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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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31 戸惑う心 2

 ミストとアルバは、母の実家である商業都市サントラストへ着いた。


 ここは国中からあらゆる商売人が集う場所。

 最高の物が手に入れられ望みが全て叶う、果てしなく高層ビルが乱立する歓楽街。


 サントラストで商売が成功すれば、一攫千金も手に届く夢の場所だ。

 当然生存競争も激しく、1年を越えて生き残る猛者は少ない。

 その1年1年を繰り返し、残った者のみがマスターと言われ、自身の関連する商売を統括している。

 それだって足の引っ張りあいだ。

 その反面、切磋琢磨することで、この街は眠らずに動き続けるのだ。

 


 馬に何度も回復魔法を使い、2人とも飲み物以外はほとんど何も摂らず2日かけ到着した。

 人混みに紛れられるこの場所は、もっとも潜伏に適しているだろう。


 疲労困憊であったが、ここまで来れば捕まらないだろうという安心感もあった。


 さっそく食事と寝る場所を確保する為、母の友人が経営する宿屋『こもれび』へ顔を出す。


 変わらぬ笑顔で、ミストを迎えてくれる宿屋の女将ターニャ。

「久し振りね、ミストちゃん。仕事なのかもしれないけど、楽しんでいってね。美人さんになってて、おばさんびっくりよ」


「ありがとうございます。おばさんも元気で良かった。 相変わらず美人さんですね。母は太っちゃたのに」


 あらやだと笑いながら、部屋へ案内される。




 この宿屋は、15階のビル一棟を丸々利用した作りだ。


 階下には食堂・バー等の飲食店やエステ等の宿泊者に人気のテナントも入っている。


 宿屋と名乗っているのは、150年以上前からここで商売をやっている名残だ。

 これほど華やかでない時代からここで宿泊業を営み、多くの人に宿を提供してきた自負もある。

 また、リピーターが宿を間違えないように、ビルの建て替えは幾度行っても名はそのままにしてあるのだ。



 ターニャも傾国の美女と囁かれ、多くの恋をしてきた強者だ。

 母と友人であるのも頷ける肝の太さ。

 不倫だなんだと訴えられたら、借金をしてでも慰謝料を一括する潔さ。

 そしてその女性にも優しく説く。


「私は何度も恋をしているが、好きになったら一人をこの上なく愛する女だ。複数に愛をばら蒔くなんてできやしない。今回は私に見る目がなかったばかりに、あんたに迷惑をかけた。申し訳ないが、この金で心を癒してくれ」と真摯に謝るのだ。


 浮気された女性だって、罵られる覚悟で来たはずだ。

 それなのに浮気するつもりがなかったことが解り、慰謝料も一括で貰え、優しい言葉をかけられる。

 憎しみは霧散である。

 そして浮気男は、もう要らないと返される。


 ここまでされると女性も目が醒めて、そんな男は要らないと自ら捨てるのだ。

 やはり多額の慰謝料は強い。

 暫く(1年程)優に生きていける額は、心に余裕を持たせるのだ。


 そしてここは商人の街。

 何らかの商売をしている女性は、ターニャのことを素晴らしいと回りに話すだろう。

 そしてそれが噂になり、気っ風がいいと好印象に繋がる。

 女性の行っている商売も、ターニャに力添えをするだろう。


 だからと言って、ターニャが本当に善人かと言えばそうではない。

 パトロンと呼ばれる貴族と体で繋がっていたり、複数のビジネスパートナーと閨を共にすることもある。


 愛する者が1人であるというだけ(今回は女性の夫だった)。


 彼女が愛する者を切り捨てる時は、公に醜聞がばれるような底の浅い者だけである。

 醜聞は商いを潰す。

 妻が乗り込んで来なければ、関係は続いただろう。

 最初はその者も、割りきった付き合いをしていたはず。


 しかし、さすが傾国。

 彼女を知れば深みに嵌まりだし、抜け出せなくなるのだ。

 だが、それを乗り越えられる胆力のある者しかここでは生き残れない。


 元を正せば慰謝料を受け取った女性の金の一部は、女性の夫の物なのだ。

 もともと女性の夫は、ここでは生き残れなかっただろう。




 そんな海千山千の勘が、彼女に警告音を鳴らす。

 ミストと共にいる子供はフードを被り俯いているが、なにかきな臭い予感がするのだ。

 ミストはバルデスに頼まれて子供を移送中だと言うが、幾千の人を相手にしてきた彼女には解った。

 連れているのはエルフであると。

 獣人の国に敵対するエルフ? 

