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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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46 影が囁く

「アガサ・マグダーリン公爵令嬢が、王太子妃候補へ立候補するらしい」


 どうやら元々決まっていた、サンガストン伯爵家への嫁入りを蹴って挑むらしいと社交界では噂に上った。   

 サンガストン伯爵家は魔石の採掘で潤い陞爵も打診され、アガサに(こだわ)る理由は婚約当初より薄くなっていた。 

 また婚約者のエキューにしても、アガサに当て付けるように浮気を繰り返していたことも有名だった。 

 まあ、理由は理解できる。



 ただ家柄は公爵家で高いものの、王太子とは従妹となる間柄。

 血の近さは否めない。

 だから、それをも補うものが必要だった。


 年齢はリンディアスが15才、アガサは14才と丁度良い。

 しかしこの年齢で、婚約者がいない貴族令嬢が多数存在した。


 アガサ以外で元々婚約者がいない令嬢筆頭が、サクラ・カザナース侯爵令嬢(14才)だ。

 我が国有数の資産家令嬢で、グラナダリア国に厚い商売基盤を持つ貿易商が生家。 

 もし我がクラプフェン国で商売が傾いても、向こうで支障なく営業できる程、資産分散もできていると言う折り紙付き。


 他にも、薬草学で隣国へ留学していたマルガリータ・ルーニア侯爵令嬢(16才)。

 医師として辺境伯領に従事しているエミリア・フローニ伯爵令嬢(19才)。

 ちょっと年上(21才)も、オペラ歌手をしているマリーネ・ギンビース伯爵令嬢。

 何れも美しい部類に入る御令嬢だ。

 自立している感の女性が多いが、王太子妃に興味があるか否か?


 年齢差は生じるが、5~8才でまだ婚約者が決まっていない伯爵令嬢2人、侯爵令嬢1人もいる。


 特殊枠で、アマンダ・ポリフェノール伯爵令嬢(14才)。

 異母妹のマリアンヌ・ポリプレン子爵令嬢(14才)。


 ポリフェノール伯爵家は、今までアマンダ令嬢が後継なので名もあがらなかったが、ここに来て義妹の登場だ。 

 義妹がポリフェノールの籍に入り後継となれば、あるいは?


 また逆に、義妹がポリフェノール家や他の上位貴族の養子に入り目指すことも出来るのでは?

