13 ポリフェノール家 その2
「ガタタッン ガタタッン ガタタッ……」
朝起きると、馬車が動き出す音がした。
「あぁ、あの人お城へ行ったんだ。これでゆっくりドレスが選べるわね」
マリアンヌは、窓から馬車が走り去るまで眺めていた。
両腕を上方に伸ばしながらあくびをして、メイドを呼ぶベルを鳴らす。フェイン・ジンジャー・マリアンヌの朝は、用事がなければ8時位から始まるのだ。
アマンダの朝食は朝5時と決まっていた。その後演習場で剣術の鍛練を行う。
終了後に領地の運営状況、陳述書、貴族家からの政策案等をリプトンから報告を受け、当主印の必要なもの以外はアマンダ権限で捌いていく。
フェインは後継教育の際、当主印が要るものは当主の責任が伴うので必ず自分で判断確認し、それ以外はリプトンに一時的に任せても良いと言われていた。
但し後から概要の説明を受けて、言い分が異なることは相談するようにとも。
長期に従事するリプトンの仕事は完璧で、口を挟むことはなかった。その為途中からは概要だけを聞き、当主印が必要な数少ない書類を確認するだけで、業務を終えてしまうことが多くなっていく。
ジンジャーと落ち合うようになってからは、当主印を押す為だけに帰宅し、他の書類の概要を聞くことはなくなった。
妻とアマンダには、外出先の領地やダンジョン話を数回の食事時に行い、また出かける必要があると言い訳して、屋敷を後にするという繰り返しだった。
恋は盲目というが、こんなにも堂々と浮気できる無神経さには呆れるしかない。
フェインの身分はあくまでもポリフェノール伯爵家の婿であり、息子ではないのだ。
離縁されれば、長男が継ぐスクラロース伯爵家に出戻るしかないのに。
フェインの身勝手を許してしまうのは、アマンダの母からの絶大な愛情に他ならない。
母以外の誰もが離縁を望んでいた。
あまりにも母が不遇だったからだ。
結婚を許した前伯爵すら、こんなに不誠実な人間だと見抜けなかったと、自分を責めていた。
それでも離縁しなかったのは、やはり顔の造形のせいだったのだろうか?
意地だったのだろうか?
今となっては真相はわからないが、きっと舞台俳優に焦がれるファンのようなものだったのだと思う。
一度手に入れたものを手放せなかったのだ。
もっと年を重ね容姿が衰えれば、案外見切りは早かったと思うが、その前に亡くなってしまった。
もし舞台なら、「いろいろあって、お姫様と王子様は結婚して幸せになりました。しかしその幸せは長く続きませんでした。なんと王子様に、新しいお姫様が現れたからです…………」とかだろうか?
王城へ行く馬車の中で、ふと母のことを考えていた。
あの母と父の血が流れてるって……。うん、反面教師って言葉は、こういう時に使うものだと思考に見切りをつけた。もうすぐ王城に着く時間だ。




