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お母様はイケメンで失敗しましたが(笑)、最後に笑うのは誰?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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26 動き出す者達 その2

 監視者であるはずの魔法師団副師団長が、接触を図ってきた。


 失脚し療養地に送られたソフィア様に、今更何の用があると言うのか。


 メロウは警戒した。


 ソフィア様に反逆の意を被せ、処刑する為の罠かもしれない。



「警戒して当たり前なのはわかってるけど、話だけでも聞いてくれないか?」


 濃緑のボブヘアと黄土の瞳を持つ、細身の美丈夫が会話を続ける。 

 背丈が190cm程あり、外で洗濯をしていたメロウが見上げるのも骨が折れる。

 目線を外し黙々と洗濯を続ける彼女に、止まることなく彼は話す。


「君はサクレット子爵を知っているか? 今は亡き市民の敵。伝染病を広めた悪者貴族を」


 噂でしか知らないが、貿易業で莫大な資産を築いた成金貴族。

 金の為なら、御禁制の品にも手を出す野心家だと言われていた。

 子爵が失脚したのも、御禁制の品に手を出したからに他ならない。

 密輸された品物から疫病が感染し、積み荷が着港した町が一夜にして壊滅した。


『品物はダークエルフ』


 疫病と言われているが、本当は呪いだった。

 拐われたダークエルフ側から拐われたことを隠蔽することを依頼されたアマンダが、疫病として公に情報開示したのだ。

 普通のダークエルフならば、力が強くてもせいぜい周囲の2、3人に術をかけられる程度だ。


 だが、相手が悪かった。

 魔道具で気絶させたダークエルフは、次期女王候補のピークライトだったからだ。

 森で薬草採取していた際、気配を消した捕獲業者に背後から攻撃を受け拐われたのだ。

 魔封じの腕輪をされ船底に転がされたピークライト。

 抵抗できないだろうと甘く見た捕獲業者は、着港まで様子を見ることもしなかった。


 次期女王候補の魔力量は膨大だ。

 市販の魔封じの腕輪位では、ピークライトの全魔力を封じることはできなかった。

 口に猿ぐつわをされ詠唱ができなくとも、足指を船から突き出ている釘で傷つけ血で魔方陣を展開。

 効果範囲は自分以外の生命体。


 人間に限定しなかったのは、裏切り者のダークエルフが里の在りかを晒したことが明らかだからだ。

 里には結界が廻っており、入るには女王の血で染められた真珠の通行証が必要だ。

 真珠は女王が亡くなれば自然粉砕し、新たな女王の通行証がなければ入里は不可能である。

 その為手引きをした者は、少なくとも里の関係者であると思われた。

 通行証があっても里の位置がわからなければ、決して立ち入れないからだ。

 どんな理由があろうとも、捕獲業者に村を明け渡すことがあってはならない。



 数百年前に人の良いエルフが、怪我をしている猟師を里に入れ手当てしたことがあった。

 最悪なことに、その男は捕獲業者だったのだ。

 保護猛獣を捕獲しようとして、腕を損傷していた。

 捕獲業者とエルフが出会ったのは偶然だ。


 見目のよいエルフは、闇市場で高値で売買されている。

 傷の手当てを受けた捕獲業者は、こともあろうに里長(さとおさ)の1人娘クロウを拐かして逃げた。

 美しい銀の髪、深海のごとくムラのない濃紺の目、見目の良いエルフの中でも極上の造形の面とすらりとした肢体。

 癒しの魔術を持つ村中に愛される優しい性格の娘であった。



 里長は必死に娘を探した。

 十数年をかけ里の民総出で探し、娘を購入していた公爵家を突き止めた。

 千年近い寿命を持つエルフだが、魔道具で魔力を封じられていた娘は40歳程であるも、魔力の循環が悪いことや虐げられた環境にいたことで、既に瀕死の状態で発見された。


「お父様、会いたかった、です……迎えに、来て、くれて、あり、がと、……………………」


 手足は小枝のように痩せ、自力で起き上がることもできない状態だ。

 里長は娘を抱き上げて、一緒に帰ろうと何度も言って抱き締めた。

 娘は震える手で、自らの日誌を指さし目を閉じる。

 最後に薄く笑い里長の頬を撫でた後、息を引き取った。



 里長は、娘の亡骸を抱いて慟哭した。

 涙が枯れるほど泣いた後、里長はこの館の人間を1人を除き全て眠らせた。


 当主の公爵だけを、逃げられないように十人の精鋭で囲む。


 公爵の痛覚を遮断し、脳が見えるように頭蓋骨を切開し外す。


 大脳皮質と海馬に直接触れ、娘が拐われてから公爵が関わった記憶を読み取る。


 信じられない記憶が里長に流れてくる。


 公爵家の客室に幽閉され、娘は常に公爵に執着され犯されていた。


 貴族家の綺麗な部屋で豪奢な衣装を着せられていたが、庭に出る以外は自由はなく、公爵夫人やその子供に会えば罵られ、嘲笑われていた。



 何度も公爵に里へ返して欲しいと懇願するも、「お前は高い金を払って買われたんだ。死ぬまで私の隣に居てもらうよ。美しいエルフよ」と、下卑た笑いでそう答え、彼女を絶望に落とす。


