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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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27 失われたエルフの子ら1

 里長は娘の亡骸を抱き、瞬間移動(ワープ)で里に戻った。


 娘の生存を信じていた者達は、変わり果てた姿を見て言葉を失い泣き臥した。


 捕獲業者を手当てする為に里に招き入れたエルフは、娘が連れ去られた時、自責の念から自殺を図る。


 エルフは性善説を信じ実践していた。

 長く生きるなかで自分から心を開き、一度は対話してみることを信念としていたのだ。

 それが今、己の甘さに手に爪を食い込ませて握り締め、血涙を流して里長に土下座して詫びた。


 しかし悪いのは拐った者達であり、そのエルフには罪がないと、全てのエルフがそのエルフを責めなかった。


 そのエルフは600歳を越え、何百というエルフに魔法を教えた導師だった。


 その里皆の手本となるべき先生だ。


 手当てした者から、仮に攻撃されても迎え撃てるという慢心があり、その隙を突かれた形となったのだ。



 許される方が責められるより辛いこともある。


 そのエルフの名は、ポリフェノール。

 里長の次に長寿。

 人間から見れば、外見は40代位の身綺麗な整った容姿をしている女性だ。

 声もアルファー波が心地よく、語るだけで皆を癒す力を持つ。


 そして人間が好きだった。


 短い寿命の中でも必死にもがき、生きようとする赤子を育てていたせいもあるだろう。



 20年前エルフの里の近くに、置き去りにされた男児が発見された。

 ポリフェノールが気づいた時は、頭部以外の至るところが獣に齧られていた。

 魔法布で織られた黒い頭巾が、被せられた頭部だけを守っていたのだ。

 頭巾がなければ、一息で死んでいただろう。

 もし死なせるつもりで放置したのなら、痛みで辛い時間を長引かせることになり、なんてひどい鬼畜だろうと思う。


 だが周囲を見て、それは違うと判断した。


 傍に落ちていた赤子の産着や靴下、おくるみにも魔法布が用いられていたからだ。


 獣が爪か牙に引っ掻けて剥がしたのだろう。


 魔法布は、かなりの高額で取引される稀少なものだ。


 布全体に魔方陣が描かれ、損傷を防ぐ魔法もかけられている。


 高位貴族か王族の子か?



