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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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記憶を失ったアマンダ

 ポリフェノールはアマンダに詳細を知らせぬまま、ファイン達に代理当主をさせることを承諾させた。


 受けなければ歴史ある伯爵家が維持できない現実と、彼らの身に危険が生じると突きつけられれば、逆らうことが出来なかっただろう。


 特にファインは逃げられない。

 本来は自分が背負う筈だった影の当主と言う役割。結婚前にはポリフェノール伯爵家が特殊な立場であり、国の礎の一つとなる為、特殊訓練も必要であり重責を伴うと説明もしていた。

 娘エリーゼがいくら可愛くても、それを誓わずしてポリフェノール伯爵家に婿へとは迎えられない。


 結果として、

 エルンストの説明に、確かにファインは応じたのだ。


「歴史ある伯爵家の当主になれるのなら、努力する所存です」と、しっかり前を向いて。


 だからこそそれを信じ、エリーゼの婿として、次期伯爵家当主として認めたと言うのに…………。


 裏を返せば仕事からも訓練からも逃げ出し、愛人に逃げた。さらに愛人に子まで生ませ、離縁をするとも言わなかった。


 エリーゼがファインを愛し、離縁を拒んだと言われればそうなのだが、拒む以前にファインは何もしていない。

 謝罪も離縁の打診も。

 エリーゼに離縁を考えるように言ったのは、エルンストなのだから。



 実際にファインは次期伯爵家当主になるのだから、愛人の1人くらい許されると考えていた。

 それはエリーゼの愛と言うなの執着の上に成り立った、いつ崩れてもおかしくないものの上に……。


 ファインのことだけを考え、娘より夫への恋に身をやつして窶れ、流行り病であっさり逝った乙女のままのエリーゼだった。



 母を亡くした後、アマンダからのファインの価値はないも同然だった。彼女が彼に対し少しでも殺意を見せれば、リプトンかダージリンが瞬時に始末しただろう。


 だがそれを止めたのは、アマンダ自身だ。

 彼女はファインとジンジャー、マリアンヌが伯爵家に初めて訪れた時から、作戦を開始していた。


「本日現時点より、プロジェクト硝子のマスカレード発動よ」と、リプトンとダージリンに告げていたのだから。


 着々と計画が進み協力者も多く得られ、王国の問題が片付いた時に行う筈だった計画。


 それはアマンダが任務中に怪我で負傷し、その際に一時的に記憶が混乱し、記憶の喪失が起きてしまう計画。伯爵家の執務は未だに殆どをアマンダとリプトンで熟している為、ファインには理解不能なことが多い。


 だからこそアマンダが療養中に執務が行えず、ファインで手に負えなくなった(アマンダが裏で操り、わざと多額の損害を生じさせた)時、協力者にそれを噂にして貰う予定だった。 


 実質の損害等は、アマンダの采配によりいくらでも回収は可能なので心配はない。


 それによりファインには責任を取らせ伯爵代理を剥奪し、代わりの後継人を(形だけ)王家から派遣して貰い、アマンダが今まで通り伯爵家を掌握していく。ファインとジンジャー、マリアンヌ達は伯爵領地へ隠居させ、無能の烙印を押してやる予定だった。



 それが、だ………………。

 前世を思い出してしまい、会う予定のなかったエルフのポリフェノールに出会い、今に至る。彼女(ポリフェノール)はこの作戦を少し弄り、実行に移すことにしたのだ。




◇◇◇

 リプトンと共にリーディオの邸で過ごしているアマンダのところに、ポリフェノールが訪問した。

 今アマンダのベッドには、変身魔法をかけられたポリフェノールの仲間が代わりに眠っているそうだ。



 ポリフェノールはアマンダを裏の仕事から解放し、好きに生きて良いと言う。



 アマンダの前世であるアルバが焦がれて止まなかったバルデス(現在のリーディオ)と巡り合わせてくれ、共に過ごす時間を与えてくれた彼女。

 さらにこのまま、ずっと一緒にいても良いと言う。



「アマンダがリーディオと生きたいのなら、このままお前とリーディオ以外の関係者の記憶を書き換えよう。元からアマンダはポリフェノール伯爵家の令嬢ではなく、適当な子爵家の娘だったことにして、リーディオと結婚させることも出来るぞ。

 元々ポリフェノール伯爵家は、お前達を見つけやすいように(ポリフェノール)が立ち上げた家だ。


 代々の当主が転けそうな時は、(ポリフェノール)が手を回して守って来た。だからもしエルンストが死んでも、遺体を隠して私が彼に成り代わるつもりだった。

 目を離しているうちに、お前が当主になってるなんて思わなかったよ。けれどそれがお前の望みだったから、手は出さないでいたんだ。悪かったな」


 そう言われても、アマンダからの恨み言はない。


「あの時はあれが最善だと思っていたの。きっと前世でずっと守られていただけだから、今度は頑張りたいと考えたのだと思うの。勿論前世のことは思い出していなかったから、きっと無意識のうちにね。……今は逃げなくて良かったと、心から思っているわ」


 微笑むアマンダに、ポリフェノールも安堵の微笑みを返す。

「強くなったな。エリーゼとエルンスト、リプトンとダージリンに愛されてきたお陰かな?」


「たぶん、そうなのかも? 多くの人に守られて愛されて来たから、その幸せを守りたかったの。自分の力で。辛いこともあったけれど、みんなのことを思って戦えて幸せだったわ」


「そうか。でも……今の伯爵家は必要かい? エリーゼもエルンストもいなくなった。もうお前が守る人間はいないだろう? 家門を背負うのも寄子貴族を守るのも、お前じゃなくても良い筈だ」