 成人となったエルフはそこで成長が一旦止まり、100年毎に少しづつ老化していく。


 公爵は歓喜していた。

 妻や愛妾が歳を重ね醜くなる中、彼女だけは何も変わらず美しいままなのだから。

 公爵は彼女に溺れた。

 全てにおいて美しい女が、常に隣にいるのだ。

 自分は歳を経り醜くなるが、彼女がいれば自分も若いままのように錯覚できた。


 長い年月の中、3度の妊娠と出産をした。

 3人とも産後すぐに捕獲業者に売り渡された。

 公爵が欲しいのは、美しいエルフである彼女だけであり、煩く喚く赤子は例え自分の子であっても、不要なものだったのだ。


 思えば彼女のことを、名で呼ぶこともしていなかった。

 単に情が移るといけないと考えたのではなく、本当に人権などを考えず美しいペットとしての認識しかなかったのだ。

 彼女は出産し、子と別れる毎に壊れていった。

 魔封じの腕輪で魔素を体に上手く取り入れられなかったこと、お腹を痛めて産まれた子を育てることもできず、自分のように奴隷のように売られていくこと。


 全てに絶望した彼女は、公爵家の血筋に呪いをかけた。

 公爵に連なるものに子が産まれたとき、産声と共に全ての魔力を自分の産んだ子供に送る禁呪。

 禁呪たる由縁は、周囲の者が呪いだと気づかなければ、生命が途切れてしまうことに成りかねないからだ。

 王家の血が流れる者は、必ず魔力が含まれている。

 魔力がある者は、魔力値が0になると命が脅かされるのだ。

 魔力抵抗の乏しい赤ん坊ならば、致死率はほぼ100%であろう。

 自分が死んでも強い魔力があれば、並大抵のことで死んだりダメージを受けることはなくなる。

 せめてもの子へのギフトだ。

 もしも運が良ければこの事を知った里の者ならば、高い魔力を秘めた子を探しだし救助してくれるだろうと言う希望も込めた。


 禁呪を使用後、彼女は徐々に衰弱していた。

 人間が行えば、大魔導師でも魔力が尽き即死の術だ。

 いくらエルフと言えど、魔封じの腕輪をしたままではかなりの深手を負ったが、死んでも良いと思っていた。


 その禁呪をかける動作を目に映していても、公爵には何をしているかも理解できていなかった。ただ一心に、命をかけて躍り続けたその姿に。

 美しい彼女の憎しみの籠った顔に、魅了されてしまっていたのだから。



 その後に寝たきりのまま過ごす彼女を、捨てることも殺すこともできず、メイドに世話をさせ数年が経過していた。

 御禁制のエルフを医者にも見せられず、美貌を失っていく姿に、次第に公爵も寄り付かなくなった。

 彼女は死んだ方が楽だったかもしれない。

  甘ったれた公爵は、自分で生殺与奪の判断もできないロクデナシだ。

 楽しいこと楽なことしか手を出せないダメ貴族。

 そんな奴の子でも、子には罪はないと子を恨むことはなくどこかで元気で生き延びて欲しいと願う彼女だったのだ。




 娘の日誌と公爵からの情報で、これまでの経過把握ができた。

 脳から記憶を読み取った後、そのまま握りつぶしたい衝動を抑えて里長は元通りに修復する。



 そして正気に戻った公爵に、苦々しくこう告げるのだ。


「お前のせいで公爵家の血筋は育たない。産まれた瞬間に、赤子の魔力が全て我が娘の子に注がれるであろう。まあ、お前の子でもあるな。お前の子ならば公爵の血が絶えたことにはならんのかな。 

