15 かりそめの祝い その1
夜の王城は、光に包まれたように輝いていた。
遠目から見てもそうだが、一歩踏み入れると煌めくシャンデリアや壁に取り付けられた魔道具の照明で、翳りのないように照らされていた。
食事は立食で、一口で摘まめる軽いものからお腹にたまるがっつりしたもの、デザートと不足が出ないように準備されている。
招待を受けた貴族達が、馬車で着いた順にぞくぞくと降りていく。その列はまだまだ途切れない程、行列を成していた。
「お誕生日おめでとうございます。益々の御健勝を祈っております」
コレットの誕生披露なのだが、睡眠時間の多い赤ん坊の覚醒姿はなかなかお目にかかれない。
それはどの王子・王女の時も同様で、お祝いの言葉を述べ、寝姿を見てどちらの顔に似てきたとか、母体や子の健康状態はどうとかなど当たり障りない会話が続く。
ただいつもと違うのは、コレット周囲の侍女が多いことだ。バイオレットは王より格段の寵愛を受けているので、コレットにも他より多くの御世話役をつけたのだろうと、特に不振に思う者はいなかった。
城内に武器は持ち込めないが体術に優れる王宮騎士が、場外では武器を携帯した騎士が各所に配置されていた。 王族には魔法師が周囲を囲むように警備している。
ふと来客を観察すると、ポリフェノール家一行の姿を視野にとらえた。
薄いすみれ色のかわいいパフスリーブドレスのマリアンヌと、胸がやや強調される濃紺のコールドショルダードレスを纏っている夫人。
夫人は、フェインの瞳色の紫水晶の大粒のネックレスを胸元に飾っていた。
マリアンヌはピンクサファイアのイヤリングと小粒のペンダントを。
そしてフェインも燕尾服の袖から、夫人の瞳色と同色の黄緑のカフスボタンがチラリと見えている。
(ああ、なんて仲が良いのかしら。私とお母様にはない気配りね)と、アマンダは抑揚なく思った。
今回が始めての社交パーティーになる為、ずいぶんと気を配ったのだろう。事前の準備期間が3日前と短いわりにはよく揃えたものだ。
アマンダは護衛なので招待状はない。
招待状は本来3か月前には配っているが、フェインが王都の伯爵邸に戻りパーティーを知ったのが5日前。
そこでごり押しし、招待状を送って貰ったのだ。
その後目で追うと、ジンジャーは領地から来たポリプレン子爵(ジンジャーの父)と話をしている。
籍を入れるまでフェインのこともマリアンヌのことも知らせていなかった為、社交で顔を合わせるのは今回が始めてだろう。
フェインもマリアンヌも穏やかに接している。
今回子爵は愛人を連れていなかった。
噂によると別れたらしい。別れてから事業が滞りなく回るようになり、パトロン(資金提供者)も見つかって順調のようだ。
今日の子爵は、自分の弟の子(姪)とその侍女を連れていた。
ジンジャーは知らない顔だったが、ほとんど家におらず社交もしていなかった為、自分だけが知らないのかもとあっさり受け入れた。
子爵は「お前の叔父は貴族席がなく、商売をしているんだ。すごく世話になったので、この2人を引き取って養子にしたんだよ」と、平然と話す。
(え、養子?? 資金繰りが苦しい時に、命がけで魔物狩りをして援助した娘に報告もないの。いつも勝手に決めて……)
一瞬怒りをぶつけようとしたが、今は披露宴だと思い直す。
(もう結婚したし援助もしなくて良いなら、かえって良かったじゃないの)
無理矢理笑顔を作り「とても可愛らしい方ですね。よろしくお願いします」と、ジンジャーから折れて挨拶した。
ステナ:「こちらこそ、よろしくお願いします。お嫌じゃなければ、お姉さまと呼んでもよろしいですか?」
「ええ、お好きなように呼んでください」
2人とも張り付けた笑顔のまま挨拶を交わし、その場を後にした。
周囲にぎこちない印象を残し、フェイン達がコレットへ挨拶に向かう。
フェイン:「バイオレット様お久しぶりでございます。コレット様のご健勝心よりお祈り申し上げます。今日は新しく妻になったジンジャーと、娘のマリアンヌもご挨拶させていただきます」
ジンジャー:「ご挨拶申し上げます。ジンジャーと申します。ご健勝お祈り致します」
マリアンヌ:「ご挨拶申し上げます。マリアンヌと申します。ご健勝をお祈り致します」
ジンジャーもマリアンヌも、練習の成果がでて綺麗なカーテシーだった。
バイオレット:「みなさん、ありがとうございます。こちらこそよろしくね。今日はアマンダさんをお借りしてすみません。せっかく家族団らんになる所だったのに」
嫌みや悪気はなく、本心で言っているのだ。
周囲は凍り付くも、バイオレットはニコニコと微笑んでいる。
「バイオレット様、ご心配には及びませんよ。私はお仕事が楽しいのです。コレット様のお側にいられる幸せをありがたく思っておりますので」と、喜色満面に返す。
そして挨拶は、無事終了となった。
アマンダは、先程のジンジャーと子爵の話を聞き逃さなかった。
父の愛人の周辺関係は熟知済みだが、子爵の弟の話は聞いたこともないし、調査でも浮き彫りにならなかった。
しかし諜報部の調べでないということは、ないのだ。 子爵の狙いはわからないが、絶対に見逃せない。疑う。
アマンダはバルコニーに出て、すぐ下の茂みに潜むリプトンに口唇で先程の内容調査を依頼する。
緊急案件だ。
何かわからない不安が付きまとう。
だが強い悪意は誰からも窺えない。
アマンダは女騎士のレイチェルにだけ、不審に思う者がいるので少し席を外すことを伝えた。
情報がいる。なるべく多くの。
2人から情報が得られると良いのだが…………。




