチョコを渡そうとすると先輩は色んな人からチョコを貰っていた。全部義理チョコだろうが、少しだけ嫌な気持ちがした。


 もう帰る直前の先輩を捕まえ私は、チョコをあげた。

「え?いいの。ありがとー。これ好きなやつだ」

 市販のチョコでも先輩は喜んでくれた。本当は手作りのチョコをあげたかったけど、失敗してあげれなかった。何回も練習したのに今日に限って失敗してしまった。

 先輩の驚く顔が見たかった。


 バレンタインの練習に必死で気がつかなかったけど、三日後が私の誕生日だった。

 いつぞやのボドゲカフェで遊んだ4人グループの連絡を見て気がついた。

 誕生日会を開いてくれるようだ。誕生日当日は私が塾のシフトが入っていた為、誕生日の次の日に祝ってくれるようだ。私はすごく嬉しかった。


 誕生日当日、私はいつものように塾にいた。誕生日に予定が入らなかった保険もかけて塾のシフトを入れていた。私は寂しい女かもしれない。誕生日だけれども祝われなかったことを考え、予定を入れることでただの日常として過ごしたかったかもしれない。


 塾に行けば先輩とも話せるので軽い足取りに塾へ向かった。しかし、この日先輩は、最後の時間まで授業が入っておらず、夕方になる前に帰って行った。


 ――なんか先輩がいないと楽しくないな。そう思いながら授業をやっていた。なんだか今日はやけに時間が長く感じた。


 休憩時間も誰とも喋ることなく、リフレッシュがあまりできないままやっとのことで最終コマの授業を終えた。


 精神的にすごく疲れた私はだらだらと帰る準備をしたら先輩から連絡が来た。

「バイトお疲れー。今ちょうど駅にいるから少しはなそー」

「ちょうど今、塾が終わりました!話しましょ!」

 一気にテンションが上がった。


 改札前に行くと先輩が待っていた。


「待ちましたか?」

 先輩がぼーっと改札の方を見ていたので袖を摘んで聞いた。


「ううん。待ってないよ。これあげる」

 先輩は片手に持っていたカフェの紙カップをくれた。


 お礼を言い一口飲んだ。私がいつも飲んでいるほうじ茶ラテだった。

「ん、これ好きなやつだ。先輩は私のこと分かってますね」

「俺が飲みたかったやつ買っただけ」

 先輩はたまに正直にならずにツンデレになる。


 それから私たちは、話すために公園に移動した。


 塾の休憩時間中喋れなかった分、私は先輩に今日あったことを色々喋った。


 けど、今日の先輩は少し様子が変で返事も上の空だった。どうしたんだろう。

「先輩聞いてます?」

 普段と様子が違う先輩の顔を見ている。何か緊張しているような様子だった。ちらっと先輩の左手側を見ると化粧ブランドの紙袋があった。私はもしかしたらと思って聞いた。


「そう言えば、今日私の誕生日ですよ?何かないんですか?」

 そう聞くと先輩は紙袋を渡して来た。

「二十歳の誕生日おめでとう」


 先輩も不器用な面あるんだなと思いながら驚くふりをした。

「本当にあったんですか?」

「二十歳って特別だからね。当日に祝いたくて」

 私は、この気持ちがすごい嬉しかった。けれど、それと私は本当に先輩に甘やかされてばっかりだなと思った。


「本当に嬉しいです。先輩には貰っちゃってばっかりだね」

「そんなことないよ、ほら、なんか話してるだけでも元気がもらえるし」

「適当に言ってないですか?」

「本心。本心」

 先輩の優しさに私は心が温かくなった。自然とプレゼントを強く抱いた。



「プレゼント見ていいですか?」

 私は、中身が気になったので聞いた。

「いいよ」


 私は、ドキドキしながら丁寧に一つ一つ梱包を外していった。


 開けたら、いいところのマキシマイザーとハンドクリームが入っていた。

 私は、思ったことをそのまま先輩に言った。


「なんかすごく女慣れしてません?けど、すっごく嬉しいです。あと、ハンドクリームもちょうど欲しかったんですよ!ありがとうございます」


 プレゼントを見たときは、誰にでも使えるようなものだったからいつも女の子にこれを渡してんだろって思ったけれど、色や匂いは私の好みだった。先輩のことだから私の好みを覚えていたんだと思う。