「そう、ね。でも辞められなくて、頑張ってきたわ。代わりなんてたくさんいるのにね」


「ああ、その通りだよ。代わりはいる。だからもう、重荷を降ろすんだ。お前はただ幸せになりなさい。辛い記憶も全部、私が背負って行くから」



 ここにいるのはアマンダとリーディオ、リプトンとポリフェノールの4人だけ。

 今後どうするかを考えて欲しいと言って、ポリフェノールは去って行った。



「アマンダの好きに決めて良い。もし今までの記憶を君がなくしたとしても、僕はずっと守るから」

 リーディオはアマンダを安心させるように、優しげな眼差しでそう言った。


「それは私もですよ、お嬢様。老い先短い身ですが、それが前世からの私の宿願ですので、お仕えさせて下さい」

 リプトンも頭を下げて、笑顔でそう告げるのだった。




◇◇◇

 数日後、アマンダは覚醒した。

 けれどその記憶は曖昧なままで、自分の名前と母と祖父、リプトンとダージリンのことをおぼろ気に覚えているだけだった。


 医師とリプトン、ダージリンと共にアマンダが話していると、ドアをノックする音が聞こえた。



「アマンダ、痛みはないのか? 良かったな!」と、息を切らして声をかけるファイン。


「誰ですか? 王宮の方ですか?」

「えっ!? 何を…………」


 けれど駆け付けたファインのことは分からず、それはジンジャーとマリアンヌのことも同様だった。


「お父様ですか? そうですか……。そちらの女性は誰ですか?」

「こちらは私と再婚したジンジャーと、娘のマリアンヌだよ。伯爵邸で共に暮らしていただろう?」


 焦りながら説明するファインと、不思議そうに訪ねるアマンダ。


「そうですか。何だか申し訳ありません。これから思い出せると良いのですけど……」

「そんな…………」


 事情を知らない王宮の使用人達は、アマンダが記憶を失ったことを知らされてない。

 けれどファインの悲痛な声だけは、ドアの外に漏れ聞こえることになるのだった。


 

 アマンダの記憶喪失を知る者は国王と担当医、リプトンとダージリン、そしてファインとジンジャー、マリアンヌだけの秘密とされた。


 その後国王は、アマンダを療養地へ送ると決断した。

「こんな状態では危険が高過ぎる。即刻リプトンと共に、私の指示する秘匿されし場所へ向かいなさい」

 その言葉で王宮に派手ではない普通の馬車が用意され、2人は乗り込んだ。


「よく状況が飲み込めていませんが、これは王命だそうです。お父様はご心配なさらないで」

「お嬢様のことは、私の命にかけてお守りします。では出発致します」


「あぁ……僕はまだ、謝れてもいないのに。アマンダぁ、体は大丈夫なのか?」


 混乱したのはファインもだった。

 さらにジンジャーとマリアンヌのことは、僅かも覚えていないと言う。


「確かにいつものアマンダじゃなじゃったわ。憎しみも虚無もなく、普通に知らない者を見る目だった。申し訳ないと謝る様子も、本当に困った感じで……」


「忘れてしまったのね、私達のことを。でもファインのことまで忘れるなんて……確かに顔も合わせてなかったけれど……。私達がずっと、独占してきたせいね」



 ずっとライバル視してきたマリアンヌは、アマンダに忘れられたことにショックを受けていた。

 ジンジャーは申し訳なさでいっぱいだった。


 相手にされず泣き崩れるファインに、国王も医師もダージリンも自業自得だと思うだけで声をかけることもない。そもそも同じ年の異母妹と元愛人の継母なんて嫌悪しか抱かない為、思い出さない方が良いだろう。



 この時のアマンダはポリフェノールだが、それに気付く3人ではない。付き合いも浅い為、見抜くこと等出来なかった。


 こうしてアマンダが離脱し、彼らのポリフェノール伯爵家の影の当主代理は今後も続いていく。時に大怪我を負いながらも魔法で癒され、冒険者時代の勘が戻ったファインとジンジャーは戦力になっていた。詰めが甘くてまだ時々、ダージリンがフォローに回っている。

 戦闘力ではまだ役立てないマリアンヌは、懸命に学んだ知識や友人らの人脈を使い、表から支援をするのだった。


 1年が経過した頃、監視役も兼ねたダージリンから王の書簡が渡されたファイン。

 

『代理当主ファインを、正式に表と裏のポリフェノール伯爵家の当主と認める』

 そう王命の記された書類が、届けられたのだ。



 ダージリンはアマンダと共に行けないことを悔しく思ったが、前世の記憶を思い出した今、前世の母アミールと前世の妹ミストを見捨てられずにいた。


 特にマリアンヌは守りが弱く、時々刺客から狙われていた。拐われてしまえば、確実にポリフェノール伯爵家の弱味になる。それでなくとも、前世の妹を危険に晒したくなくて、守ってしまうのだから。


「本当に母さんは、何でファインなんだろうな。男なんてたくさんいるのにさ。やっぱり顔かぁ? エリーゼ様もこの顔のせいで、離縁出来なかったんだもんな。クソッ、スケコマシめ!」



 それにアマンダの気持ちにも気付いてしまった。

 彼女はリーディオが好きなのだと。


「見る目ないよぉ、お嬢は。今世なら、バルデス様より俺の方が格好良いのにさ。まあお嬢は、顔より心だからなぁ。好きだったのに……くっ」



 そんなダージリンの気持ちは届くことなく、彼の初恋は儚く幕を閉じたのだった。







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