 母は子爵でも父は元々伯爵家だ、問題ないはず。


 いつの時代にも、大きな催しには人々の目が向けられ、勝手な妄言が交わされる。

 ひっそりと、対象者の耳に入らぬ囁きで。

 下世話なマダムが発言するのは、また別。

 いやそれさえも、時として考え抜かれた刺激(スパイス)にもなるからだ。

 享楽者は楽しんで、自ら賭けの対象をからかうこともある。



 上位貴族当主達はアマンダは除外して考えていたが、他の貴族は勝手な予測にアマンダとマリアンヌを投入させていた。

 2人とも素晴らしく美しい、そして容姿も似ている。


 後は令嬢達の気持ちと、王子の好みだろう。

 最悪、王命での王太子妃指名もできる。

 しかし、醜聞故に国王を変更した今、穏便に済ませたい気持ちは強い。


 その為、王命など使わずに立候補してくれれば良いが、自分の夢や王族に加わる重圧等もあり、一筋縄とはいかないだろう。


 その場合、アガサは既に候補している点ではわかりやすいが、血の影響を鑑みて順位は下がるだろう。


 そして家柄以外に突出していないことは、アガサ自身解っていた。

 高い矜持を持てども、傲慢ではない。

 美しさでは、アマンダやマリアンヌには敵わない。

 取り立てて誇れる特技もない。

 王太子妃に必要で、周囲にも誇れるもの。


「魔法が使えると言っても、下級の火魔法程度。魔力量も増えない。せいぜいファイヤーボールしか出せないわ。なにか誇れる力がいる」


 頭は悪くないのだが、如何せん人に頼れない性格も難だ。



 悩むアガサに、魔法師団副師団長グウェン・ポルトコルという男が声を掛ける。

「お前を王太子妃にしてやろうか?」

「えっ!」


 アガサは自分の声で、我に返った。

 ここは寝室。 

 自分は眠っていて、部屋には誰もいないはずなのに。

 妙にリアルな声だった。


 夢の男は目覚める前に、アガサにある提案をした。


「俺の名はグウェン・ポルトコルだが、幼き日の名はグラジラス・サクレットと言う。ポリフェノール家門に滅ぼされた末裔だ。俺は復讐を遂げる為に君の力が必要なんだ」と。 


 濃緑のボブヘアと黄土の瞳を持つ、細身の美丈夫が悲しく会話を続ける。 


 190cm程の長身の男は、寝ている自分(アガサ)を直立したまま見下ろし、坦々と話していた。

 自分よりも年上、20代後半の大人の雰囲気があった。


 最後にと深く息を吐き、「手を組むつもりなら、君の名を書かずに俺宛に手紙を送って欲しい」と言う。

そして姿を消す夢を見たのだ。



「ポリフェノール家のせいで家族を亡くしたサクレット家か……」

 翌日アガサは、王立図書館へ向かう。

 過去の貴族の事件について調べる為に。

 侍女に調べさせることも可能であったが、何となく秘密裏に進めたい気持ちがあった。

 半信半疑の夢ではあるも、何故か真実だと思えたからだ。


 そして見つけた小さな記事。

 港のある小さな町が密輸品から出た疫病に罹り、一夜にして壊滅状態に陥り、当事者のサクレット子爵一門が処刑されたと。

 内容に対しての記事が異様に小さい。 

 これは何らかの力が絡んでいる証拠。 

 隠蔽してしまうよりこうして記事を出すことで、察しろと言うサインなのだ。


 それを確認してから、平民が使う郵政公社へ出向き手紙を出した。 

 勿論、お付きの従者には門で待つように指示してから。 

 訝しく思った従者だが、銀貨を数枚渡され口を閉じた。 

 下手に逆らえば割りを食うのを知っていたからだ。  

 ただこの時、この従者が少しでもマグダーリン公爵家に忠誠を誓い、当主に報告できていたなら……。





 そして手紙を受け取った夜、グウェン・ポルトコルがアガサの寝室に現れた。

 前触れもなく、ドアも開けず忽然と。

「やあ、アガサ令嬢。今夜は良い夜だ。新月は姿を隠せて楽に移動できたよ」


 長身で黄土の双眸が、ベッドサイドで読書をする彼女を見下ろした。

 一瞬の戸惑いはあったが、敢えて顔には出さずこう答えた。


「夜間に前触れもなく女性の部屋に現れるのは、殺されてもおかしくない所業よ」


 それを見たグウェンは、逆に驚いていた。

 生粋の公爵令嬢と聞いたが、肝が座っている。

 思った以上だ。


「これは失礼しました」

 そう言うと跪き「御無礼をお許しください」と、アガサの手の甲に恭しくキスを落とす。

 

 エキュー・サンガストン伯爵も、そういうマナーだけは欠かさない男だったので、このような扱いは初めてではない。 

 初めてではないが、闇の中で年上の男が謝るのはドギマギする。


 アガサは許すと伝えると、青年は微笑み今後は彼女の両手を握り締めた。 

 アガサはびくっとするも、青年は離さなかった。


「君は王太子妃になりたいのだろう? ならばいろんな面で最善を尽くすべきだ」

 くつくつ笑い、初いアガサを挑発する。


「な、何を……」

「閨房術だって学ばないと。これは王太子殿下用だけどね。だって君、ちょっと触れただけでこんなに緊張して、見目麗しい殿下とちゃんとお喋りできるの? チャンスなんて限られてるんだから」