 正直、貴族に関わるのは面倒くさいが、幼子を見殺しにする選択肢はない。


 赤子の損傷はひどかったが、ポリフェノールの治癒魔法により治癒できた。

 獣と共に魔獣にも襲われてていたようで、獣からの傷は残らないが、魔獣の傷は魔法の残滓の為か咬み後がいくつか残ってしまう。



 ポリフェノールは自宅に連れ帰り、名を与え育てる。

「スターディネス、これがお前の名だ。丈夫に育つように」


 1度死にかけたせいか、生後1年未満で青年ほどの魔力量を身に付けた。

 魔法の扱いも解らぬうちのこの魔力は、暴走する可能性を多分に含む。

 可哀想であるが、魔力の90%程制御する腕輪を着けさせた。


 5歳となったスターディネスは、自分が人間で皆と違うことを戸惑っていた。

 赤子からいる彼のことを、だいたいの者はやさしく見守った。

 それでも人間に悪印象を抱いている者もおり、邪険にされたり無視されることもあった。

 理不尽にされるスターディネスの隣には、いつも里長の娘クロウがいて、彼を守り励ました。


 クロウとスターディネスは、クロウが3か月遅れの幼馴染みだ。


 2人は里長やポリフェノールに教育を受け、他の子供達とも大体は揉めず暮らしていた。


 魔力の実習が始まるにつれ、制御を受けているスターディネスは魔法の威力がないことで、バカにされることが時々あった。


 悔しい思いはしたが、ポリフェノールに魔力を制御している説明を受け、何れ解除する話をされると少し希望が持てた。




 ある日子供達が遊んでいると、見知らぬ男が道を尋ねてきた。

 にこやかな表情で、行商に行く途中で困ってしまったと。

 風呂敷に包んだ葛籠を担ぎ、頼まれた商品を運んでいると。


 里近くの村に行く為には、3方向ある通路の1つを選ばねばならない。

 確かに解りにくい道だ。

 特に不信にも思わず、1人が男に道を指し示した。


「ありがとう。助かったよ。ついでに一緒に連れていってやるよ」

 そう言うが早いか、子供を担ぎ上げ走り去ろうとした。


「その子を離せ!」

 そう叫び、クロウが習ったばかりの火球(ファイヤーボール)を投げつける。


「うわっ、危ねっ。誰だよ。へぇ、可愛い顔してるじゃないか。丁度良い、お前も連れていくか」

 男の顔が喜色に歪む。


 クロウの火球は林檎くらいはあったが、如何せん習ったばかりで速度が遅く避けられてしまう。


 その間に男は、クロウの襟首を易々と掴んだ。

 先に捕まった5才の男の子は既に魔法の鎖で捕縛されており、背中の葛籠に入れられていた。


 クロウも捕縛されそうになった時、男へ再び火球が飛んできた。


「汚い手を離せ。そうしないなら……殺す!」

 卵程の火球であるが、凄い速さで男の頬を掠める。


「痛ぇ。何だこいつ。金の目、お前王族か? 何でこんなとこにいるんだ!」


 焦る男の声は、集中状態のスターディネスには聞こえない。


「クロウを離せ!!!」


 男は手で静止の仕草をし、必死に落ち着けと大声で叫ぶ。


 魔力制御の腕輪にヒビが入り、直径50cm程に膨れ上がった火球が錬成された。


「早く2人を離せ。早く!」

 はぁはぁと息を切らしながら、火球を頭上に翳す。


「わかった離す。離すから攻撃するな!」

 男は手早くクロウと葛籠を投げ捨て、一目散に逃げ出した。


 スターディネスは魔力が尽き、その場に倒れた。



「スター、スター、起きてよ。お願いだから」


 ベッドで目を覚ますとクロウが泣いている。

 ポリフェノールも里長もいる。


 部屋の外には、助けられた男の子とその子の両親もいるそうだ。


「ああ、初めて役に立てたんだね」

 スターディネスは疲れきった顔に、穏やかな笑顔を乗せた。


「何言ってんの。子供はそんなこと気にするんじゃないよ」

 そう呟いて、ポリフェノールは泣き崩れた。


 この子はずっと、自分に自信がなかったのだろう。

 1人だけエルフじゃなかったから。


 そう思うと、もう涙は止まらなかった。


 クロウも泣いている。

「スター、守ってくれてありがとう。私の命の恩人だね。本当に……うっ、怖かったよ~~~」

 スターディネスに抱きつき、大声で泣き続けた。



 スターディネスも、クロウを抱き締めて泣いていた。

 あの時は皆が恐怖していた。

 大人達不在の惨事。


 安堵の涙に暫し包まれた。


 だが翌日は、ポリフェノールにしこたま怒られた。

 制御できないほどの火球を錬成したからだ。


「魔力が尽きかけて火球のコントロールも不安定で、いったいどうする気だったのさ?」


 ポリフェノールが尋ねるとスターディネスは、「そのまま足に掴みかかろうと思ってたよ」と、タハハと笑いそう答える。


「まっすぐ突っ込んだら、正面から魔法で攻撃されるだろうが」

 呆れ顔で彼のおでこを指でつつく。


