42 王宮舞踏会にて
今日は王宮舞踏会当日。
サクラ・カザナース侯爵令嬢が作製したドレスに身を包み、マリアンヌは舞踏会のホールへ足を踏み入れる。
人熱れで満ち溢れ、たくさんの豪奢なシャンデリアからの照明がキラキラと眩しく輝く中、サクラ・カザナースと共に入場した。
ハイネックのラインワンピースドレスが主流の中、それらと違うドレスを着た二人は、周囲の目を引くことになった。
右肩がストラップレスで、左肩からビスチェ(胸元)を通り右腰まで襷掛けのドレープが、体のラインを強調する作り。
それだけでは、年若い子女にはやや品がないと言われそうだが、オーバードレスとなる上から掛ける白地のレース生地が、小花のビージング(ビーズやスパンコールの加工)で、可愛らしさを演出していた。
耳には瞳と同系色で、小振りの宝石を花形に加工したピアスが光る。
勿論小物も、クレッセント商会製である。
水色の髪、紅水晶の瞳のサクラは、薄ピンクの、銀髪と紫水晶の瞳のマリアンヌは、薄紫のドレスを纏う。
今までにない少し攻めた型に、老若男女の視線が二人に向いてた。
緊張しないよう、事前にウォーキングも笑顔の貼り付けも特訓した。
そして、ドレスが一番映えるような動きを意識する。
(今日の私は広告なのよ。少しでも味方になってくれる人を増やす為に、カザナース令嬢に協力をしなければ)
社交や交渉の場に慣れたサクラも、本日ばかりは緊張していた。
ドレスの宣伝も大切だが、今日の印象でマリアンヌの今後も決まるかもしれないからだ。
優雅に微笑みながら、周囲にマリアンヌを紹介していく。
新しい製品と美しい容姿を、侯爵令嬢のサクラが紹介すれば、嫌な顔をする者は少ない。
一部のアマンダ信者は素っ気なさを見せたが、嫌味等を言う者はおらず、終始穏やかに挨拶回りを終えた。
最後に王、王妃、第一王子が登場する。
王アセスは、様々な刺繍と細工を施した代々伝わる赤のジュストコールと、オー・ド・ショーズとバ・ド・ショーズ(半ズボンと長い靴下)姿。
王妃アンブレンディは、紺でハイネックのラインワンピースドレス。
こちらもビージングが施されて、同色のレースが胸元と裾の部分を上品に飾っている。
お二方とも、王冠とティアラを頭に戴いていた。
王子リンディアスは、白いシャツに紺のジレベスト、紺スラックスのコーデ。
こちらは刺繍等も少なく、軽快に動けそうな仕様。
その3人を見詰めるように、アマンダが直ぐ近くの壁際に待機しているように見える。
隣には、デキストリン辺境伯家のアルベルトが。
アマンダは、モスグリーンの(袖とドレスが一体化している)フレンチスリーブのミディ(膝下丈)ドレス。
こちらも飾りは少なく、軽快そうである。
耳朶には、通信機を兼ねたシルバーのイヤリングが光る。
ヒールも同系色で、踵は高いが立ち姿が優雅である。
いざとなれば、踵は折れるように細工してある。
因みにアルベルトは白シャツに紺の燕尾服で、目立たない仕様だ。
「アマンダ様、今日もお素敵ですわ」
「あのドレス、何処のブランドなんでしょう? いつもシンプルな型でフィットしているようなのに、体のラインが出ない。内部に何か工夫されているのかしら」
「そうですわ。洗練された動きが、ドレスを引き立たせてますわ。仮に私が着ても、あのように優雅になりませんわ」
「そうですわね。さすがですわ」
アマンダ信者達? は、何でもないドレスを褒めていく。
アマンダとアルベルトは本日護衛要員なので、そもそもお洒落等は考えていない。
逆に目立たないように、暗色を纏っている。
そしてその服には、様々な暗器が隠してある。
信者達が、体のラインが目立たないと言っていたが、それは防弾着を着用しているからに他ならない。
間諜が聞いていれば怪しむ所だ(本日はいないようだが)。
そして勿論特注品。
アルベルトも同様で、暗部印の安全設計の一点物。
新王アセスが開く、初めての大きな夜会。
暗殺や陰謀渦巻く、警戒態勢。
王太子は、男女どちらかに決まってはいない。
アセスは、前王の子ステナに打診するも固辞されている。
それを大臣クラスは知っていた。
他の前王の子でも良いと思っていたが、重鎮達は許さない。
『現在の王はアセス様なのだから、次代もアセス様のお子に』と。
なし崩しでなった王だが、責任は勿論引き受け政務する。
ただ、想像もしていなかった事態に、子供達の意見は割れていた。
第一王女ミレニアム17才は、無理と一言。
第二王女ケミストリー16才は「公爵令息アランに嫁ぐので~」と、そそくさと去る。
残る第三王子リンディアス15才は、「お、俺が! ええっ」と逃げ損ねていた。
側近達も、王子が立太子されるのが一番良いと頷く。
本人の意見は聞いて貰えなかった。
直系王家の中で、(次代を担う子供世代の)男児が何故かリンディアスしかいなかった。
そんなこんなで、この場は王太子となる予定の嫁探しも兼ねていたのだ。
「俺が王とか、皆頭大丈夫か?」と、心で思うリンディアス。
でも母思いの優しい彼は、反発もしない優等生だった。
特に付き合っている女性もおらず、そっち方面では揉めない感じだが、城の爆破テロの時に心を揺らす出会いがあった。
アマンダの勇姿である。
いろんな人々が活躍していたが、彼も15才のお年頃。
まだ初恋も知らぬ少年は、自分達を庇い戦う彼女に心を奪われていた。
だが王より、「誰を選んでも良いがアマンダ、いやポリフェノール家だけは駄目だ」と言われていた。
何故かと問うと、お前には手に余るからだと言うのだ。
今まで、王位継承等と関わりなく生きてきたリンディアスだ。
隠密のことは知らないのだ。
そして、その日リンディアスを見たマリアンヌは、ずっと彼を見詰めていた。
「私の王子様。彼こそ運命の人だわ」と。
隣にいたサクラは、その瞬間を見ていた。
(ああ、選りにも選って、彼を選ぶのね)と。
今日のお披露目は概ね上手くいき、マリアンヌの印象は好転していた。
大成功の部類である。
それなのに、マリアンヌは難関を背負う気配を見せた。
彼はただの王子ではなく、今の所一番王太子に近い者。
時期王となる予定の者だ。
まだマリアンヌに、諦めた方が懸命だとも言えない距離感。
その内熱も冷めるでしょうと、様子を見ることにした。
貴族教育が、まだ途中のマリアンヌは気付かない。
王太子妃、王妃の重責を。
王子と結婚すれば、幸せになれるのは物語の中だけで、現実は解離していることを。
何より、自分の家がポリフェノール家であることを。
運命の巡り合わせが仕組んだ出会いが、今果たされた。




