表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞4 投稿作品

喫茶『屋根裏』

 とある所に、古民家の屋根裏を改装して作った喫茶店があった。

 その隠れ家的な店に入る一人の女性がいる。


「いらっしゃいませ」


「初めてなんだけど、いいかしら?」


「ええ、お好きな席へどうぞ」


 (のり)の利いた白シャツに黒ベストのマスターに迎えられて、スーツの女性はカウンター席へ座る。

 店内はアンティークで(あふ)れかえる趣味の空間だった。


「当店はお任せのセットメニューのみですが、宜しいですか?」


「それで構わないわ」


()るところから始めますので、30分以上掛かります。お(くつろ)ぎになってお待ちください」


 マスターは女性を少し見やってから豆を選び、焙煎機に掛けた。

 ドラムの中でシャンシャンと回る豆の音が、古びたレコードから流れるジャズとのアンサンブルを奏でる。


「煎っている間は(わたくし)も暇ですので、宜しければお客様の話をお聞かせくださいませんか?」


「いいのかしら? 私の話は(ろく)でもない話ばかりだけれど」


「勿論です。それに、聞いて欲しそうな顔をしておりますよ」


「うふふっ、実はね、噂を聞いて珈琲よりそっちが目的で来たの。ごめんなさいね」


「お客様がご満足くだされば、目的は気に致しません」


「良かった。じゃあ、聞いて貰っていいかしら」


 女性は日頃溜めてた不満をとりとめもなく話し出した。

 マスターはしっかりと話を聞きながらも、自然な振る舞いで珈琲の用意をしている。

 女性が不満を全て吐き出し終えた頃を見計らって、()れたての珈琲とお手製のショートケーキを女性の前へ並べた。


「こちらは芳醇(ほうじゅん)な香りと深い(こく)が特徴のエメラルドマウンテンです。フルーティーな甘みがあり、ショートケーキの苺と良く合います。是非、ブラックでお召し上がりください」


 女性はケーキを一口食べ、勧められた通りブラックを試してみる。


「ブラック初めてだけど、美味しいわ」


「お口に合ったようで嬉しいです」


「ところで、このセットには特典がついてるって噂で聞いたのだけれど」


「ええ、ございますよ。お客様の願いを何でも叶える特典が……ニチャアア」


 当店、唯一のメニューの名前は『悪魔の契約』。

 人間は不満や(うら)(つら)みを口にした後、ほんの少しそそのかすだけで、真っ黒い欲望が簡単に生まれます。

 例えば、会社の上司に彼氏を奪われたと愚痴をこぼした女性は、その上司がこの世から居なくなることを願いました。

 その後、どうなったかは皆様のご想像にお任せいたします。

 ただし、私の店には同じお客様が二度訪れることはございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