35 義理の姉妹は、静かに微笑む その1
国王陛下とステナ達の話し合いを終えて、アマンダ達は伯爵邸に戻っていた。
今後、ドリップの祖父が営むクレッセント商会が、流通の要を担うだろう。
急ぎの案件もなく、一息着くポリフェノール家の暗部一同。
だがやはり、アマンダにとっての細かな負荷は続いていく。
マリアンヌは銀髪に大きな紫の瞳で、年齢よりも幼く見える。
使用人にも絶えず微笑み、慣れない生活に戸惑いながらも努力を重ね、庇護欲を撒き散らしながら暮らしていた。
レーヨン男爵に汚され、アマンダの居場所を欲してから、出来うる限りの努力を重ねた。
だが所詮田舎娘、どれだけそこで学んだとて底は知れている。
それは自分でも解っていた。
だから、決して威張らず主張せず、偶然に幸福を掴んだシンデレラストーリーを演じたのだ。
マリアンヌは、愚かではない。洞察力の深さと記憶力に優れ、賢いと言われる方だろう。
父にも母にも心の内を隠し、使用人にも気を抜かない、田舎者の心優しい令嬢。
演じきれている、演じられていると思っていた。
但し、本人が気づかぬまま、唯一のミスを犯していた。
アマンダに初めて会った時に、僅かに嫉妬で顔を歪めたのだ。
それも殺気が籠るほどのーーーー時間にすれば1秒程だ。
その後に初めて感じる圧倒的な気品、重厚な雰囲気に跪きそうになった。
これが生粋の貴族の存在感なのか。
必死に堪え、笑顔で挨拶をする。
同じ銀の髪、紫水晶の瞳。
マリアンヌは、青よりの紫の瞳に軽いウェーブの髪。
アマンダは、赤よりの紫の瞳にストレートの髪。
大きな丸い瞳に、丸みのある優しい印象の顔。
154cmの小柄に、丸みのある女性らしいと言われる体躯の自分。
そして反対に、ややつり目で三角の子猫のようなシャープな顔。
165cmと、女性では大きいと言われる身長。
凹凸がなく、全身が引き締まっている体躯のアマンダ。
同じ髪色や(紫の)瞳の色で、雰囲気は似ていると思われるかもしれない。
だけど、マリアンヌから比べれば何もかもが違った。
なまじっか似ている分、些細なことが劣っているように感じたのだ。
アマンダの方が、外見も優れているように。
ーーーーせめて、全く違っていれば良かったのにーーーー
実際に出会ったことで、沸き上がる胸の苦しさ。
その全てを包み隠し、挨拶したつもりだった。
勿論、笑顔で。
アマンダからも、微笑みながら挨拶を返された。
どう思っているのか推し量れない表情は、大輪のバラのようだった。
母親が亡くなり、まだ1年と聞く。
許せないと詰って、罵声でも放ってくれた方が、まだ可哀想な義妹を演じやすい。
だけど………………。
「ようこそ」と。「仲良くしてくださると嬉しいですわ」と。
淑女の微笑みと華麗なカーテシーを披露し去っていかれた。
その姿に見惚れたことが、さらに悔しかった。
そして側にいた執事長は、表情は変わらなかったが威圧感がすごくて、決して仲良くなれないだろうなと感じてた。
アマンダは勿論業腹でならないが、問題を起こさなければ放置しようと思っていた。
ーーーーしかし殺気を感じた際に、何かしてくる気だろうと予測をつけた。
(もし、どうしようもなくやらかせば、気持ち良く断罪できるのだけどね)
ふふふっと、防音魔法を掛けて貰っている室内で、声をあげるのだった。