 そう考えるとやっぱり先輩からのプレゼントは嬉しかった。


「私、お返しに先輩の次の誕生日にハンドクリームあげます」

 私は、先輩に何かお返しがしたくてつい言った。来年になるけど、しっかり覚えとこう。


 それから、私たちは少し話して、公園を後にした。



 この日は、温かい気持ちになりながらベットについた。明日の誕生日会もすごく楽しみだなと思い目を閉じた。


私の誕生日会当日


 この日は、夕飯の時間にイタリアンレストランに集合だった。

 集合時間より五分早くついたら、先にあかねちゃんがいた。


「あかねちゃん珍しく早いですね」

「そうそう、間違って早くに電車乗った」

 あかねちゃんらしい理由だった。あかねちゃんはどちらかというと遅刻癖がある。塾もよく遅刻してた。


「そう言えば、先輩が集合時間ギリギリって珍しいですね」

「なんか川崎と出かけてるらしいよ」

「そうなんですね。二人で遊んでるんですかね」

「そうだろうね〜」

 会話しているうちに先輩と川崎さんが来た。


「ごめん。待った?」

「ううん、待ってないよ」

 先輩といつもこのやりとりしてる気がする。


 四人が揃い、お店に入って個々に料理を頼んだ。先輩オススメのお店なので楽しみだ。

 料理が来るまでの間、近況の話をしていたが、どこか先輩たちの様子が変だった。そわそわしてた。


 そうしたらあかねちゃんが赤い袋をカバンから出し、言った。

「誕生日おめでとー、はいこれプレゼント」


 私はとても嬉しかったのでお礼を言った。

「わー、ありがとうございます!今開けていいですか?」

「どうぞ」


 こういうバイト先の人、年上の人から誕生日プレゼントを貰うのが初めてで私はとても嬉しかった。楽しみに開けたプレゼントはメイクブラシとアイシャドウだった。


「あかねちゃん流石だよ。すごい嬉しい。センスいい!」

 思わず、あかねちゃんを褒めた。私がそう喜んでいると、川崎さんが次プレゼンを渡して来てくれた。


「ちょっと待って。ハードル上がる前にこれあげる。はい」


 川崎さんから受け取った袋を開けたら中身はギフトカードとブックカバーだった。正直、川崎さんから一体何を貰えるんだろうかとどこか緊張したようなワクワクしたような気持ちだった。勝手に期待しすぎちゃったかもしれない。――あかねちゃんの顔をチラッと見た。やっぱり信じられないような顔をしていた。