「だけど飛ばしたらクロウ達に当たるかもだし。そんなことできないよ」


 お、以外に冷静だったな。

 そう、コントロール不足で怖いのは、我を忘れて暴走することだ。

 周り全部を破壊し、そして後悔する。

 今回はたまたま無事だっただけだ。

 早急に皆に教育を勧めよう。


 人間の村や町と交流を持ち続ければ、今回のようなことはまた起こる可能性がある。

 子供の監視をするにも限界がある。

 皆に自己防衛を目指してもらおう。


 この日スターディネスの腕輪は外された。

 そして制御の仕方をマスターする訓練が開始されたのだ。


 いつも弟のような存在だったスターディネスは、クロウの中で頼れる友に昇格した。

 失いそうになったクロウを助けたいと思った時、彼女への恋情をスターディネスは自覚した瞬間だった。


 2人の関係は少しずつ変化していた。

 友であり、ライバルであり、兄妹でありと。

 穏やかな数年が過ぎ、いつしかお互いに一緒に暮らせればと思ってきていた時期だった。



 クロウが拐われた。


 それは一瞬のことだった。


 ポリフェノールの手当てを受けた捕獲業者が、彼女に目を止めた数分後の出来事だ。


 手慣れた捕獲業者は、抵抗されないように睡眠薬を嗅がせた。

 その場で魔力封じの腕輪を嵌めた。

 腕輪のせいで、魔力の残滓を追うことが困難となった。



 そこから男の特徴などを手がかりにし、娘を探し回った。


 男を治療したときの血液などから追跡魔法もしかけたが、相手も玄人でなかなか痕跡を手繰らせない。


 エルフ総出で探したが誘拐は隠蔽されているらしく、何年も手掛かりがなく経過した。



 ポリフェノールがお世話した人間の伝手(ギルドや病を治療した貴族など多数の情報により)で、十数年後にやっと居場所が解ったのだ。



 クロウの死にスターディネスは絶望した。

 荼毘に付すまで亡骸に付き添い、森へ散骨後1ヶ月は何も動けず痩せ細り死んでしまいそうだった。


 幾人も声をかけるが、寂しく笑い大丈夫と返すだけだった。



 そんな時にポリフェノールが自殺を図ったのだ。


 クロウの次に大切な、親のようなポリフェノールの行動に衝撃が走る。


 ポリフェノールの元に駆けつけて、ベッドの傍らで手を握り涙が落ちる。

「貴女まで置いていくの?」


 ポリフェノールの両目から涙が伝う。

「ああ、ごめんね。ごめんね。ごめんね。私は自分のことしか考えてなかった。お前を残して死ねるはずないのに。愛しい子よ…………」


 スターディネスを胸に抱き、自分だけ楽になろうとしたことに気がついた。

 2人のことを知るポリフェノールは、スターディネスがどれだけ辛いか、今さらながら昔からのことに思いを馳せた。

 いくら泣いても、2人の涙は止まらなかった。




 それから2人は、クロウの日記を里長から借りた。


 クロウのことを知るために。


 クロウの数少ない自由だった日記には、エルフの里への望郷が綴られていた。

 中でもスターディネスへの心配が多く、意地悪されていないかとか魔獣に傷つけられていないかとか元気にしているかとか。

 そして……早く会いたいと。

 再会する日の為に、屈辱に堪えて生きていると。


「ごめんな、クロウ。俺助けられなかったぁ、グスッ…………」



 後悔を越え読み進めていくと、クロウの産んだ3人の子供達の記載があった。


「クロウの子供……」


 詳細は不明だが、どうやらクロウを拐った業者が連れて行ったらしい。


 公爵家で医師が付き出産したが、クロウは一度も抱かせてもらえず離ればなれとなった。


 公爵は赤子のことを聞かれるのを嫌がったが、何とか性別だけは教えてもらった。


 第1子は男の子

 第2子は女の子

 第3子は女の子



 生きていれば、今は13歳、10歳、5歳となる。


 どうやら3人とも、普通のエルフの魔力量を持って生まれてきたようだ。


 泣き方からも、体調は良いと思われたと。



 日記では毎日、スターディネスと共に子供達のことが案じられていた。


 自分に力があれば、幸せにできたのに

 どうか元気でいて欲しい

 いつか迎えに行きたいと、希望も書かれていた



 だが死が近ずくにつれ、子供達にもスターディネスにも謝ることが増えていた。


 もうダメかもしれない

 ごめんね

 愛してる


 力の入らない文字が並んでいた。


 最後まで恨み言はなく、愛だけが綴られていた。

 もしくは対話できるのが、自分自身だけだったのかもしれない。



「クロウは、子供達を保護したかったみたいだ」

 俺が呟くと、ポリフェノールが頷いた。


「探しに行こう。それが私達にできるせめてもの償いだ。禁術なら何とか探せるかもしれない」


 ポリフェノールはそう言って、子供の頭くらいの水晶に大量の魔力を流す。

