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17 見えない亀裂 その1

 それは小さな疑念から生じた。



 披露会の途中で、主なる王族がカンファレンスルーム(会議室)に、少人数ずつひっそりと移動させられていた。


正妃ソフィアが誘導され会場に着くと、すでに何人かの顔ぶれが並ぶ。


その中心にはバイオレットとコレットが、5人の侍女に囲まれていた。


その傍らに王の姿も見られる。


何らかの事態が生じここに匿われたことは理解に及んだが、王があの女の隣にいることには苛立ちを覚えた。


正妃である自分よりも先に避難して、王と共にいる。


思ってはいても言葉にはしなかったが。


今は緊急事態だ。


 

 だが王を見るに、特段慌てた様子は見られない。


今後の対策についての打ち合わせをした気配もないのだ。


「王よ。 今はどのような状態なのでしょうか? 危害が及びそうな事態が起きたのでしょうか?」


ソフィアは王の耳元に寄り、小声で王に問うた。


「ああ。 実はな、先日コレットが(かどわ)かされそうになったであろう。 その際に捕らえた賊から、城に爆弾を仕掛けたとの情報を得てな、捜索し爆弾を撤去したのだ」


「それでは安全なのでは?」


「撤去したのは4日前だ。 爆弾事態は本物だったが、起爆するつもりのないダミーではないかとの意見があってな。 爆弾を見つけ安心した所で、本当のテロが起きるのではないかとの予測で、本日の披露会となったのだ」


「披露会を中止にすべきだったのではないですか?」

知らずに、やや上ずった声を発していた。


「何が起きるか起きないかのあやふやな状態で、直前の式典中止は威信にかけてできなかった」と力なく呟く王。 


「それでは今は何事か起こったのですか?」

ここに集められたことから何事かあったのは明らかだが、ソフィアが聞かなければ王は語らないと思い、問い質す(といただす)。


「ああ。 探りをいれていた家紋がホールで接触して来て、王家の金目(ゴールデンアイ)を持っていたんだそうだ。 そして一瞬ののち消えたと。」


「そんな・・・・・」

特殊魔法が宿る金目は珍しく、久しく生まれていない。


今は前王と現王の2人だけだ。


いやもう1人いる・・・・・・・22年前にダイアナが逃がした子供。 





ーーーーー  確かステナと言った   ーーーーー


 ダイアナの死後、公爵家の手の者でしらみ潰しにステナを追ったが、すでに隣国へ渡り手が出せなかった。 

モーリンとダイアナの暗殺を知るかもしれない邪魔者。


いつもいつも私の幸せを邪魔するダイアナ。 

王太子妃の頃より、王太子側妃を優遇する義母。 

私の子より下民の子を可愛がる義母。 

何もかも気に入らなかった。 

だから殺してやったのに、今また立ちはだかるか。



知らずと怒りに満ちた表情と化していた。

王の前ではしばし笑顔を張り付けて対応していた顔が、今は取り繕えないほどだ。 

目はつり上がり、眉間に(しわ)を寄せ、唇は引き結んでいる。


「ソフィア、大丈夫か?」

王は王妃の異変に戸惑い声をかける。


「はっ。失礼しました」

あまりの恐怖に、いろいろ考えを巡らし不安に駆られたと伝えた。 

当時憶測はあったが、モーリンやダイアナ殺害についてはソフィアの生家、イノディオン家が揉み潰したため、うやむやになっていた。 

その為王は、イノディオン家がダイアナを殺したことを知らないのだ。


「一瞬のうちに消えたと言うことは、金目がその能力を有しているのですか? 他に仲間はいるのですか?」


「まだ調査中だ。 しかし爆弾の件を考えれば、仲間がいると考える方が自然だろう。 気づかれぬうちに爆弾設置や披露会に潜入など、大規模な組織と見て間違いないだろう」


「そうですね。 それにしても、犯人の犯行動機は何なのでしょう? 声明文などはあったのですか?」


王は首を振り、「いや、何もないんだ。 何かを要求することもない」


「そうですか。 情報待ちなのですね」


「そういうことだ。 不安だろうが気をしっかり持って欲しい」


「 勿論です。我が王よ」



そして王からやや距離を置いたソフィアは、侍女を遣いに出す。

「できる限りの詳細を伝えよ」と。


侍女の生家も、数世代前に降嫁した経歴がある伯爵家だ。


そして侍女も『盗聴』魔法が使える。


 侍女の生家の伯爵家は、山合から川沿いの間に広大な農耕地を持つ、資源豊かな領地である。


しかし数十年前の土砂災害により、多くの被害があり復旧中であった。 


貧しい訳ではないが余裕もない実情。


子を連れて、離縁し戻ったメロウ・シッチンは、肩身の狭い思いをしていた。 


その時に声をかけたのが、当時王太子妃のソフィアだった。 


王城に住み込みである為、子にはなかなか会いに行けないが、給金は高く生家にほとんどを送り援助した。 


ソフィア生家からの支援もあり、早期に復興に繋がる。


伯爵は道筋となってくれた娘に途切れぬ感謝をし、恩を返す様にメロウの娘に最高の教育を施した。


 メロウはこの時、何があってもソフィアに報いようと誓ったのである。




 イノディオン家の調査により、侍女になる前にメロウの魔法が『盗聴』だと知っていた。


むしろその能力を得るために、伯爵家に恩を売ったと言っても過言ではない。


シッチン伯爵家は、『盗聴』の能力を外聞が悪いと言って公表していなかった。


なぜ知られているかと聞かれれば、調べたというしかない。


聖堂教会で、10歳前後に上級貴族が受ける鑑定式でだ。


ただしその情報は機密扱いである。 


暗殺・盗賊や透視など、貴族的に不具合となる能力も多いからである。 


大抵そのような能力があった際は、魔法はなかったと公に申告される。 


不名誉を受ける位なら、魔法の血が薄かったと言った方が無難だからだ。


犯罪が起きた際の調査時にしか、公にできない法になっているのだ。



 違法により(聖堂教会への一部教会員への賄賂により)、ソフィアは能力のある侍女を手にし、有利に物事を進めてきたのである。


 しかし、今回ソフィアは焦っていた。

王がソフィアに爆弾のテロのことを話さなかったことで、わざとソフィアを危険に晒しているのではないかと。


ダイアナ殺しが露見したのではないかと。


ステナの顔がちらつく。


ステナが最初に狙うとなれば、それは間違いなく自分なのだから。




メロウからの報告を、身じろぎもせず待つソフィアだった。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

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