51 前世からの気持ち
アマンダが軽く傾眠後し、ぼんやりしていた午後に手紙が届いた。
リプトンが執務室で作業するアマンダへ、ボードに乗せた手紙を見せる。
差出人は、リーディオ・サントマイム伯爵。
「お嬢様、希望していた手紙が届きましたぞ。今、開封致しますか ?」
にこやかなリプトンに、表情が強ばるアマンダ。
あれから接触を図ろうとしていたが、他のことを優先させて触れずにいた。いや、恥ずかしさが強く、戸惑って後回しにしていたのだ。
そんな時に、相手からの先制の連絡が来たのだ。
いくらアマンダでも緊張してしまう。
仄かに好意を持っていたアルベルトとは違う、あの事件で初めて出会い、気になった男性。そして前世で共に暮らしていた人に対して、どうしたら良いか解らないのだ。
他者達の愛憎は腐るほど見てきたし、母や父、義母に対しての気持ちはやるせなさしかない。
『何故、キッチリ白黒着けないのか』と。
はっきり言えば、今世は生きることに精一杯で、愛されるようなことにあまり免疫がなかったのだ。
さらにアルバとバルデスも、どんな関係かと言われると ? となる。あのまま大人に成長すれば恋愛の可能性もあったが、あの時は違うと思う。
たぶん家族愛としての好きなのだ。
そして前世の気持ちが戻った時、それは今世では得られなかった穏やかなもので、是非に戻りたいと思ってしまう気持ちを抑えられない。
気持ちが、アルバに引き寄せられているようだ。
でも嫌な気はせず、何ともくすぐったくもある。
リーディオ(バルデス)が同じ気持ちかは解らない。
前世バルデスは大人で、アルバは守護されていた子供でしかないかもしれない。
でも……… もし今後も会ってくれるなら、交流してくれるなら、こんなに嬉しいことはないと思うのだ。
そんな戸惑いの中、手紙の封を切って貰う。
危険がないか確認後、リプトンがアマンダへと便箋を渡す。
内容を読み終えると、赤面するアマンダが俯いていた。
「アマンダ様へ
突然のお手紙お許し下さい
先達ては、私共のことで御助力ありがとうございました
今はだいぶん落ち着いたところです
貴女のお陰で醜聞は外に出ず、父から家督を譲られ無事に伯爵となりました
覚えることもたくさんあり忙しいですが、母が守ってくれた場所を今度は自分が守ろうと頑張っています
ここで話は変わるのですが、ポリフェノールが夢 ? に出てきて、前世のことを思い出しました
変なことを言っていると思われれば、ここで捨て置いて構わないのですが、もし貴女も思い出しているならば会いたいです
会って話をしたいです
俺は貴女に、アルバにお礼を言いたいのです
命懸けで命を繋げてくれた貴女に
そして謝りたい
貴女の命を奪ったことに対して
でもそれだけじゃなくて、アルバが生きていることを確認したいんだ
アルバじゃないことは解っているんだけど、記憶が戻った俺からすると君はアルバでもあるんだ
変なことを書いている気は十分承知している
でもこれだけは伝えたくて
アマンダ様の君も美しくて眩しいが、アルバのことは何より大事だったんだ
守れなくてごめん
守ってくれてありがとう
連絡が欲しい
多忙だろうから急がせたりしない
いつまでも待ってる
でも、もし、関わりたくないなら、一言教えて欲しい
そうしたら、もう関わらないつもりだ
何れにしても連絡待ってます
リーディオ・サントマイムより」
リプトンが、レースのハンカチをアマンダに渡す。
アマンダは微笑みながら、泣いていた。
嬉し泣きだった。
「バルデスが会いたいって、私に会って話したいって。私のことが大事だったって………………」
意識は完全にアルバに引きずられていた。
だけど、全然嫌じゃない。
これはアルバに必要な言葉だった。
同じ魂であるアマンダにとってもだ。
傷ついて欠けて封印されていた部分の魂は、今封印が解かれて喜んでいた。
アルバとバルデスは、あの時の気持ちをお互いに伝えていく必要がある。傷の補修の為の作業と言ってもいい。
それがどんな愛でも、共に過ごし話し合うことが必要なのだ。
ポリフェノールは、特にどうしろと伝えていない。
アルバとバルデスの気持ちが満足すれば良いことだから。
もしその後に離れても共にいても、それは今世の2人が決めることだから、口は出さない。
アマンダは早速手紙を書き始めた。
『会ってお話したいです』と。
リプトンは、微笑みながら新しい紅茶をテーブルに置く。
アマンダは気づいていないが、記載中はいつもの緊張した顔から一転、満面の笑みになっていた。
それだけで、その場は幸せが満ちていたのだ。
ダージリンは入室せず、執務室のドアに凭れていた。
どうしても入る気になれずにいたのだ。
「アルバにはバルデスが必要だ。けど、アマンダは違うだろ」
どうしても、表情が歪んでしまうダージリン。
彼は、アマンダを1人の女性として愛していた。