表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/63

32 泣きたい夜空 その1

「まだ駄目です、目を開けて。もう少しで太い血管の出血を止められるから!」


 誰かの必死な声がする。


 久し振りに聞く優しい声。


 身体中がひどく痛む。


 もう身体はピクリとも動かせないし、声もでない。


 意識も朦朧として、瞼は今にも閉じてしまいそう。



(もう痛いのは嫌だ。このまま眠って、もう目が覚めなければ良いのに)

 そう思っている時に掛けられた言葉だった。


 泣きながら治癒魔法(ヒール)を掛けてくれる、兎獣人のお姉さんが言葉を続ける。


「詳しい事情は解らないけど、バルデス様を待ってるんでしょ? それまで何としても生き延びないと」



 兎獣人のお姉さん、私なんかを助けたら奥様に酷い目に合わされるかもしれないのに。必死に励ましの言葉を掛けながら、治癒魔法(ヒール)を掛け続けてくれている。


「死んじゃ駄目だよ。絶対助けるから、頑張って」


 山ほどの回復ポーションを脇に置き、魔力が尽きるとぐいっと飲んでまた魔法を掛け続けている。


(もういいのに…………どうしてここまで一生懸命になってくれているんだろう?)

 朦朧としながら考えていると、無意識なのか彼女の独り言のような呟きが聞き取れた。


「貴女を守って亡くなったサンド様の為にも、貴女を絶対に死なせたりしないわ。絶対に、うっ、くっ」

 彼女は泣きながら手を翳して、治療を続けている。



 サンドが死んだ!!!

 嘘だ。サンド、サンド、サンド!!!!!

 ああっ。 

 思い出すサンドの優しい笑顔。

 たくさんの思い出。


 もういないなんて。

 私のせいで? なんで私の為に死んでしまったの?

 サンドはすごく強いのに。

(うわあぁ~ん。嫌だよ、嘘だよねサンド!)