 それをミストが移送中?


 疑惑は残るが、そんな素振りは見せず14階へ案内する。

 14階全部がターニャ1人の個人的なプライベート空間。

 その一室に、ミストとアルバを泊まらせた。


 なにがあっても内々で対処できるように。



 だが母の長年の友ターニャを疑わないミストは、徐々に積んでいく状況に気づいていなかった。



 ミストとアルバは数日をこの部屋で過ごした。

 ターニャしか階に来ない、ほとんどプライベートな空間。

 部屋も他の客室のように、一つ一つ個別に別れて、勿論ロックもかかる。


「ねえ、ミスト。アミールとサンド大丈夫かな? なんで怖い人来たのかな?」


 アルバはミストの顔をアメジストの瞳で見つめ、心配そうに話す。


 その質問には何一つ答えられない。


 だけど優しく話しかける。

「あの2人が強いのは知ってるでしょ? 怖いやつらなんてきっとやつけてるよ。ただやつらの仲間が追いかけてきたら困るから逃げてるだけ。 

 残念ながら、私とアルバだけだと勝てないからね。もう少ししたら帰ろうね」


 笑顔で答えるミスト。


 不安は残るもアルバは頷く。

 そして2人の無事を祈るのだ。


 2人とも疲れは取れ、次の街に旅立つことにした。


 出立前にと、今回のキンバリーの襲撃をバルデスに書簡で送った。

 他者の検閲があっても支障がないように、アルバのことはペットとして記載した(勿論名は入れていない)。

内容もぼやかしてある。

 他者が見たらミストがペットを連れて、治療に行くというニュアンスしか受けないはずだ。


 軍の作戦中である為いつ着くとも知れず、それでも心配しなくて良いので、体に気をつけてとだけ最後に記す。



 そして出立する日となり、ターニャに部屋へ挨拶へ向かう。


 部屋に入り、宿の料金を支払いお礼をする。


 部屋を出ようとすると、後ろから腕を捕まれる。


 振り返ると、邸で見た2人の魔導師がそこにいた。


 驚きターニャを見ると、申し訳ないと言って眉根を寄せる。


「ごめんね、ミストちゃん。聞けばあんた軍務大臣夫人に追われているって言うじゃない。私みたいな一商人が、そんな人に逆らえる訳ないのよ。恨まないでよね」


 その言葉を聞き終える前に、(ミスト)とアルバは転移魔法でキンバリーの前に転がされた。


「まあ、なんてこと! 貴女が連れて逃げたのがエルフだなんて。このエルフはいったい何なの? なんであの邸にいたの? まさかあの(バルデス)とエルフの子なの? 答えなさい!」


 キンバリーの質問は妥当なものだったが、ミストが答えられるべくもない。


 ただこのアルバは、バルデスの子ではないことを告げるだけだ。


 最初は憂さ晴らしに、自由を奪おうとして購入したエルフだとは伝えられない。

 そんなことを言えば「そうなのね」と言って、夫人は暴力の限りを尽くし殺してしまうだろう。


 だが愛情を持って育てていたと言うのも、地雷な気がする。

 エルフは夫人にとって天敵だからだ。


 ではこれはどうだろう?

 アルバには(聞こえたら)可哀想だが、愛玩という意味でペットのように可愛がっていたと言えば、殺されはしないのではないか?


