52 魔法師団長の苦悩
アマンダからの協力要請で、彼女が不在の際に王国の王宮警備をしていたステナ達。
そしてその期間での怪しい者の調査がおおまかに終了した。
だがアマンダを目の敵にする王宮の悪だぬきの尻尾は、まだ掴みかねている。
ステナ・シュパル・ドリップ・コレーは、メイドや従僕、文官として潜入し情報収集。アマンダの部下の暗部からの情報も得て、分析していった。
イノディオン家失脚後、我が国の貿易業の一部を取り扱うことになったクレッセント商会へも情報網を張り巡らせた。元々商売で培ったネットワークはあるので、そこから細かい人海戦術を駆使する。
ステナが以前テロの為に、数年間に渡り密かに集めた仲間達。
『前王の御落胤』
その線で調査した結果、足取りも掴めず出自自体、名乗った家門自体が合致しない者が数名いた。
その人物の年齢・性別・目の色・髪の色・人相・体格等を分析し、該当人物を割り出す。姓名や生年月日は偽装している可能性がある為、参考程度で確定事項には入れずにチェックしていく。
多くの人物は、実在の者と該当していた。
悪質なのは、国王の庶子の周囲にいて、成り代わった者だ。
庶子らの背景を知りながら、身分を騙っていたので解りづらい。
微力ながら魔力もあれば、迷うところだ。
実際にステナ達も、それに騙され仲間にしていた。
だが調査の為に、初めから疑って観察していけば見抜けるものだ。私情を挟まずチェックすれば簡単に解った。
問題は誰の指示で偽ったのか。
そこはさすがに、まだ調査中だ。
依頼者に姿を晒すことなく、間あいだに人が入り、依頼者に辿り着かないようにされていた。
危険分子かどうかの振るい分けだけはできた形。
但し、調査上で現在役職に就いている者の中に、過去に潰した家門の者を発見した。
魔法師団副師団長、グウェン・ポルトコル。
本来の名はグラジラス・サクレットだった。
父のサクレット子爵は、貿易業で莫大な資産を築いた成金貴族だった。金の為なら、御禁制の品にも手を出す野心家だと言われていた。
子爵が失脚したのは、ダラントス大公に依頼された御禁制の品に手を出したからに他ならない。
密輸された品物から疫病が感染し、積み荷が着港したことで疫病が町を壊滅させたと言われていたが、実は拐ったダークエルフの呪いが発動したのだった。
ダークエルフのことは公にできず、大公の罪は公開されていないが、既に王城に引きずり出され死罪となっている。成人している大公家の者も連座である。
今のダラントス大公らは、影武者だ。
過去に貴族の被害を受けた平民達が、誓約と共に顔も整形し、アマンダに忠誠を誓い成り代わっている。勿論マナーや教育、交遊関係等も死ぬ気で学んでおり、付け入る隙はない。
混乱を避ける為、大公の成り代わりは、前国王と現国王・魔法師団長・騎士団長・アマンダと暗部の一部にしか明かされていない。
※秘密保持の困難な前王妃ソフィアには秘匿し、現王妃にはまだ伝えていない
……だから今も詳細を知らないのだ。
魔法師団副師団長、グウェン・ポルトコルは。
サクレット子爵嫡男だったグラジラス(グウェン)は、力のある大公を残してサクレット家門のみを没落させたと思っている。
力なき者だけを断罪し、収めたと思っているのだ。
全てを知って見守っている魔法師団長マードック・ガルメシアは、いつもグラジラス(グウェン)を案じていた。
彼の無念が、復讐心を強くしないように。
父親のように見守ってきたつもりだった。本当のことは誓約で外部に話せない。グラジラスにも言えないのだ。
しかし今回の調査で、ソフィア付きの侍女メロウと接触し、アガサ・マグダーリン公爵令嬢にも接触を図っていることを知った。
どう考えても、何らかの意図を感じる。
今は何も起きていない。だが女性達が、これから何かを仕出かせば、グラジラスの関連が疑われるだろう。
そして、如何にも奇妙な組み合わせである。
「グラジラス。お前は、お前だけは生き延びて欲しいんだ。余計なことはせずに幸せになれっ」と、切な気に呟く。
魔法師団長マードックは、亡きサクレット子爵と悪友だった。
ちょっと不良っぽいマズル・サクレットはいつも女連れで、剣術の鍛練を欠かさないマードックを会う度にからかっていた。
「そんなに訓練ばかりで、楽しいのか?」
マードックは、動きを止めず答える。
「ああ。強くなれると思えば、心が弾むよ」
「マジか? 変わってんなぁ。でも辛いんじゃないなら良かったよ」
微笑んでいるマズルに嫌みはない。
「俺の兄貴さぁ、親の期待を背負って、頑張って頑張ってさ。無理して風邪を拗らせて、あっさり死んじまったんだ。それ見てたら馬鹿らしくて、この有り様さ。あんたから見れば、俺なんてクソだろ?」
おちゃらけて話すマズルへ、マードックは鍛練を止めて答える。
「人にとって、何が大事かは違う。お前が大事なのが恋愛なら、それで良いだろ? 人と比べなくて良いじゃないか」
真剣に伝えてくるマードックに、マズルは戸惑った。
「ああ、そうだ、な」
マズルはただ、親に逆らっていただけだった。
努力を惜しまず、自分にも優しい兄が死んでしまって。
その悔しさを親にぶつけていたのだ。
不真面目な自分に真摯なマードックに、マズルは謝り友人となった。それからはマズルも女性とは距離を取り、子爵夫人となったマリカとは真剣な交際で結ばれた。
ただ家の事業だけは受け継いだ客層のこともあり、親からの方針に逆らえなかった。ダークエルフのことも、長く付き合いのある大公からの依頼で断れなかったらしい。たぶん断れば、その時点で秘密隠匿の為に潰されただろう。逃げられなかったと思う。
「俺に何かあれば、家族のこと頼むよ」
ある時、真面目な顔で言われた台詞。
「ああ、任せろ。俺は独身だから大丈夫だ」
微笑んで言えば、助かるよと弱々しい呟きがあった。
眠れていないような顔色の悪さだった。
仕事が忙しいのかと心配していたら、後日ダークエルフの事件に繋がった。
結局夫人も助けられず、グウェンもグラジラスと名を変えて養子に行った。俺は何もできなかった……。
だから祈るのだ。
復讐等しないで、両親の分まで生きてくれと。
不甲斐ない自分には、見守ることしかできないと目頭を押さえるマードック。
彼は魔法師団を止め、グラジラスに寄り添おうと考えていた。止めたとしても真実は伝えられない。だけどもう、これ以上グラジラスを1人には出来ないと感じていた。