 声にならない声で叫んで泣いた。

 床に横たわり動かぬ身体から、涙だけが頬を伝わり流れていった。





 赤眼で銀髪のリコッタは、軍務大臣マーカー・クリンパスの邸でメイドとして働いていた。


 小柄で機敏な彼女は、腰まで伸びた癖のある長髪をおさげで結い、大きな瞳が幼い印象を与えるのか敵対してくる者は少なかった(悪い意味でなめられてもいたが)。


 ある日主のマーカーにお茶を運ぶ際に、僅かに開いていたドアの隙間から漏れた声を偶然聞く。

 アミールとサンドが、キンバリーが連れ出たマーカー直属騎士と魔導師達により殺されたことを。

 そしてバルデス邸にいたエルフの子供に、お茶汲みや掃除をさせてきちんと出来ぬと言い放った後に、折檻を加えていると。


 どうやらエルフの子供は、バルデスとアミール達が大切に育てていたようで、キンバリーの襲撃に遭った際にアミールとサンドが身を挺して庇ったようだ。

 一旦はミストと逃げたがキンバリーに見つかり、ミストはアミール達を殺した魔導師に無理矢理嫁がせ、エルフの子供をここに連れ帰ったと言うのだ。


「ひぃ」と、声が漏れそうな口を両手で無理矢理塞ぎ続きを聞く。


 20名の直属騎士はアミール達を弔った後退職して軍を離脱し、エルフの子供は離れの一番奥の部屋で折檻を受け続けていると。


 全てが酷い話だが、マーカーが一番に頭を抱えていたことは直属騎士の離脱だった。


 殺されたアミールとサンドに対しての情よりも、騎士のことかとがっかりするリコッタだが、戦場を命がけで共に戦う騎士はそれだけ重要なのだろう。


 それなら尚更に、夫人に好き勝手を許すべきではないと思うのだが。まあ、こっちもいろいろあるのだろう。



 珈琲ポットを魔法で再度暖め、素知らぬ顔で部屋をノックし入室する。

 メイド歴4年のキャリアは無駄でなく、表情を変えることなく給仕を済ます。



 そして好奇心故に、夜間になってからエルフの子供がいる部屋を訪れたのだ。


 そおっとドアを開けると、明かりはなく誰もいないようだ。

 薄暗い部屋に目を凝らすと、冷えた床に倒れている人影を見つけた。


 その日の折檻は激しかったようで、エルフの子供は血だらけだった。


 咄嗟に駆け寄り、頭を膝に乗せて声を掛ける。

「大丈夫? 意識はある?」


 この状態で大丈夫も何もあったものではないが、自然と口から発していた。

 返答はなく、何の反応も見られない。


 ただ心臓は動いているし、呼吸もふーっ、ふーっと浅いがしている。

 口の端から出ている血液が顔の横に血溜まりとなり、内蔵の損傷が窺えた。

 服やスカートから出ている足に蹴り後が見られ、皮膚の擦過傷からは血が滲み朱に染まっていた。


「子供に何てことを!」


 その後はもう何も考えず、治癒魔法(ヒール)を唱え続けていた。


 一旦魔力が切れた時にこっそり自室に戻り、あるだけの回復ポーションを持って再び訪れた。


 キンバリーの癇癪に堪えているメイド4年目は個室を貰っており、深夜であったことで誰にも会わずにここに戻ることが出来た。


 常に他国と戦争をしているこの国の例に漏れず、彼女も戦争孤児だ。

 何日も何日も雨水だけで飢えをしのぎ、宛もなく無事な町を目指した。

 共に歩いていた友は、力尽きて1人また1人と居なくなりリコッタだけが残ったのだ。

 そして偶然にサンドに保護され、この屋敷で働き始めた。

 穏やかな気性である兎獣人ということで、雇われたのだろう。



 サンドは彼女にとっての救世主だった。

 宛もなく町を目指し歩いていたが、彼女の目指した町も戦禍で機能していなかったのだ。

 サンドが居なければ、今の生活はなかった。

 そして憧れの人だった。

 結婚したいとかではなく、アイドル的な感じの。

 勿論求婚されれば喜んでだが、そんな日は来ないと解っていた。


 でも、こんな形で別れるとは思っていなかった。


 初級の治癒魔法(ヒール)しか使えない彼女にとって、アルバのひどい傷を癒すことは普通ならば無理だっただろう。

 だが様々な強い思いが重なることで、レベルが上がり中級程度の力が出せるようになっていたのだ。


 目の前の幼い子供を救いたい。

 戦禍で亡くなった友達と同じくらいの、この子を救いたいんだ。

 サンド様が命がけで守ったこの子に会ったのは、サンド様が導いたのかもしれない。


「私の力では足りないかもしれないけど、奇跡でも何でも起こして助けてよ神様。


 自分のことでだって、こんなにお願いしたことないでしょ? だからお願いします」



 カーテンのない窓から月光が2人を照らし出す。

 先程まで覆われていた雲が霧散し、夜空に浮かぶ大きな月がこちらを眺めているようだ。


 アルバの瞼は閉じられていたが、青白い頬に赤みが差し呼吸は平静となった。


「だいぶん落ち着いて来たわ。もう少しだね」


 額の汗を拭いながら、リコッタは安堵の息を吐く。

 夜更けから明け方まで続いた治療は、何とか功を奏してアルバは一命を取り留めた。

 リコッタは床に暖かい毛布を敷き、身体にも大きくて暖かい毛布をくるませた。

 幸い外傷も治癒しており、目覚めるまで様子を見ることにした。


 リコッタもメイドの仕事は休めない。

 キンバリーが来ないことを祈るばかりだ。



 祈りが通じたのか、キンバリーは来なかったようだ。

 既にアルバのことは、死んでいると思っているのかもしれない。


 昨日の状態を知っていれば無理はない。

 治療しなければ、ほぼ間違いなく息絶えたはずだから。



 どちらにしろ、キンバリーの関心がこちらに向かないうちに、アルバを回復させて連れ出すしかない。


 リコッタは夜更けに着替えとタオル、お粥と回復ポーションを持ってアルバの部屋へ向かう。


 周囲を警戒するが誰もおらず、ひっそりと静まり返っている。

 もともと外部との接触を減らす為に連れてきた、奥まった部屋だから余計に人の気配はないのだろう。


 今日も月明かりが部屋を照らす。

 起きていたアルバは、掠れた声でリコッタにお礼を言った。


「お姉ちゃん、痛いのを治してくれてありがとう」

 そう告げて頭をペコリと下げた。


 なんて可愛いのだろう。

 リコッタは反射的に抱きしめてしまう。


 びくっとしたアルバだったが、悪意のない暖かさに身を委ねていた。

 ミストと別れてから失くしていた他人の体温で、胸が熱くなるのを感じる。

 知らずと安堵の涙が流れ出す。

 アルバの境遇を思い、リコッタも共に泣いていた。


 この世界は、力の無いものになんて厳しいのだろう。


 何も悪いことをしていない子供2人が、抱きしめあい月に照らされている。


 リコッタは、アルバが動けるようになったら一緒に逃げようと伝えた。

ア ルバは自分の為に犠牲になる人が出るのを躊躇い、1人で逃げると言う。


 リコッタは徐に「私は戦場でサンド様に助けて貰ったの。今生きていられるのも、サンド様のおかげなの。だからサンド様の代わりに貴女を助けたいのよ。大好きだったサンド様の為に」と微笑んでいる。