 しばらくすると水晶から、グワーッと音がなり目も眩むくらい光出した。


「先生、どうなってるんだ。この光は何?」


「なんてことはない。私の1/3の魔力を水晶に込めた。これで子供達の現在の姿が写し出される」


「一息に魔力の1/3なんて。体は大丈夫なのか?」

 沈痛な面持ちでスターディネスが問う。


「さあな? だが後悔はないよ。いまはこれしか方法がない」

 疲労を隠せない表情で薄く笑う彼女。



 じゃあ、皆に伝えようとスターディネスが言うが、ポリフェノールは静止をかけた。


「人数は絞った方が良い。残念ながらクロウの誘拐の手引きをした者達がいる」


「まさか! 里の者がクロウを売ったと言うのか?」


「ああ、そうだ。この1週間、地脈に魔力を繋げて全ての植物に私の核を入れた。近隣の情報から処理していたら、この里の者からクロウへの懺悔のような言葉が聞かれた」


「懺悔だと? 鎮魂ではなくてか?」

 怒りに満ちた顔で問うた。


「懺悔の内容が、まさか死ぬとは思わなかったとか。そんなに酷いことになるなんてと、数人で言い訳がましいからな」

 その顔は怒りに満ちていた。


「すまない。もう少し落ち着いたら、話そうと思っていたんだ」


 スターディネスは首を横に振り、解っていると優しく視線を返した。


 カタリと音がして振り向くと、里長が酷い顔でこちらを向いている。


「その話は本当か? そんな裏切りをする者と暮らしてきたと言うのか」

 里長は膝を付き、項垂れている。


 ここまで来たら嘘は言えない。

 ポリフェノールは全ての情報を告げた。


「そうか」

 聞き終えると、絞りだすような声でそう言った。


「わしはもう里長の資格はないようだ。復讐しても何も生まないのはわかっとる。でも同郷の者の裏切りは、生きてきた全てを否定されたようでやりきれんのだ。悪いがポリフェノールよ、後は頼むよ」


 悲しげに頭を下げて、そこから離れていく里長。


 ああ、これで貴方ともお別れか。

 頬に涙がスッーと流れた。



 里長も禁術により、クロウの誘拐に関わった者を呪文を唱え業火で屠った。

 禁術を用いたのは漏れなく断罪する為だ。

 ただし効果範囲は直径500km。

 捕獲業者は殺せないだろう。

 それでも、これをもって区切りをつけようとしたのだ。

 代償は己の命。

 娘へのせめてもの償いだった。


 ポリフェノールは里長の亡骸を荼毘に付し、スターディネスと里を後にした。


 里で焼かれた者は5名だった。

 最初は捕獲業者に、魔獣や鉱石を買い取って貰っていた。

 他の商人の3倍で買い取るので、すっかり気を緩し里の情報を漏らしてしまった。

 流石に里で一番美しいのは誰かと聞かれた時、男の瞳が暗く光り危険だと思った。

 1人は答えなかったが、傍にいた若い男がクロウだと言ってしまった。

 すると宝石の入った袋をその男に渡す。

 渡された男は、満面の笑みでその場を去った。

 名前くらいなら良いだろうと。

 残った男達は、宝石を貰った男を羨んだ。

 そして我も我もと特徴やいつもいる場所を言い、皆宝石を貰いホクホク顔で帰った。

 クロウと幼馴染みであった者も、スターディネスにばかり構い、自分を蔑ろにした罰だと言わんばかりだった。



 捕獲業者は新たな商品情報に、喉の奥から笑いが止まらず呟いた。

「ああ、また大儲けだ」


 宝石を貰ったエルフは、情報を小出しにした為か罪悪感が乏しかった。

 俺はあの事しか言ってないし……。

 それに皆も言ってたし。

 宝石を売って、家族にお土産を買おう等々と。



 里長は、宝石の変わりに娘を売った者を全員殺した。

 家族持ちもいただろう。

 でも殺した。

 それ以外考えられなかった。




 植物からの情報と水晶の映像で、子供らのいる場所は特定できた。


 1人目は傭兵で戦っているようだ。魔法でばたばた敵を倒している。

 2人目は孤児院か教会で、子供の面倒を見ているようだ。大変そうだが楽しそうだ。

 3人目は大きな檻に入っており、折檻も受けているようだ。感情を閉ざして身を守っているようだ。健康状態も良くない。


 まず3人目を救いだそう。

 スターディネスとポリフェノールは、3人目を目指し出発した。




 エルフの里は里長とポリフェノール、スターディネス、断罪されたエルフが居なくなり、強い攻撃力のある者が不在となったことで、魔獣や侵入者の攻撃に常に脅かされるようになった。

 呪いの力を増強して身を守る為、光の力を捨て全員がダークエルフへと変貌した。

 銀髪緑の眼白い肌から、黒色の肌に朱色の髪、黒の眼へと変貌を遂げた。

 そして自分達を貶めた人間達を、決して許さないと心に誓いあったのだ。





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