1 貴婦人は優雅に微笑む
8/10 18時 誤字報告ありがとうございます。
大変助かります(*^^*)
雲一つない穏やかな午後、伯爵令嬢アマンダ・ポリフェノールは、大輪の薔薇が咲き乱れる庭園でお茶を嗜んでいた。
「お嬢様、あやつらめが到着しました」
渋い表情をしながら、執事が報告に駆けつけた。
「あらあら、リプトンったら。 ちゃんと伯爵様と言わなければ。 今はまだ・・・・・」
口角をややあげるだけの微笑みで、優雅に返答する。
「失礼しました、お嬢様。 なにぶん、予想通りの動きのため、嘲りが抑えられず。 私もまだまだ未熟者ですわい」
「そんなことないわ。 あなたはこの30年、この家を支えてくれている実質の大黒柱だもの。 愚か過ぎる者を嘲るのは無理もないこと。 ただ、本日現時点より、プロジェクト硝子のマスカレード発動よ」
一瞬の笑顔の後、厳しい顔つきとなり、
「はっ、お嬢様。 早速伯爵様ご一行をお迎えします」
そう告げると、出迎えの準備へと向かって行った。
「大事なお父様ですもの。 丁重にお願いするわ」
聞こえるか聞こえないかの声を発する。
ハンカチで口元を拭い、一度深呼吸をしながら、
「お母様、天国で顛末をお楽しみください。 これより容赦は不要とします」と呟いた。
伯爵:「ただいま、愛しいアマンダ。 領地から今帰ったよ。今日は君に新しい家族を紹介するよ」
笑顔満面に、連れ二人の紹介をし始めた。
「こちらが新しく君の義母になる、ジンジャーだ。 そしてこちらが、君の義妹になるマリアンヌだ。 すぐに打ち解けるのも難しいと思うが、仲良くしてくれると嬉しいよ」
紹介後、二人は代わる代わる礼をした。
伯爵家の諜報部より、報告があった通りの二人だった。
ポリプロピレン子爵家の次女ジンジャーと、その娘マリアンヌ。
子爵家と言っても、山岳部が多いため農業面での税収は乏しく、山合にある使い古したダイアモンド鉱山は、機能していないに等しい。
主な収入源は山奥に自然発生したダンジョンである。
宿屋、武器・鎧などや魔物の素材を売買する商人による税収 から、細々と領地を維持している貧乏子爵。
その為、領主である子爵は、冒険者ギルドと商業ギルドには頭が上がらない状態であった。
それでも長女は隣家の伯爵家に嫁いでいた。
しかしその後に子爵夫人が逝去すると、愛人がやらかして財政を食い潰し、借り入れする状態に落ちてしまった。
幸いなことに、武術の腕があった次女は、冒険者としてダンジョンへもぐり財政を少なからず支えた。
その際に、ダンジョンの冒険に来ていた伯爵と意気投合する。
最初は友人関係であったが、何度か偶然共闘するうちに、酒に呑まれて恋人関係になったようだ。
問題は、伯爵はその時すでに、ポリフェノール家に婿入りしており、婦人はアマンダを懐妊していたことだ。
ジンジャーとすぐに別れていれば、それ程問題にならなかったかもしれないが、関係は継続。
結果、同い年の義姉妹が誕生したのだった。
当時、報告を受けていたお母様は、毎日泣き崩れていた。
その様子を見た前伯爵は、
「どうする?殺っちゃう。 全員まとめて」
と提案していたが、お母様は首を横に振った。
「うっ、やめてください。 お父様。 悔しいけれど、むちゃくちゃ顔が好みなんです。 あの顔が見れなくなると悲しい。 うっ、しくしく・・・・・」
ということで生き延びたお父様だったのですが、お父様は度々息抜きと言って、ダンジョン攻略=愛人との密会を続けていた。
それでも館に戻った際は、お母様や私にも愛情を注いでいたようだった。
実際は機嫌とりに等しかったのかもしれないが。
綱渡りで暗殺も離縁もされず、生き残ったお父様は実は大物かもしれない。
だって家の家系は、表向きは古くからの由緒正しい伯爵家だが、実際は王室の懐刀。
暗部を生業とした隠密部隊だからだ。
お父様は早期に信頼を失くしたため、実務には触れていない。
前伯爵も何も話していないが、父の取り巻き達が余計な話をしているかもしれない。
どこまでも憶測の域だ。
暗殺の話が出たのも、口封じ的な色合いも強かった。
だが、お母様の願いで却下され、現在に至るのである。
アマンダ6歳の時に前伯爵が逝去。
アマンダ13歳の時に、母が流行り病に倒れ亡くなり、1年後に父が愛人家族を正妻とするために館に戻ったのだった。
実務を受け継いだのは、一人娘のアマンダ。
伯爵家の暗部は現伯爵には他言せずが、幹部の総意となった。
今後、伯爵達の出方によっては、血の雨が流れるかもしれない。
「おかえりなさい、お父様。 ようこそ、お義母さま、マリアンヌさん。 仲良くしてくださると嬉しいですわ」
と、淑女の笑顔と可憐なカーテシーを見せ、その場を後にした。