2 伯爵家のもう1つの仕事
夜が更け、周囲の物音がしなくなった時間、アマンダの1日が動き出す。
「お嬢様、今日の報告は2件です」
伯爵邸の地下通路を通り、アマンダの部屋にある暖炉横に直通する隠し戸から、黒装束の2人が現れ王室からの依頼を告げる。
1人は執事のリプトン、もう1人は庭師のダージリンだ。
リプトンは身長172cm、オールバックとふさふさなグレーの口髭が似合う黒縁眼鏡の美丈夫。
若い頃は、かなり人気があったらしい。
私は、渋味のある今の姿が好きだけど。
細身だけど鍛え抜かれた肉体は、私が何度体術訓練をしても勝てたことがない(部隊の人も、ほぼ勝ててないけどね)。
12歳位の時に前伯爵に拾われたそうで、以来執事見習いから今の地位に就いた。
14歳で隠密部隊に入り30年、前伯爵への忠誠は私に引き継がれている。
ダージリンは、前伯爵が戦場時に保護した子供達の内の1人だ。
3、4歳時に伯爵邸に来てから、前任庭師に付いて庭師と隠密の仕事を学んだ。
ダージリンも前伯爵への感謝が強く、命がけのこの仕事に就いたのだ。
伯爵からは、普通に幸せに暮らすことを望まれたが、平和な国にする手伝いをしたいと押しきったそうだ。
幼い頃からアマンダの遊び相手兼護衛的な、まん丸ほっぺの可愛い男の子は、ほぼ17歳になった現在、身長190cmを越える強靭なマッチョに変化していた。
青い髪と黄金の瞳が綺麗な美男だが、隠密の仕事以外は髪で顔を隠しているため、素顔を知るものは少ない。
本人もそれで満足している。
仕事は目立たないことが必須だとしても、他者から外見で判断されることを嫌っていたようだ。
今回の仕事内容は2つ。
1つ目は末姫の警護。
2つ目は末姫の誕生のお披露目時までに、城内に仕掛けられた爆破装置を破壊すること。
2つ目の情報は、1度姫が襲撃にあった際に捕獲した者からの尋問後の情報からだ。
ちなみに誕生会は5日後である。
アマンダ:「直接の姫の護衛は私がするとして、次の問題は爆弾装置の破壊のことよね。予測はついているのかしら」
ダージリン:「誕生披露でなんらかの動きを計画しているから、城内の人の密集する所か、大規模な爆破を狙うなら庭園や城周囲全体にも捜索を広げるべきだな」
リプトン:「王宮内に敵の手の者がいれば、大規模な捜索は相手に気付かれますな」
ダージリン:「となると、夜間に調べるしかないか。お嬢はなんかある?」
アマンダ:「私は誕生会の姫の付き人を兼ねて、早めに入宮する予定よ。状況を見ながら捜索するつもり」
リプトン:「王城では近距離でお守りできません。 危険ではありませんか? もちろん見守れる範囲で護衛は付けますが」
アマンダ:「私だって、これでも隠密部隊当主なのよ。もっと信用して欲しいわね。それに手に負えないならSOSするから」
本日の会議も坦々と終了。
会議内容は、リプトンとダージリンから部隊に伝えられる。
いつでも完成した作戦はない。
情報を照らし合わせながら、都度修正していくのである。
いわゆるホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)が大事というのは、どこでも同じですね。




