67 カマキリって生命力すごいよね!
「さあさあ行きましょう! ちゃっちゃとやっつけて帰りましょうね!」
アドリアが笑顔で出発の宣言をする。昨夜のことなど忘れたかのように明るく振る舞っている。こっちはあの時を思い返すだけで……うっ……前屈みになりそうだ。冗談、と言われてるけどなかなかそういう気分にならないのも事実だ。
「どうしました? ムラムラしちゃったんです?」
俺の隣にきたアドリアが顔を近づけて小声で俺に囁き……そして耳にふっ、と息をかけた。おいいい! やめてくれえ。アドリアをみると、ものすごく……悪戯っぽい笑顔を浮かべてにひひ、と笑っている。
「も、もう出発しよう……」
「ささ、行きましょう!」
アドリアが笑いながら俺の手を引っ張って歩き始める。トニーがやれやれ……とため息をついてついていく。……その様子を見て、少し訝しげな表情をしているアイヴィーに俺は気がつかなかった。
街道を外れて鬱蒼とした森に入る。この先にヘント村があるのだろう。
「警戒した方が良さそうだな、武器を」
一気に警戒モードになって、周囲を確認しながら進んでいく。トニーが覚えたての感知魔法をかけながら、森の中を進んでいく俺たち。
「前から生物の反応がありますな」
「敵かな……」
トニーが頷く。アドリアもアイヴィーも武器を構えている。アドリアは連接棍を、アイヴィーはセプティムから受け取ったミスリル鋼の刺突剣だ。俺も杖を構える。トニーが支援魔法を俺たちにかけていく。
「くるぞ」
茂みから巨大な影が飛び出す。二本の大きな鎌と、緑色の巨体をもち二つの大きな目を持ち、巨大な牙を生やした昆虫型生物……大蟷螂だ。カマキリとはいえ、この世界のカマキリは三メートル近い巨体と、激しい凶暴性で知られている危険生物だ。一応雑食だが、はっきりいえば人間を捕食する方が多いと言われていて冒険者の討伐対象になるケースが多い。
大蟷螂はいきなり俺たちに襲ってくることはせずに、あたりをキョロキョロと見渡す。
「あれ? なんか変ですね……」
アドリアが違和感を感じたらしく、様子を伺っている。これらの生物は人間と見るとまず攻撃してくるケースが非常に多い。特に大蟷螂は人を見つけたらすぐ攻撃、というくらい好戦的な性質をしている。が、この個体は何かに怯えている……もしくは逃げ出しているかのように落ち着きがない。
様子を見ていると、進路に俺たちがいることに気がついたのか、大蟷螂は大きく鎌を振り上げ、羽を広げて威嚇を始める。ああ、こういうの見るとカマキリだなーと少し思ってしまう自分がいる。まさに子供の頃に野原で捕獲したカマキリの威嚇シーン、その超巨大版を見せられている気分だ。
雄叫びをあげ、2本の腕を振り下ろして俺たちに襲いかかってくる大蟷螂。
アイヴィーが横にステップし、その攻撃を避ける。アドリアも連接棍の柄を使って攻撃を受け止める。それを見たトニーはアドリアへ腕力向上の支援魔法をかける準備を始める。
「アドリア! <<戰乙女の槍>>!」
俺の手から光の槍が高速で放たれ、アドリアが受け止めている腕の付け根に光の槍が突き刺さった。緑色の血を吹き出し、大蟷螂の腕が千切れ飛ぶ。不気味な吠え声を上げて、苦しむ大蟷螂。
「ありがとうございます! えいっ!」
連接棍を振り回し、大蟷螂の胴体へと攻撃を繰り出すアドリア。痛そうな素振りを見せながらも、大蟷螂が顔を下げて牙を突き立てようとしたその瞬間。
「はぁあああああっ!」
裂帛の気合とともにアイヴィーの刺突剣がその横っ面に突き刺さる。まさにバターを切るナイフのように、顔の大半をこそげ落とし、血を噴き出す大蟷螂。
「ありがとう! アイヴィー!」
しかし大蟷螂はその豊富な生命力で、残った鎌を振り回し俺たちを遠ざけようと試みる。
「やっぱりカマキリだな……」
暴れ回る大蟷螂を見て俺は感想を口に出してしまった。頭を失った程度じゃすぐには倒れないもんなあ……。
「一気に畳みかけるわよ!」
アイヴィーの号令とをもに大蟷螂へ攻撃を集中させる俺たち。戦闘はまだまだ時間がかかりそうな状況だ。
水晶にその様子が映し出されている。森に使徒たちが入ってきたことを感知し、その様子を確認しているものがいた。黒衣の女魔道士、ネヴァンである。
「ようやくお出ましとはね……。さてどのようにお迎えしようかしら」
彼女の背後には獣魔族の中から特に祝福を受けた戦士が控えている。頭は山羊頭だが、ねじれた角は4本生えており、顔中に大きな傷が刻まれている、この個体は歴戦の戦士であることがわかる。
さらに不気味なことに戦士の腕は四本生えているのだ。この能力は混沌の諸相。元々は二本しか腕がなかったのだが、戦い続けるうちに混沌の神が祝福を与えたのだった。そして戦士が口を開く。
「ネヴァン様、ご命令を」
「そうねガエタン……お出迎えはお任せするわ。私は私のやり方で準備をしますわ」
「お一人で迎え撃つのですか?」
「そうよ、私があなたと一緒にいると足手まといになってしまうわ」
ネヴァンは笑うと、ガエタンの顔を見る。獣魔族は戦いを前に興奮をしているようで、少し涎が口元から噴き出ている。それに気がつくと、ガエタンは慌てて手で拭うと、頭を下げる。
「申し訳ございません、戦いを前にすると……どうしても」
「信頼しているわ、ガエタン。行ってちょうだい」
ガエタンと呼ばれた獣魔族の戦士は再び頭を下げると、部屋から出ていく。その様子を見つつ、水晶へと目を戻したネヴァンはほくそ笑む。
「かなり強くなっているわね……でも心はどうかしら?」
_(:3 」∠)_ 都合の良いカマキリでいたいの!
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