 アルバは驚いた顔でリコッタを見つめた。

「サンドを知ってるのね」


「私の初恋だもの。そしてずっと好きだった人なの。まあ、私なんて相手にならないのは解ってたけど、理屈じゃないのよ恋心は」

 そう言ってニコッと笑う。


「お姉ちゃんは可愛いから、サンドもきっと好きになったと思うよ。サンド訓練ばかりして、全然モテなかったから。損したねサンドは」


 顔を見合わせて、同時に笑ってしまった。


 その後、身体を拭き着替えをする。


 アルバはお粥を食べきり、回復ポーションも飲んだ。

 出来るだけ早く、体力を回復したかったからだ。


 少し無理をしてでも、できる限り急いだ方が良いだろう。

 キンバリーがいつ来るとも知れないのだから。


 奇跡的なことに、亡き母クロウの禁呪でアルバの回復は思った以上のスピードで行われたのだ。


 その為、逃亡日を明日の深夜と決めて今日は別れることにした。


 出来るだけの睡眠をとり、移動に備える為に。





 しかし無情にも、翌日の日中にキンバリーがアルバの元を訪れたのだ。


 死亡を確認し、死体を棄てる為に。


 キンバリーと護衛騎士2人が、ノックもなくアルバの居る部屋に押し入ってきた。


 キンバリーはアルバを見て、怒りのあまり顔を醜く歪め絶叫する。

「なんで生きてるのよ。私はあんたが惨めに死んでいるのを見に来たのよ。なのに前より元気そうじゃないの。 誰かが手助けしたのね。解り次第殺してやる!」


 アルバは顔をひきつらせ決意する。

(ここで捕まれば、お姉ちゃんが助けにきちゃう。巻き込んじゃうのは嫌だよ。ここから1人で絶対逃げ切ろう。そうすればお姉ちゃんも、逃げ切れるはずだから)


 そう考えた瞬間、キンバリーと護衛騎士の隙間を狙い走り出す。


 まさか、走り出す元気があると思っていなかったのだろう。

 護衛騎士達も、死体の処理と聞いていたのだから。


 キンバリーも護衛騎士も、一瞬の隙をつかれた形だ。



 アルバは邸から外に向けて走り出す。

 邸の見取り図とどこに逃走するかは、昨日リコッタと決めていたので走るだけだ。



 アルバは走った。

 力の限り。


 でも、やっと5才になったばかりの身体は、悲しいかな直ぐに追いつかれそうになる。


(ダメ、ダメ、ダメ私が捕まれば、お姉ちゃんが絶対助けにきちゃう。2人とも殺されちゃうよ。そんなの、もう嫌だ!!!)



 そう思った瞬間、聞き慣れた声が耳に届いた。

「アルバ、探したぞ。よく無事でいてくれた」


「バルデス様!」


 アルバは駆け寄り、バルデスに抱きついた。

 バルデスは優しくアルバを抱き上げる。


「これはどういうことですか?」

 怒りを込めて母に対峙する。


「帰って早々、何を言っているの? 私は貴方の失態を庇おうとしただけなのに。それを逆らおうとするからあの2人は死んだのよ。みんなこのエルフのせいよ。でも元を正せば、人身売買に手を出した貴方のせいよね」


 悪びれもせず言い放つキンバリー。


「咎は俺が受ければ良いはず。何故他者を巻き込んだのですか? 罪なき者に手を出す等、鬼畜にも劣ります。 俺は母上を軽蔑します!」

 強い口調でキンバリーを睨み付けるバルデス。


 だがキンバリーは怒りの形相で、公爵家の嫡男を守るのは当然のことだと譲らない。


「俺が継がずとも、親族は腐るほどいる。こんな騒ぎになってはもう秘密は守れないでしょう。母上のせいで多くの人に傷を追わせた。身体だけでなく心にもたくさん。俺のことは廃嫡しどうぞお忘れ下さい。 

 そして他家より賢い養子を貰って下さい。アルバと出ていきます。お世話になりました」


 何を言っても響かないと確信し、アルバと共に去ろうとした(バルデス)


 背を向けた瞬間、「ドガッ」と鈍い音と共に背後に重苦しい痛みを感じたバルデス。


「くっ、な、何を?」

 アルバをゆっくり降ろし屈みこんだ後、脱力し倒れた。


「貴方まで私を裏切ろうとするからよ。貴方が悪いのよ!」

 キンバリーの手には拳銃が握られていて、今も発砲したままの状態で固まっている。


 震えた手から拳銃が落とされ、キンバリーも力なく膝を床に突けた。


 銃声が聞こえ、当主のマーカーも駆けつけた。

 惨状に絶句し、血濡れのバルデスを抱える。


「誰か医師を呼べ。治癒魔法が使えるものは来てくれ。バルデスを助けてくれ。頼む、頼むよ!」

 嗚咽しながら息子を抱きしめている。


 放心状態のキンバリーは、へたりこんだまま動かない。


 身の危険も顧みずリコッタが駆け寄り、治癒魔法を掛け始める。


 しかし至近距離の弾丸は身体を貫通していたが、心臓に近い動脈を傷つけていてなかなか出血が止まらない。


「死なないでバルデス様。死んじゃやだよ」

 アルバは、バルデスにすがりついて泣きじゃくる。


 バルデスも横たわったまま、残った力でアルバの頬に手を触れていた。



 そんな中、ポリフェノールとスターディネスはクリンパス邸に到着した。

 アルバを助ける為に。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