9 歩み寄る影 その1
末姫1歳の誕生披露があと4日に迫って来た日、アマンダは王城にいた。
末姫コレットのお披露目限定の侍女としてだ。
当日のお付きは5名、乳母1名・侍女はアマンダを含め4名いる。
1人目は姫が誕生後より遣えている乳母のリサ、2人目は末姫の従姉妹のタイミー、3人目は女騎士のレイチェル、4人目は乳母の補佐イライザ、5人目が伯爵家のアマンダである。
本来護衛以外にお付きの者が5名は多い。それには10日前の連れ去り未遂事件が関与している。
コレットの午睡中のことだ。げっぷでタオルが汚染したため、乳母が交換しに隣部屋のリネン室に移動している間に、3人の覆面をした者が入り込みコレットを抱き上げていたのだ。
姫を抱いている者に対して、乳母は緊縛魔法、結束結びで姫以外を固定した。紐に特別な魔力が仕込んであり、刃物は通らない。魔法で燃やすか魔力を込めた刃物でなければ、解除は不可能だ。
1人を捕縛した際、他2人は跡形もなく姿を消した。 直後、魔道具で救援を呼び、襲撃者は騎士へ引き渡された。
コレットに怪我はなかったも、乳母は自己の過失を詫びて職を辞そうとした。しかし即時に却下される。げっぷという不測行為の間で犯行があったことで、常に注視されていたことが判明したからだ。
そもそもリサ程、体術・魔法共に優れた乳母はいない。そしてコレットの母バイオレットが信頼している者も。
バイオレットはカルティス伯爵の次女だ。17歳と年若くコレットを出産した。そもそも伯爵は次女の結婚に反対であった。
王は52歳と年も離れており、正室の他に側室を4名も囲っている。妾も多数で婚外子もいるのに、男児が育たなかったのである。
そのため、最後の白羽の矢が立ったのがカルティス家だったのだ。
そこで男児が産まれなければ、民衆の支持高い敏腕宰相の王弟に王位を譲ることになっている。
さっさと王位継承すれば良いものの、緩い政策で甘い汁を吸っている王の側近貴族達が反発し、王を抱き込んでバイオレットを側室としたのだ。
年若いバイオレットは朗らか可憐で、王の寵愛を受けていた。苛立ちを隠せないのが正室のソフィアである。 ソフィアの第一子は男児であったが、虚弱で生まれ2歳で逝去。
その後第二子第三子と出産するも男児は生まれなかった。他の側妃とも子を成したが男児は育たずじまいである。
影にソフィアの噂もあったが、真偽は定かではない。
政略結婚ではあったが我が子は可愛らしく、バイオレットはコレットの日々の成長を愛おしく感じていた。
特に正妃・側妃と揉め事もなく、慣れないながらも懸命に過ごしていた最中だったのだ。
そのため事件後の不安は強く、しばらくは自室から出られない状況が続いていた。しかし既に招待状が各貴族家に届いており今さら中止できなかった。それならばと、警戒を厳重にすることにしたのだ。
襲撃者の聴取からコレットの連れ去りが失敗した際に、爆破装置が仕掛けられるということだが、どうにも脈絡がない気がする。
誘拐をしたなら身代金や犯人の要求を交渉してくることは考えられるが、爆破は単純な破壊行為である。
もし爆弾を仕掛け爆破されたくなければ、指示に従えという要求ならば、まず前提として爆弾を仕掛けることが必要である。
今回のことで益々警備が強化され、怪しい人物・物質の侵入は阻まれる可能性が高いと考える。
さらに毎日、魔法士が危険物がないか定期的な見回りを行っており、爆弾があっても事前に発見される可能性が高い。
そしてもう一つの懸念は、バイオレットがソフィアの嫉妬を買っていることである。表面化していないがソフィアの侍女は、ソフィアから嫉妬の捌け口のために暴言・暴力を日常的に受けているという調査報告をアマンダは受けていた。
王に対しては物分かりの良い有能な正妃と思わせるために、醜聞は見せないようにし、見えない所で憂さ晴らしをしているようなのである。
連れ去り犯の目的は明らかではなく、テロ・金銭目的・怨恨・王弟への譲位希望等可能性は多数だ。今回の騒動に乗じて、さらなる暴動が起こる可能性もある。
現在の王政に反発を持つ者も多く、市政に不満が充満していた。
「誕生披露会、可愛いコレットは私が守りぬくわ」
アマンダはコレットの頬にキスを落とし、固く誓ったのだ。
まだ爆弾が見つかっていない今、捜索範囲を拡大する必要がある。今夜は庭園から森林地帯にかけて、人知れず調査する予定だ。