 迷うミストにキンバリーが怒鳴る。

「はっきりおっしゃい。私に逆らう気なの?」


 ミストは心でアルバに謝罪しながら答える。

「ぺ、ペットとして購入したようです。獣人とエルフの差を思い知らせる為に。ただこのことはバルデス様に内密にと言われておりました。お手を煩わせ申し訳ありません」


 そう答えるとキンバリーは口を弧の字にし、満足した笑みを漏らした。


「そう、そうなのね。あの子は私と同じにエルフを恨んでいた。見せしめの為に飼っていたのね。ほほほ。 

 でも内緒になんてするから、アミールとサンドを殺してしまったわ。そんなに母に知られたくなかったなんて。ふふふ、ご免なさいねミスト。これを保護してくれてありがとう」


 愉悦に浸るキンバリーは、微笑みながらミストを見つめた。

 謝罪は言葉だけで、悪いとは一欠片も思っていないのが伝わる。


 母と兄が亡くなったことを聞き、一瞬思考が止まる。

 次の瞬間には慟哭していた。

 知らずと涙が溢れ出す。


 それを見てアルバが、背を撫でてミストを慰める。

 アルバも、2人が死んだことに悲しみを隠せず泣いている。


 お互いに抱き合い泣き出すも、冷酷な声が響く。


「ペットとじゃれるのは構わないけど、しつけがなってないわね。犬なんだから喋っては駄目でしょう? それとも猫がいいかしら? いずれにしても、今後ワンかニャン以外で喋れば、鞭で打つわよ。解ったらワンとお言い!」


 アルバはビクッとして、キンバリーを見つめた。


「まあ、なんて生意気な顔なのかしら? そもそも、畜生は四つん這いになるはずよ。主人と正面から顔を合わせるなんて無礼だわ。今すぐ四つん這いにおなり!」


 アルバは驚き硬直する。


 瞬間夫人の鉄の扇で、アルバの頬が打たれた。

「バチンッ」


「っう」と痛みから声が出る。


 すると、さらにキンバリーがアルバを打とうとする。

「犬はワンでしょ! 根本からしつけが必要ね」


 その時ミストがアルバに抱きつき、扇が額を強打する。

「キ、キンバリー様。バルデス様はこの子を愛玩しておりました。手に入れるのは大変尽力されたそうです。壊してしまっては、バルデス様が悲しまれます。どうかお手心を」


 そう言って土下座し、これ以上酷いことをしないように願い乞う。


 キンバリーは腕を組みながら考える。

「そうね、殺すのはつまらないわね。いっぱい芸を仕込んでバルデスに見せましょう。ふふふっ」


 機嫌は直ったようであるが、自分に意見をしたミストには少々腹立ちを覚えたようだ。


 そして突然閃いたように口にする。

「そう言えば、貴女の家族を殺してしまって申し訳なかったわ。お詫びにたくさんの家族ができるように、少しだけ協力してあげる。丁度そこにいる魔導師は独身なのよ。隣にいるのは双子の妹で、恋人じゃないから安心して。バルデスには手紙を送っておくから、幸せになってね」


 ミストは頭の中が真っ白になった。

 いったい何を言われたんだろう?


 いきなり敵対していた魔導師と結婚しろと言われた。

 どうしたら良いのか?

 バルデス様が大好きで、妻に成れずとも一生を共に生きたいと思っていたのに。

 先程キンバリー様から、この2人が母を殺したと言われたばかりなのに。

 何故そんなことを言うんだろう?