 ただ、誕生日プレゼントを貰えたことが嬉しかったので私は、ぎこちないお礼を言った。


「さっき買いに行って、結構悩んで買ったんだ。本読むの好きって言ってたし」

 川崎さんは少し照れた様子で言ってた。川崎さんの少し不器用な面を知った。ちょっと可愛いかもしれない。


「そうだよね。彼すごく悩んで一生懸命選んでいたよ」

 少し場の空気が悪いのを感じ取ったのか先輩はフォローを入れていた。こういう面でも先輩は器用だと思う。


 ――でも、そっか。さっきまで私の誕生日プレゼントを選びに言ってくれてたのか。そう思うと心が温かくなった。


 そんなことを考えていると先輩が笑顔で紙袋を渡して来た。

「誕生日おめでとう」


 まさか昨日に引き続き、先輩からプレゼントをもらえるとは思っていなかった。予想もしなかったことで思わず先輩の顔を見た。


 先輩は優しい笑みでプレゼントを開けるように促した。


「これ買おうと思ったんですよ!しかも、同じ匂いのやつ!」

 開けたら以前から欲しいって言ってた香水だった。――覚えてくれてたんだ。

 そう思うと自然に笑みが溢れた。


 その後は、塾のことを話しながら頼んだ料理を食べて誕生日会が終わった。


 帰りの電車はあかねちゃんと一緒だった。


「今日はありがとうございました。プレゼントまで貰っちゃって」

「どういたしまして、やっぱり四人で遊ぶと楽しいね」

「そうですね、また四人で遊びたいです!」

「私たちが社会人になっても集めれるといいね」


 あかねちゃんはそう言い、電車から降りて行った。


 電車で一人になり今日の誕生日会を噛みしめた。ーー人に誕生日を祝って貰えるのって嬉しいな。


 電車が最寄駅に着いた。上の棚の方に置いていたプレゼントをとり、両手に荷物を持ったまま電車を降り、改札をでた。


 改札を出るにも少し邪魔な荷物だったが、嬉しい荷物だった。外は寒いけれどプレゼントを見るたびに心の芯から温まる。


 私は、思わずお礼を言いたくて片手に荷物を集め、片手で携帯を持ち、先輩に電話をした。


「もしもし、もう家に着いたの?」

「いいえ、まだです。今日あまりにも嬉しくて電話かけちゃいました」

「かわいいやつめ」

「もうほんと嬉しいです。昨日も祝って笑ったのに今日もくれるなんて」

「二十歳って特別やからな」

 先輩はやっぱり人を喜ばせるのに慣れていると思った。


「貰ってばかりで申し訳ないです。何にも返せていないです」

「ありがございますって言葉だけで充分お返し貰ってるよ」

「そんなことないです。今年の誕生日絶対プレゼントします」


 それから私は先輩にいかに今日嬉しかったかを余すことなく電話で伝えた。先輩は相変わらず優しい声で相槌を打ってくれている。


 思わず、甘えてしまって今日少しだけ不満に思ったことを先輩に話した。


「ぶっちゃけ、誕生日プレゼント、ギフトカードとブックカバーでどう思いますか?」

 少しだけ意地悪目に聞いた。先輩は少し溜め、返事をした。


「ぶっちゃけ、あれはないな」

「そうですよね」

 私はそれから川崎さんへの文句を言った。本当はもっと私のこと考えてプレゼントして欲しかったとか、女心わかってないとか、先輩の爪を煎じて飲んで欲しいとか、ほんとなに考えてるか分からないとか。


 川崎さんへの愚痴が止まらなかった。先輩はなだめるように「どーどー」って言ってた。――私を動物と思っているのだろうか。


 そういえば、川崎さんにもお礼を言わないとと思い、先輩との電話を切った。


 少しだけ川崎さんに電話をかけるのは緊張した。けど、このテンションに身を任せ、電話のコールをした。


「も、もしもし」

 川崎さんはテンパっている様子で電話に出た。


「川崎さん今日はありがとうございました」

「あぁ、いやいいよ。どうだった、お、俺の誕生日プレゼント」

「嬉しかったですよ。ありがとうございます」

「本当に!?よかった」

 川崎さんは声を裏返しながら喜んでいた。嬉しいのはプレゼントを貰った私なのに。やっぱり川崎さんは可愛いなと思った。


 会話に変な間ができた。


「あのさ、もし良かったら暇な時みなとみらいに遊びに行かない?」

 川崎さんはこの誘うタイミングを考えてたかもしれない。不器用な川崎さんの急な誘いに私は乗って見ることにした。


「いいですよ。川崎さんはいつ空いてますか?」

「ちょっと、ちょっと待って」


 そうやって私たちのデート(仮)が今週末に決まった。


 二人に電話をかけていたら家に着いた。よく眠れそうな満足感と共に風呂に入り、ベットに行き、就寝しようとした。


 再び、今日の楽しかった誕生日を振り返った。こんなに心が満たされる日は久しぶりだった。また四人で集まりたいなと思い、意識を手放した。


 あかねちゃんは電車で別れる時にはもう気づいてたかもしれない。私が誕生日会の日が四人で集まる最後の日となってしまった。


 今思えば、あかねちゃんはこの時点で既に色々気づいていたのかもしれない。


続きます。

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