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14 ポリフェノール家 その3

「おはようございますお父様、お母様」


ああ、おはようと互いに挨拶を交わし食卓につく。


宿屋に住んでいた時は、家族で定食を食べてから仕事へ向かっていた。 混雑する宿屋の食堂はいつも活気があり、フェイン達もお喋りしながら楽しい時間を過ごした。 昼食は仕事場やダンジョン内で、そして夕食はまたみんなで過ごす憩いの時間だった。


 しかし今は違う。食堂には僅かに会話をする程度で、フォークとナイフの擦れるわずかな音も響く。 貴族らしく優雅な食卓だ。 フェインは以前のように、おしゃべりしながら食事をしたかったが、マリアンヌがマナー勉強の為なのでと言い、この状態だった。 彼女に甘いフェインは受け入れるしかない。


 彼女は食事を終えるとお先に失礼しますと言い、席を後にした。 今日は誕生披露会の為に頼んだ、ドレスの外商が来る。 朝から楽しみにし、浮き足立っていたのを隠そうとして部屋へ駆け込んだのだ。 この屋敷に自分達親子を歓迎していない者は多い。 普通に考えれば致し方ないだろう。 極力隙をみせないように、そして宿屋の給仕を思いだし、常に相手に気に入られるような口調と笑顔で。


「あ~ ドレスが着られる。 披露宴に行けるんだ」


枕を口に強く当て、外に声が漏れないように声を漏らす。


気品高くと言っても、嬉しいものは嬉しくて声に出すことを隠せなかった。 幼い頃から憧れたドレスなのだから。


 だがマリアンヌは理解している。 ここはダンジョンと同じ、敵地なのだ。


どんなモンスターが出るとも限らない。


仲間を増やす、敵意がない仕草をする、敵意があっても仲間のように擬態する、敵を寝返らせるなどなど。


まずは情報を集めないと。 それまでは息を潜めて目立たないように。


 彼女の今の武器は、父の身分・愛情、本人の容姿と乏しい。


知っていることといえば、アルバイト経験からの人間への観察眼・平民として暮らしていた経験から貴族の傲慢・理不尽さ。


 勿論全てではないだろうが、父以外にまともな貴族にあったことがない。 いや父だとて自分達が不在時の所業はわからないのだから。 身分的に伯爵と子爵の子にはなるが、他者目線は正妻の子への対応とは違うものになるだろう。


 今は敵意を隠し、何も知らなかった無知な娘を演じよう。


害にも薬にもならないつまらない印象を。 そして僅かでも根をはるのだ。 除去できないほどの強い根を。


ドアノックがあり侍女が訪室する。

「お嬢様、外商が来ました。 ドローイングルーム(応接間)に待たせてあります」 侍女と共に赴き、父母と一緒に服を選ぶ。

 

あくまでもキラキラしたものを見るような態度で、自分では地味なものを選び控えめな印章操作を。 


そして私が選んだのは、薄いすみれ色の落ち着いたドレスだった。 まだ目立つわけにはいかない。 その代わりなのか父からは、小ぶりだが値の張りそうなピンクダイヤのイヤリングとネックレスをプレゼントされた。 今回は時間がなくて既製服だが、次回はオーダーメイドで作成しようと言われる。


「素敵な色ね。 ありがとう、一生懸命大事にするわ」

マリアンヌは包容し頬に軽いキスを落とす。


そう言って貰えて嬉しいと微笑みながら、父はドレス姿を眺めている。


 母もドレスを選ぶ。胸が大きいので、胸がなるべく目立たない意匠のレースを重ねた濃紺のドレスだ。 冒険者時の胸が強調された動きやすい服とは反対だ。 父は母にも衣装が似合うと誉めている。


 貧乏子爵だったジンジャーは社交の怖さを知っている。 むしろ貧乏子爵だったからこそ、余計に嫌みなどの嫌がらせをたくさん受けていた。 数少ないドレスや装飾などに目敏い夫人は少なからずいるものだ。その取り巻きも。


 でも今は違う。そのことに悩まないだけでも、心が楽になっていた。



 マリアンヌの計画は、まず1つは進んだのだ。

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