 アガサは思う。 

 遠目で見ても美しく思えた殿下。

 婚約者のエキューとも必要以上の会話はせず(エキューが来ないのもあったが)、男への免疫がない自分(アガサ)。 

 せめて異性と普通に会話出来なければ、機会(チャンス)を失いかねない。


「そうね。喋れないわ、貴方が練習に付き合ってくれるの?」

 アガサは素直に青年に問う。


「勿論ですとも」と、頷き返答がくる。


「ねえ、貴方のことグウェン様と呼んで良いかしら?」

 貴方と言うのも、言いづらく青年に再度問う。


 青年は暫く考え、「グラジラスと、グラジラスと呼んでくれないか?」と。


「ええ、そうするわ。ありがとうグラジラス様」

 アガサは青年の生い立ちを聞いていたので、素直に応じる。


「僕の方こそ、ありがとう……」

 グラジラスの双眸から、涙が溢れた。

 本当の名前、忘れられた名前、呼んで欲しかった名前を呼ばれて、心が揺らいだのだ。


「あっ」

 無自覚だったグラジラスは、袖で涙を拭う。


 アガサは、ハンカチを慌ててグラジラスの目元に当てた。

「赤くなるわ、擦っては駄目よ」


 その言葉に背を向け、渡されたハンカチで涙を拭うグラジラス。

 涙が収まると、急に話し出す。


「ええと、ありがとう。でもね、君は僕の計画に必要な駒なんだから、今からいろいろ頑張ってもらうんだからね。解ってる?」


 突然、真面目(シリアス)口調になり取り繕うグラジラス。


 アガサは可笑しくて、小声で笑ってしまう。

「ええ、ええ。こちらこそよろしくお願い致します。グラジラス様」


 照れ隠ししながらも、今後の計画を話すグラジラス。


「アガサには、これから5か国語の習得と、魔法の修練をしてもらう。語学は今後の君の武器になるだろうから。そして魔法は僕が影で力を使う。君はそれっぽく合わせる練習をするんだ」


「? よく解らないわ。語学は頑張るけど、魔法を合わせるって?」


「うん。くふふっ。はい、それは君の嫌いなインチキと言う奴です。今から正々堂々とやって間に合うとは思ってないだろ? 何でもやるって言ったよね。疑うなら録画装置で、見てみる?」


 横に何度も首を振るアガサ。

「解ってるわよ! インチキでも何でもするわ、私には後がないのだもの」


 うんうんと、頷き話し出すグラジラス。

「魔術を見せる時は、俺が隠れてこっそり発動する。 君は何も語らず披露するだけで良い。解った?」


 頷くアガサ。


「何と言っても、魔法師団副師団長だから、僕。そして協力者もいるから、いつでも君と一緒に居られるよ。まあ来るのは夜だけにするけど。 

 ただ30日に1回の新月の夜は、外に出て魔力の合わせをしよう。その時は外でデートだよ」


 軽すぎるグラジラスだが、アガサは何だか楽しくなった。


 こんなに心を開いて話をしたのは、何時だったか思い出せない。


 巻き込まれている予感はするも、流れに身をまかせるアガサだった。 


「グラジラスもイケメンよね。本人に自覚ないようだけど」と知らず微笑む。





◇◇◇

 首都から離れたソフィア元王妃の療養地に、今もメロウは付き添っている。城から付いて来たのは彼女だけ。


 調理や掃除は通いの者に依頼し、彼女は正気を失ったソフィアに献身を尽くす。


 まだ常時の監視が、交代ながらも1名張り付いている状態だ。



 今は亡き元国王(ラメル)は、側妃モーリンとその娘ステナを一番愛していた。

 ラメルは口ではソフィアに、愛を囁き感謝もしていたが、それは単に政務(公爵家の権力を使い強行することも含む)を無事に行う為の義務のようなもの。 

 悋気を見せなければ、向こうに入り浸りで過ごしただろう。


 (ソフィア)様が王を殺したことは事実。

 でもあの男(ラメル)は、それだけのことをしたのだ。

 不敬と言われてもどうでも良い。

 ソフィア様に仕事を丸投げし、表の仕事も裏の仕事も出来ない無能な男。 

 挙げ句の果てに平民女を連れて来て寵愛し、子まで作った。 


 確かに苛烈な部分もあった(ソフィア)様だが、矜持(プライド)を守ることに精一杯だったはず。 

 それも事もあろうに、王国の影アマンダもソフィア様に背いたのだ。 

 テロリストたるステナを庇い、ソフィア様を断罪した。 

 王太后(ダイアナ)殺しは大罪だが、その前に止めることさえ出来ただろうに!



