88 執行者(エクスキューショナー)の遺跡で
「ここか……」
魚パーティの翌々日、大荒野で運よく危険な生物に出くわさなかった俺たちの目の前に、砂埃の中から巨大な神殿のような……古びて朽ちた建造物が姿を表した。
「ここですね」
ファビオラが古い伝承を記載した書物をバラバラと開き、目的のページを開くとそこには、目の前の建造物と同じスケッチが記載されていた。
「神殿の様に見えるけど……要塞なのか?」
「伝承では要塞と書かれているのですが……スケッチも同じなので、これで合っているかと」
スケッチね……まあこの世界の文献でも手書きでスケッチを書いて説明を入れているものはかなり多い。写真がないから仕方ないんだけどね。絵心のない俺としては、羨ましいと思う反面とんでもなく何を書いているか分からないものも多く、多少……どうにかしてほしい問題ではある。
遺跡の中へと入っていく俺たち。先頭はロラン、アイヴィー。真ん中にアドリアと俺、ファビオラが並び、後ろはロスティラフが押さえる。ダンジョン攻略でもこの並びが俺たちのデフォルトだ。ファビオラを真ん中に入れているのは、護衛の目的もあるが、いざというときに勝手に逃げ出させない、という意味もある。
「ずいぶん静かね……」
アイヴィーが率直な感想を口に出す。何百年も使われていない、もしくは人が来ていないのかもしれない。ただ匂い……獣臭いというか、独特の匂いはしているので何かがいることは間違いない。注意しながら遺跡を進んでいく。
「ファビオラさん、そこらへんのものに触らない方がいいですよ」
アドリアが何かを手に取ろうとしていたファビオラに注意を促す。混沌の魔物……獣魔族がいた場合、病原菌などを付着させている可能性もあるため、下手に手を出すと病気になる可能性がある。こんな荒野の真ん中で病気になったら助からない可能性の方が高いのだ。
「す、すいません」
ファビオラが少し強めの口調でアドリアから文句を言われたことで驚いたのか、すぐに手を引っ込める。その先には小さな杖のような、不思議な棒が突き出ていた。
「それ……多分触ると面倒なことになります」
知的好奇心を擽られるんだろうなあ、とは思うが危ないものに手を出さないのも冒険者としての基礎中の基礎だと思う。
遺跡の内部は、かなり古い……神話時代というのも嘘ではないくらい造形や装飾が独特だった。また何らかの動物、人間型生物の骨がそこらへんに転がっており、さながら墓地のような雰囲気でもある。特に人間型の骨は、頭蓋骨に砕かれた様な跡や、刀疵などもあり戦闘が行われていた形跡を感じる。
「何かいるだろうな……しかも攻撃的な生物だ」
ロランが槍の穂先でそういった骨を突いている。
「よろしくないですな、戦闘になった場合相手の数がどれほどか分からない可能性があります」
ロスティラフが少し不安そうな顔であたりを確認している。
前世で見た映画のことをふと思い出した。こういった場所で狂言回しのキャラクターが、悪戯で物を落とすとその音に反応して大量の敵に襲い掛かられるというやつだ。まさかね、そういう人はここにはいないしな、まさかね。
遺跡を進んでいき、いくつかの部屋を捜索していくが、骨と古い書物とそして朽ちた武器などしか見当たらない。そんな中で、十分に遺跡の中を進んでいった先に少し広めの部屋を見つけた。その部屋には軽く陽が差し込んでおり、明るい場所となっている。部屋の中央に大きな台が設けられており、そこには……台の上に首のない骨が転がっており、台は大量の血痕が付着しているのが見える。ロスティラフがその様子を見てつぶやく。
「処刑台……ですな」
台の横には巨大な斧が……明らかに人間型の生物が振り回せるサイズではない……が立てかけられており、よく見ると斧の刃は最近まで使用されていたかのように鋭く輝いているのだ。
「この部屋だけは……最近まで人が使ってましたね」
ファビオラが口を押さえて斧を見ている。死臭というか、独特のツンとした悪臭があたりに漂っている。骨はさまざまなものが転がっているが、頭蓋骨は見当たらない。首はどこか別の場所へと持っていったのだろうか。部屋の中を捜索していく……ふと……部屋の端に立てかけられていた朽ちた盾が気になった。何というか……何かが見ているのでは?と。
剣杖の刃の部分で軽く盾をつつく。何も出ない。おかしいな、ともう一度軽く突く。
「! クリフ殿何をして……」
ロスティラフが焦って俺を止めようとした時、盾の影からまるまると太ったネズミが飛び出した。ネズミがぶつかって、盾が派手な音をたてて床に転がる。あ、これもしかして俺がやっちゃった系?
「クリフ……」
アイヴィーが呆れた顔で俺を見ている。流石に俺も弁解しないといけない、と口を開く。
「い、いや何かが見ていた気がして……」
「クリフさん……あなた馬鹿なんですか? ……」
アドリアも呆れ顔だ。ロランはため息をついている。ファビオラは俺の顔を見て吹き出しそうなのを堪えている。
その時、遠くの方で吠え声がしたような気がした。
「何か聞こえませんか?」
アドリアが入り口の方へ顔を向ける。ロスティラフが慎重に扉の方向へむかい……慌てて扉を閉めて叫ぶ。
「獣魔族です!」
その声に、全員が慌てて武器を構える。ロランが布を破って手に巻き、巨大な斧を運んで扉の支えとしたあと、布を捨てて自らも盾と槍を構えて戦いに備える。そうか病気の存在を気にして……。アイヴィーは刺突剣を構える。
ロスティラフは複合弓を入り口に向かって構える。俺は火球を準備して獣魔族の到着を待つ。アドリアは連接棍を構え、その後ろにファビオラを置いている。
次第に吠え声や喧騒が近づいてくる……扉が何度も衝撃を受けて軋む。扉の一部が破壊され、そこから獣魔族の羊のような顔が覗く。風を着る音とともに、その羊頭にロスティラフの複合弓から放たれた太い矢が突き刺さり、羊頭が後ろに倒れる。すぐにその穴に別の山羊頭が覗くが、これも再び放たれた矢で貫かれた。
「来ますぞ」
扉が破壊され、獣魔族が突入してくるが、そこへ俺の火球が炸裂し、数体の獣魔族が爆発に巻き込まれ、バラバラに砕ける。その爆発の余韻を突き破って別の獣魔族が突入し、斧を振りかぶってロランの大盾へと叩きつける。さらに部屋の中へと複数の獣魔族が入り込む。
「オラァッ!」
ロランがその衝撃を受け止めると、手に持った槍を薙ぎ払い、足を払われた数体の獣魔族がひっくり返る。一体を槍で突き刺すと、立ち上がろうとした獣魔族をアイヴィーが刺突剣の突き、アドリアの連接棍の一撃が見舞う。血飛沫とともに絶命していく獣魔族。
俺はすぐに入り口の封鎖を行うために魔法で炎の壁を立てる。
「炎よ、炎よ、行手を遮る障壁となれ! <<炎の壁>>!!」
入り口に轟音とともに業火の壁が出現し、数体の獣魔族が一瞬で黒焦げになり、床へ倒れ伏す。
「さあ! 次はどいつだ!」
ロランが大盾を構えて獣魔族を炎の壁へと押し込み焼き尽くす。
その時地面がズシン、と軽く揺れた。
_(:3 」∠)_ 狂言回しにクリフさん!
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