 ああ、この方はずっと私がバルデス様の傍にいるのが、気にくわなかったのだ。

 だからと言って、結婚は嫌だ。

 それだけは。


 しかし、気持ちを読まれたような言葉が聞こえる。


「もし貴女が魔導師から逃げたりしたら、この子を間違って殺しちゃうかもね。ちゃんとお嫁にもらって貰いなさい。良いわね」


 無情にもその言葉は、ミストの心を縛った。


 私が逃げればアルバが死んでしまう。

 バルデス様が戻れば、きっと何とかしてくれる。

 とにかく手紙をたくさん送ろう。

 アルバだけは生かさないと………………。


 ミストは腹を括った。

「私は魔導師様に嫁ぎます。いつ頃、向かえば良いですか?」


 そうキンバリーに言うと「丁度2人揃ってるし、今から一緒に暮らしなさい。今日は初夜になるわね。後からお祝いを送るわ。もう行きなさい」と、高笑いしている。


 ミストは頷き、2人と部屋を出ようとした。


 すると背中に声がかかる。

「新婚さんは忙しいから、もうここに来なくて良いわ。 お幸せにね」

 そう言って満面の笑みを向けるキンバリー。


 その横に踞るアルバ。

 ミストはアルバを見つめながら、僅かに頷く。


 アルバも泣きそうな顔で頷き返した。


『『きっとバルデス様が助けてくれる。それまで生き抜いて』』


 声には出せないが、二人は互いにそう告げていた。




 男の魔導師はヴォークス、女の魔導師はミサーラ。

 共に戦争孤児で、軍の生体実験に利用されていた。

 魔導師を量産させる為に、体のチャクラを弄り魔力を増幅させる実験が繰り返されたのだ。

 魔導のマスターでもない者が、そんな実験をしてもほとんどが失敗に終わる。

 数百の子供が命を落とした。

 だが実験とは別に、強靭な肉体と精神力で生き残り膨大な魔力を秘めた魔導師が誕生した。


 双子の兄妹は、お互いを励まし支えあい生き延びた。

 双子の実験データは保管されており、幾度もクローンを作成したが、ついぞ生き残ったものはいなかった。

研究は打ちきりとなる。

 そして、その2人を他国に行かせないように多額の報酬で獣人の国に縛りつけた。


 お偉方は言う。

「どうせ教育もされていない孤児だ。何処へも行けないだろう」と。


 だが2人は軍の施設に居た時から、人の良い職員に字を学び脱出の機会を狙っていた。

 何としても生き延びるために。


 世界情勢も新聞やギルドで調べており、この世界は獣人国だけでなく、広く繋がっていることも知っていた。


 いつか逃げ出す計画も立てている。


 この国に、この兄妹に勝てる武器はおいそれとはないはずだ。


 お偉方が無能で助かると2人は笑う。


 そんな2人に今回の依頼が来たのだ。


 報酬は高額で、危険もない単調な作業。


 そして嫁まで付いてきた。


 薄黄色の髪にオレンジの大きな瞳、小麦色の肌に大きな胸と括れた腰。

 魅力的な狐獣人。

 普通に暮らしていたら直ぐに嫁に貰われて、顔も拝めないレベルの美女だ。

 名をミストと言い好きな男の護衛を勤めていた。

 従順に職務を全うし、最後が親の敵に嫁がされるとは。

 まるで人質のように………………。


 俺達も不幸だが、その上を行く不幸者。


 だが生きる為におまえを抱こう。

 そうでなければ、あの(キンバリー)は納得しないだろう。

 天井に影の者が潜んでいる。


 3人は夕食を食べて、おのおの移動する。


 ミサーラは自室へ。


 ヴォークスとミストは寝室へ。


 お互い言葉もないまま、服を脱ぎ抱きしめ合う。


 口づけを交わし愛撫をして、体を繋げる。


 その瞬間、痛みから「あうっ」と悲鳴が漏れる。


 一旦繋ぐのを止め、ローションを多く滴し愛撫を重ね再度体を繋げた。


 今度は悲鳴は漏れなかった。


 天井の影に解るように、何度も何度も体を重ねる。


 これで満足したようで、影は去っていく。


 影が去った後、「大丈夫か」とヴォークスは声をかける。


 ミストも影に気づいた様で頷き「労って下さりありがとうございます」と告げた。


 俺は「初めてでここまでする気はなかったが、キンバリーが納得しないと影は去らないだろうと思った。申し訳ない辛かっただろう」と言葉を重ねる。


「お気を使わせて申し訳ありません。キンバリー様が納得されないと、アルバ、あ、あそこに居たエルフなのですが、折檻されたでしょう。本当にありがとうございました」と頭を下げるミスト。


 好きでもない男との行為に、不満も言わずお礼とは。


「俺はあんたのこと嫌いじゃないよ。お袋さんのことは悪かったな。俺も仕事しないと生き残れないんだ。蟠りはあるだろうけど、気を使わず過ごしてくれ。あー、閨のことは暫く止めとこう。また影が来たら考えよう」


 そう告げるヴォークスに「ありがとうございます。ご配慮ありがとうございます。私も軍人の端くれですので、解っております。閨のことは……ではそのように」と、ミストは再度頭を下げた。


「俺堅苦しいの駄目なんだ。もう頭を下げないでくれ。 良いか?」

 するとミストは少し微笑み、「わかった」と呟くのだった。



 その頃キンバリーは、影の報告を受けほくそ笑んでいた。

「嫌いな相手と無言で初夜とは、良い気味ね。私に逆らうからよ。さあ、今度はちゃんとしたお嫁さんを探さないとね」


 明かりの付かない部屋で、大きめの檻に入れらたアルバは呟く。

「寂しいよ。お姉ちゃん……うえ~ん」


 膝を抱えて、泣きながら眠りに就くのだった。






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