 無茶苦茶である。

 22年前にアマンダは、現在14才である為影も形もない。

 ダイアナに付く影はそもそも王家の直属であり、誓いにより家門としてつくポリフェノール家とは別である。   

 もし王家の者1人1人にポリフェノール家門の者が付いていれば、王家に逆らわない程度で掌握され傀儡と成り果てるだろう。 

 それが解らない当時の国王でもなかった。 

 狡猾で切れ者でもあった。


 但し長く戦争もなく、平成が続く世の中で国王直属の影は力を落としていた。

「この世の中、そのうち影も必要ない時代が来るだろう。 今から転職でも考えるか」等と考えるほどに。


 ポリフェノール家門と違い、王家の影は王族の血が絡んでおり暗殺されることは稀だ。 

 伯爵や子爵と言う身分もあり、後ろには国王がいる。 

 いつ使い捨てされるかも知れぬポリフェノール家とは違うのだ。 

 だから修練を怠っていた。 

 首領がそうならば、下部は言うまでもない。


 国王直属の影が手を緩めたときから、戦力の差が開いた。

 もはや今、ポリフェノール家門に王国直属の影は敵うべくもない。


 そんな気の緩みが王太后(ダイアナ)の暗殺を実行させてしまった。 

 そしてゴテゴテとなり、ソフィア達公爵家の独断専行を許してしまった。


 そう、ダイアナの暗殺は本来防がれるものだった。そうでなければならなかった。



 親戚でもある直属の影を国王は罰せられず後手にまわり、真相も突き止められなかったことも攻めなかった。


 しかしだからこそ、コレットとバイオレットの警護はポリフェノールや騎士団や魔法師団に依頼した。 

 結果としてそれは正解だった。 

 直属の影を信じられなかったのだ。


 彼ら(アマンダや騎士団ら)が居なければ、とんでもない被害が生じていたであろう。

 ラメル王就任時、王は女や贅沢に金を使い放題で財政を圧迫させた。 

 助長したのは元王妃イノディオン公爵家。 

 だが、建て直そうと、税を上げたり粛清をして奔走していたのは元王妃ソフィア。


 結局ソフィアは、イノディオン公爵家に利用されただけ。

 そしてラメル王は、何も考えず遊んでいただけ。


 最後にステナを守ったからと言って、帳消しには出来ないのだ。





 ソフィアの警護は、魔法師団副師団長グウェン・ポルトコルが継続して行っている。 

 グウェンの身の上を知る師団長は、ソフィアの境遇を自らと重ねているグウェンの気持ちを尊重し、ソフィアを見守る任を任せたのだ。 そして師団長はグウェンを信頼していたのだ。


 結果、その信頼は裏切られるのだが。


 時々、ソフィアは正気に戻りラメルを殺したと暴れた。

「夢ですよ、ソフィア様。ラメル様ならそこに居ますよ」


 魔法で姿を変えたグウェンが、ソフィアに愛を囁くと再び夢の住人へと戻っていく。

 その度にメロウは、胸を抉られた。


「ソフィア様に正気に戻って欲しい……けれどそれは苦痛を伴うだけだ。ならばメロウの側で、幼子に戻り傷を癒してください。命に変えてもお守りします、ソフィア様」


 メロウもまた、苦難の中にいる。

 救い等訪れるのだろうか?




 ソフィアの罪は一つだけ。

 ラメルを本気で愛してしまったこと。


 ラメルを切り捨てることが出来れば、ソフィアも国も子供達も幸せに暮らせただろうに…。



 人生を変えてしまう出会い、ソフィアにとって最悪の出会いはラメルに出会ったことに他ならない。


 時を戻せるなら、きっとラメル等好きにならないのに。





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