12 ポリフェノール家 その1
アマンダが王城に向かう1日前の出来事。
ポリフェノール家に、コレット姫の誕生披露会の招待状が届く。
「お父様、私も参加して良いんですか?」
笑顔満面に招待状を持ち、フェインに尋ねるマリアンヌ。
「あぁ、勿論だ。素敵なドレス姿を見せておくれ」
ジンジャーと付き合い出してからは、社交界に顔を出したのは数える程だった。
王族主催の欠席できない社交は、アマンダの母を伴い参加したがそれ以外は全て断っていた。
その中には、アマンダが参加しなければならないものもあった。
夜会にはダンスがあり婚約者がいない場合、父親や兄弟がエスコート(付き添い)し、1曲踊るのが一般的だ。
ファインは知らないがポリフェノール家暗部当主は外敵が多いため、婚約は16歳の成人と見なされるまではしないことになっていた。
16歳が、第一の生存証明とされているのだ。
兄弟もいないので父親が付き添う必要がある場面でも、ファインはエスコートしなかった。
それは同じ歳でもパーティーに出られない、マリアンヌに対しての後暗さがあったからだ。
お飾り当主が何を言っているんだ、義務くらい果たせと思う所だが、歪な優しさで参加を固辞していた。
その為夜会の付き添いはいつも、デキストリ辺境伯家のモリーゼが行っていた。
モリーゼの領地は隣国と高い山岳を挟む形で位置していた。温厚で肥沃な青い湖と豊かな農地が広がる。
領地を狙う周辺国と牽制を続けているが、昔から鍛え上げられた自軍の頑強さにより付け入る隙を与えない領地を治める鉄人である。
前伯爵とは戦友であり暗部の幹部でもある。年齢は60歳を越えていたが、矍鑠として若い顔付きの為、今も人気が絶えない。
モリーゼが来られないときは、孫のアルベルト19歳がエスコートを務めた。アルベルトも婚約者がいないので頼みやすさがあった。
筋骨隆々の美丈夫で人気があるも人見知りで緊張しいなので、バレないようにしているのも婚約していない理由だった。
そんな伯爵がマリアンヌの為に、誕生披露会へエスコートをすると言っているのだ。リプトン・ダージリンらは理不尽さに苛立ちを隠せなかった。
これまで社交をしなかった伯爵が、後妻の子を可愛いがっている。後継者もアマンダが失脚する可能性が……など、口さがない人々も増えるだろう。
「家の完璧なお嬢様の顔を汚すとは、なんたる恥辱!!! あんな者はここにはいりませんっ」
「まぁ落ち着いて、リプトン」
「俺だって悔しいよ。何にもしない、知ろうともしないやつが……」
「私は幸せね。こんなにも怒ってくれる人がいるんだもの」
微笑みながらそう言うと、二人を抱き寄せて呟いた。
「まだ仕掛ける時ではないわ。もう少し様子を見てみましょう」
二人共不服そうではあるが堪えてくれた。
自室に戻ると、月明かりが優しく彼女を照らす。
時々雲が流され月光を隠すが、いつの間にか1片の雲もなくなっていた。
アマンダは自分が憤るより先に、二人が怒ってくれたことで冷静になれた。
もし誰も味方がいなければ、無様をさらしたかもしれない。そしてその後、激しく後悔もしただろう。
「家族には恵まれなかったけど、仲間がいるのは心強いわ。あの2人がいなければ、今頃どうなっていたかしら? 暗部で冷徹に仕事をしていたかしら?」
いいえと首を横に振り、「人の気持ちが分からなければ、人と共に生きられないわ。独りよがりであれば誰も大事にできないし、自分も大切にできない。そんな人に誰もついてこない。きっと、今頃野垂れ死んでたわね」
母に元気になって欲しいから、暗部を自分が継げば良いと思っていた。自分なら頑張れると。
今にして思うと何て無謀だったのだろう。あの時、誰かに頼れば良かったのだろうか?………………。
答えはでない。
………………唯、あの時は誰にも頼れなかった。
たぶん今の記憶を持たないであの日に帰っても、きっと同じ選択をするだろう。
生き延びた今だから、こんな風に考えられるんだわ。
だから私は焦らない。無数の選択肢を繰り返しながら生き延びてやるわ。
そしてリプトンとダージリンとで、また酒盛りするのよと拳を握りしめた。




