77 神権皇帝(ファラオ)との謁見
「なぜ僕は今正座をさせられているんでしょうか?」
今俺はアイヴィーの部屋で正座をさせられている。金髪美少女令嬢に正座をさせられている、そんなシチュエーションがご褒美な人種もいるのだが、残念ながら俺はその人種ではない、と思っている。
「アドリアと話したわ……その上での判断よ」
「そ、そうですか……ぶげらぁっ!」
アイヴィーは怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく、ごくごく自然に俺の頭を踏みつける。ああ、これもしかして別の意味でハマるかも……ご、ご褒美じゃん? あ、もっと踏んでくださいアイヴィー様ぁ。踏まれているのになぜか身悶えする俺を見ながら、アイヴィーが少し引いている気がするが気のせいだろう。
「私は貴族の娘として育てられたから、男性に愛人がいる、という状況もそれほど違和感がないの。お父様も数人囲っているわ。今まで見た中で妾すらいないのは師匠だけよ」
セプティムさん一途なんですね。というか父親もそういう生活だと、違和感がなくなるのもわかる気がする。俺の父親は母親だけが配偶者だったが、実は村の娘に手を出していて、隠し子がいないものの見つかったら大変だろうなーと思うことがあった。いや、多分そろそろバレてるんじゃないか、次帰ったら家庭崩壊してるかもしれない、と思うと怖いものがある。
「であれば……うげぁっ!」
「誰が喋って良いって言ったの?黙ってなさい」
であれば僕も愛人を持っても良いですよね!! と言おうとした俺を制して、アイヴィーがさも自然に俺の頭をぐりぐりと踏みつける。なんか女王様キャラっぽくなってるよね、そうだよねアイヴィーさん。でもちょっとクセになってきたかもこの姿勢。
「彼女に数年はあなたを独占したい、って伝えたわ。それ以降は気が変わるかもね、と」
それ以降? なんだそれ以降って、ふと疑問に思ったことを伝えてみる。
「え? アイヴィーさんに僕は、数年後捨てられちゃうんでしょうか?」
俺のその問いにアイヴィーは当初理解ができなかったようで、少し考えると俺の頭から足を外して笑い出した。ある意味、俺はこのあと一生忘れられない笑顔を見た気がする。
「バカね、それ以降はアドリアも一緒になってあなたを愛そうって話よ、嫌だって言っても逃がさないわ」
聖王国王家より今回の件について褒賞を贈りたいという話がきたのはそれから数日経ってからだった。俺たちは学長に引率されて、王宮へとやってきた。俺、アイヴィー、アドリア、トニー、マックス、プロクター、クレールさん、セロンさん。これが今回のメンバーだ。
「神権皇帝は大変気難しい方でな……言葉遣いなど気を付けてくれると助かる……」
学長が少しため息をつきながら、そう話している。そうか気難しい人なのか、とまだ見ぬ神権皇帝の人物像を想像してみる。神権皇帝というくらいだから老人なのだろうか?それとも若い男性か。
王国では聖王国の神権皇帝については、転生を繰り返す永遠の統治者という表現で語られていた。その姿を見ることは能わず、語ることも能わず。そういう扱いだったな。
謁見の間に到着すると、玉座には向こう側が見えないように大きな天幕がかけられ、そこに大きな玉座が影となって見えている。人の気配はあるのでそこに神権皇帝が鎮座しているのだろう。学長が臣下の礼をとり片膝をついたのを見ながら、俺たちは同じような姿勢をとる。
「表を上げよ。聖王国の絶対的支配者神権皇帝より言葉を賜る」
神権皇帝お付きの女官が口上を延べ、天幕が開いていく……そこに現れた人物を見て、俺たちは絶句する。大きな玉座の端に、その玉座にはあまりに不釣り合いな少女がちょこんと座っていたからである。
「主らが混沌を退治した若者か、此度は大義であった」
神権皇帝が口を開く、紛れもない少女の声色。学長は知っていたのだろう、相変わらず臣下の礼をとったままである。俺たち……仲間たちは全員が呆気に取られている。そりゃそうだ、こんな小さな少女が国王、と言われても普通は信じられないだろうから。
「余の姿が気になるか? ククク、正直でよろしい」
神権皇帝は屈託のない笑顔で笑うと、玉座を降りゆっくりと俺たちの方へ向かってくる。それを見てざわめく女官、近衛兵たち。
「良い、近くで顔を見たい」
神権皇帝が手を挙げると、一斉に押し黙る臣下たち。よく訓練されてんなー。
神権皇帝が俺たちの前に立った。不敬がないように再度頭を下げる俺たち。そしてワタワタと慌てている学長。それを横目で見つつ、落ち着くように命令すると……俺たちに話しかけた。
「この姿は六年前からだ。それまでは老人の姿であった……神権皇帝とは生と死を繰り返すことで永遠に聖王国を統治する王であるからな。見た目よりも中身を信じて欲しい」
神権皇帝が笑いながら俺たちに顔をあげるように命じたため、俺たちは片膝をつきながらも顔を上げる。神権皇帝は幼い少女の容姿……とても愛らしい少女だ。銀色の髪を結い上げ、深い青色の瞳をしている。少し……色が白すぎるだろうか。
そして見た目以上に……圧力が強い。魔力だろうか、存在感の大きさというのを感じる。目を見るだけでも深いその青色の目に引き込まれてしまいそうな、そんな厚みを感じる。
「良い目をしている。一人我が国の守衛がいるが……未来を担う目であるな。此度は大義であった。褒賞を取らせよう」
神権皇帝はその体にはあまりに大きすぎる朱色のマントを翻し、玉座へと戻っていく。全員が、大きく息を呑んだ。息ができなくなるくらいの……存在感だったからだ。
褒賞としては大学の学費免除や金貨、そして王国内で使える通行許可証となる指輪……この世界の許可証って指輪好きすぎねえか? とも思ったがありがたく受け取る。これは後でどこにつけるか考えたほうがいいな。
「聖王国は知識を学ぶ君達の成長を願っている、そしてここで学んだ知識を持って己が国に尽くすが良い」
天幕が下がり、神権皇帝の姿が見えなくなる。
「退室してよろしい」
女官の号令で、俺たちは謁見の間より退室していく。その後ろ姿を見ながら、天幕の奥で神権皇帝が何かを考えながら、優しい笑みを浮かべて独り言を呟く。
「面白いものがおるな……あれは余と同じ、生を再度経験するものだ、これは今後が楽しみであるな」
神権皇帝はすぐに思案を巡らせる。……後の世に予言されている戦争。そこであの若者たちがどのように立ち回るのか?現時点では全く予想がつかない。神権皇帝は朗々と伝承を詠う。
「かの国に伝わらん、大きな火種。火種に見えるのは、仮面の王、剣持つ男、竜の末裔、道征く者、赤き衣の賢人そして、さ迷える魂。行く末は見えぬ。ただ破壊と混沌の中にこそ再生の道が示される。……か」
大荒野。不毛の大地、魔物の天国とも言われるその大地において、一人の男がその地を進んでいく。鳥を模した仮面、黒いローブ。たった一人であるにも関わらず、その姿を見た魔物や動物は逃げ出していく。仮面から覗く目は赤く、空虚だ。男はふと振り返る。男の名は道征く者。
「使徒か……ネヴァンめ。しくじりおって……」
道征く者は再び歩き始める。大荒野に舞う砂嵐がその姿を隠していく。
_(:3 」∠)_ 今回で2章が終わりとなります。明日から3章として更新させていただきます。よろしくお願いします。
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