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『雨』『漫画』『紫』

お題の確認日……2023/10/27

投稿日……2023/10/28

「あれはきっとね、神様の気まぐれだったんですよ」

 とあるインタビューの時、彼は、そんなことを口にした。


 天才漫画家、村田つづ。

 その圧倒的な画力と、読者へ想像の余地を与える物語の奥行きの広さ、そして主人公が必ずと言っていいほど鬼畜な目に遭うことから、彼は人ならざるもの――鬼や悪魔と称されることも多い。

 けれど、当たり前のように、彼はれっきとした人間だ。

 本名、室戸涼。1987年9月27日生まれで、妻と1人の子供がいる、至って普通の、どこにでもいる男性。

 そう。ただ、漫画を描くことに関して、鬼才と呼ばれるほどの才能があるだけで。


 村田つづの本性を知るものはあまり多くない。

 というのも彼は、インタビューには応じるものの、プライベートなことはほとんど明かさないのだ。

 彼が表向きに見せている姿が本当に彼の本性なのか、それとも演じているだけで別の姿があるのか、それを知るものはほとんどいない。

 知っている者がいるならば、それは彼の身内か、彼を神と崇めるほどの狂人的なファンくらいなものだろう。


 そんな彼は、インタビューの時に『おはなし』を騙ることがある。毎回必ず入っているわけではないし、いつのインタビューに『おはなし』が紛れ込んでいるのか公表されることもない。騙られた物語が分かりやすい嘘の時もあれば、のちに本人が否定しても事実だと勘違いされ続けるほど巧妙な話であることもある。

 ただひとつ、確かなことがあるならば、ファンたちはその『おはなし』をいつもとても楽しみにしている、ということだ。

「だって、村田さんの物語がインタビュー内にあるんですよ? その場の思いつきで広がっていく即興小説のような、けれど思いつきとは思えないようなクオリティの物語が!」

「実際のところ、即興かどうかすらも分からないけど、村田つづさんの作り出した世界が、漫画以外のところでも楽しめるんです。インタビューも全部読みたくなるに決まってるじゃないですか」


 ある日のインタビュー。

 村田は、もう何年も付き合いのある顔馴染みの女性インタビュアー、佐崎と共に言葉を交わしていた。

「村田さん、先日、長期連載も終わったばかりの今お伺いするのもあれなんですけど……新刊の構想は浮かんでいますか?」

「佐崎さんは本当に気が早い方ですねぇ。……実のところ、もう浮かんでいる話があるんですよ」

「村田さんこそ物語が出来るの早くないですか!? 次作も、主人公たちは色々大変な目に遭うんですか?」

「そりゃあもちろん。そうでなきゃ面白くないですから」

 無邪気な子供のような笑みを浮かべ、あっけらかんと物騒なことを口にする村田に、佐崎はふと首を傾げてみせて。

「……そんなに主人公たちが不憫な目に遭うのには、なにか理由があったりするんですか?」

 それは、村田の物語のいちファンでもある彼女の、素朴な問い。それに対して村田は少しだけ悩むように唸ってから。

「理由はね、あるんですよ。ただ……」

 ふっと目を閉じて、少し考え込むようなそぶりを見せて。

 再び目を開いた時、そこには、真剣な光が宿っていた。

「ねえ、佐崎さん。あなたは、こんなこと話したら信じてくれますかね?

 俺はね、神様から呪いと呼ぶべき祝福を受けたことがあるんですよ」


「俺は昔――そう、それこそ子供の時は、ただの人間でしたよ。ただただ漫画が好きで、いっぱい読んで、自分でも下手くそなりに描くのが好きな、どこにでもいる少年です。

 ……でもある日。中学生になるかならないかの頃。俺は…… 俺は、神の声、みたいなのを聞いたんですよ。

『力が、ほしいか?』って。そう、言われたと思います。

 欲しいともいらないとも言いませんでしたけれど、その時、ものすごく晴れだった空に暗雲が立ち込めて、急にざああって雨が降り始めて。

 その、雨の一粒目。

 なぜか、スローモーションのように、見えたんですよ。

 一粒目が、普通の雨粒じゃないのを。

 ――紫色の、宝石みたいな粒。それが、俺の額にあたって、不思議な力として染み渡っていって……そのとき、鬼才と呼ばれるほどの、漫画を描く才能が与えられたのが分かってしまったんです。

『力をやろう。その力を存分に活かせ。活かさぬのなら、お前の命をもってその罪を償え』……神様の、そんな声が、聞こえたから。

 俺が漫画を描く理由は、なんてことはない、神様の傀儡になったからですよ。主人公たちに不憫な目に遭わせるのは、そうですね。その、八つ当たりにも近い感情があるからなんですよ。

 俺はこんな目に遭ったんだ。お前たちも『想像主』という神の下で苦しめ、ってね。

 せめて自分が、創作世界の神様にならないと、気が済まないじゃないですか。同じ苦しみを、せめて自分の創作した人物たちには味わってほしいんです」


 他のインタビューで「この世界に人ならざるものはいないと思っている」と発言したことのある村田のこの語りは、きっと『おはなし』だろうと考える者が多い。

 けれど。


「――なんで神様が俺にそんな力を与えたのか?

 そんなの、俺が知りたいですよ。そんな呪いじみた祝福、別に欲しかったわけじゃないですからね。

 あれはきっとね、神様の気まぐれだったんですよ」


 そう語りながら、村田が泣きそうな顔で笑っていたのを、インタビュアーの佐崎は見ていた。

 そして、その表情を収めた写真が表紙に使われたこともあり、彼のこの語りを信じる者も、一定数存在している。


 思い出してほしい。

 どのインタビューに『おはなし』が混ざっているのか公表されることはなく、彼の騙りはいつだって巧妙なのだ。

「この世界に人ならざるものはいないと考えている」――その発言こそが、彼の『おはなし』で騙りだった可能性も、否定はできない。

 もちろん、彼が紫色の雨と神の声に才能を与えられたというこの話の方が騙りである可能性もある。


 真相は、村田つづ本人しか、知らない。

村田つづが「人ならざるものは存在しないと思っている」と語ったインタビュー、および彼のプライベートを知るかもしれない「彼を神と崇める狂人的なファン」のお話はこちら↓


「わたしの神様」

https://ncode.syosetu.com/n5254ij/




2023/10/28 1:26

村田つづの設定ミスを修正しました。

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