 ある意味喜ばしいか。お前の子供だけが生き残れるのだから。まあ探そうにも、既にどこにいるか分かんだろうがな。お前はこれからも何もせんで良い。ただ伝えよ。 

 子が死ぬ原因がお前にあるとな。言うならば早い方が良いぞえ。言えるものならな」


 そう言い残し里長は、娘の亡骸と仲間のエルフと共に帰途についた。


 残るは茫然自失の公爵だけだった。

「どうしたら良いのだろう………………」


 意気地のない公爵は、結局他者に呪いのことを伝えられなかった。


 ただソルビトール公爵家の血を僅かでもひいている者は、産前は何も異常がなくとも出産後に皆死産する為呪われていると、密かに言われ続けていた。


 それは離縁後出産しても同様であり、次第にソルビトール公爵の縁戚達へ嫁ぐ者も少なくなっていた。


 ソルビトール公爵は、何十人もの子の死を見送った。


 何度も誰かに話そうと思った。

 だが既に取り返しがつかない罪に、まだ保身の為に口をつぐんだままだ。


 公爵は寿命で死期が近づき、遺言として経緯(いきさつ)を書いた物を残し亡くなった。


 そこで初めて公爵の悪行が露見し、解呪師を探すこととなった。


 もともと少ない解呪師だ。


 国に飼い殺しにされないように潜伏している者が多かったので、大金を払っても探すのに3年かかった。


 1人では到底外すこと叶わず、仲間を呼んでもらい3人がかりでやっと解呪となったのだ。

 その理由の1つに、術者が死んでいることが挙げられた。

 生きていれば呪いを返すこともできたが、返す先がなければどうにもならない。

 1つずつ術式を外すこと2か月。

 解呪師が障りを被らないように、気が抜けない期間が続いたのだ。



 そして、この地域に一番近いエルフの里が突如消失したと言う噂が流れた。

 以前は人間とも交流があり優しいエルフ達だった。

 偶然に里近くを通った行商人が、耳が長いエルフらしき者を見たと言うが、その姿は全身の肌が黒く髪も朱色で見つめられただけで具合が悪くなったとのこと。

 銀髪に緑の眼の、透き通るほど白い肌のエルフとは何もかも違うようだ。



 だが解呪師は思った。

 きっとそれは人間への恨みから、人間だけに害を及ぼすダークエルフへ変貌したのだと。

 人間へ善良だったエルフは、人間を敵とみなしたのだと。

 今回の件が絡んでいるかもしれない。

 だが心に留め置き、解呪師は人に紛れた。

 彼等もまた、為政者に支配さえた過去があり、決して表舞台には立たない。

 今回の依頼はポリフェノール絡みだから受けたのだ。

 ポリフェノールは裏切らない。

 それだけは確かだから。

(ポリフェノールだけには書簡で伝えておくか)


 そこで解呪師は、この件全てを意識下に追いやり、日常のパン屋に戻るのだ。






◇◇◇

 当時僅か6歳であった彼は、その後記憶を辿りながらある程度の推測を加えて持論を持った。

 それはダラントス大公に依頼されたダークエルフの捕獲を失敗し、その罪の全てを背負わされて死んだ両親のことと、諸悪の根源である大公に咎めがなかったことだった。



「疫病で町を壊滅させたと言われる、サクレット子爵の子供が僕なんだ。魔法師団副師団長、グウェン・ポルトコル。以前の名はグラジラス・サクレット。大公の罪まで被り僕以外の全員が殺された。ポリフェノールのせいでね」


 当時を振り替えれば、仕方がない罪状だったかもしれない。

 だが密輸のことを何も知らなかった、母まで死んだのだ。


 母の最期の言葉はこうだ。


「ごめんね。貴方を1人にしてしまう。ポリフェノール様に、教会で奉仕するなら罪を問わないと言われたの。でも私は、貴方のお父さんがいないと駄目なの。生きていけないの。貴方を裏切る形になってごめんね。いつまでも愛してるわ。グラジラス、貴方は間違えないで幸せになってね」


 そう言って、断頭台に消えたんだ。


 僕を置いてきぼりにして、1人にして。


「だけど全てを裁くことが、本当に必要だったのか? 穏便に済ませて、今後そういうことができないように取り締まるだけではだめだったのか? 貴族は金がいる。 領民を養う為に。責任に見合った守られ方もあるんじゃないのか? だって密輸を頼んだ大公は生きているんだろう? 不公平じゃないか」


 グウェンは、声を押し殺して泣き出した。


 その気持ちは、メロウにもよくわかった。

 ソフィア様のことを準えばそう思う。


 そうか彼はポリフェノールのやり方に、苛立ちを感じているんだと。


 ポリフェノールは正しい。

 だけど本当に、それしか方法がなかったのかと。


 たかが伯爵家が、我が物顔で制裁をくだすなんて!


 その指示を出した、アマンダだけは許せない。


 計画があるのなら聞いてみようじゃないか。

 あの女を潰せるのなら、何でもしてやる。

 それでソフィア様が報われるならば。



 逆恨みだと自覚はあれど、止まらない思いは誰しもあるもの。

 ここで境遇を同じくした者が、2人集ってしまった。



 件の大公は公には生きているが、本当の大公はこの世にいない。

 真実を知らない2人は、知る由もなかった。






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