65 ネヴァンの使い
「こちらからの要求は一つだけ。あの時堕落の落胤を倒したものがこちらに来なさい。他の冒険者が来た場合は捕虜としている村人を全て殺すわ」
まだ小さなコレットが不気味な声で喋っているのをみて、正直ゾッとする。無表情だが、口元には見覚えのあるあの笑顔が張り付いている。それをみて苦々しい表情になる俺。
今この場には、あの時堕落の落胤を倒したメンバー、学長、そして伝令となった小さなコレットが立っている。コレットの目は感情という感情が欠落している、にもかかわらず笑顔が浮かんでいるのが本当に不気味だ。
「私の顔に何かついているかしら?」
コレットが顔を見ている俺を見て疑問を口に出す。
「いや、そんな小さな子を使ってお前らは非道だなって思っただけだよ」
その言葉を受けて少しコレットが笑みを浮かべると、突然泣きそうな表情になって話し始める。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは私のこと助けてくれないの?」
目に涙を浮かべて、潤んだ瞳を俺に向ける。うっ……もしかして自我はまだあるのか?そして俺たちが嫌悪感を感じている視線を受けて、コレットは傷ついているのだろうか。そうしたら無垢な少女を痛めつけている可能性すらある。
「コレット……俺は君を助けたいと思っているよ、もう少し頑張ってくれ」
優しい口調で俺が話しかけると、突然コレットが獰猛な笑顔で俺を見た。あの不快な笑顔を浮かべている。
「クハッ……優しいわ、優しいわねぇ。あなた可愛い子だわ」
あまりの変貌ぶりに心臓が飛び出しそうになる。くそっ、混沌の戦士に遊ばれるとは……アルピナの時に既にわかっていたはずなのに。
コレットは俺に指を指すと、思いも掛けない一言を言い放った。
「使徒であるあなたが村へ来る者を人選しなさい。言いたいことはわかるわね?」
使徒。そうか……これは混沌の戦士の招待状なのだ、と俺は思った。俺があの声に言われた使徒を使っている、という言葉。それを混沌の戦士も知っているのだと。
「使徒?クリフが?」
「なんのことでしょうか……」
そこにいる仲間たちが一斉にその言葉の真意に悩み始める。軽々しく使徒という言葉を使いやがって……いや、もしかしたらこの敵はそれすらも疑心暗鬼の種として利用するつもりなのかもしれない。
「なぜ俺なんだ?」
流石に仲間に転生のことをバラされても困るのだが、あえて聞いてみることにした。
「……惚けるならそれでもいいわ、でもあの戦いであなたが中心になっていたのをみたわ。だからあなたがリーダーだと思っているのよ」
お、そういう落とし所にしてくれるのか、案外優しいな。お前は神に選ばれた転生者で使徒だ!とか言われたらどうしようかと思ってた、正直なところ。そんな与太話を信じてくれる人がこの場にいるとは思えない。
「とにかくそっちの要望はわかったよ。俺たちは前回のメンバーから人を厳選してそのヘント村へといく。それでいいな?」
「話が早くていいわね、待っているわよ、坊や」
コレットがウインクをして投げキスのジェスチャーを俺によこした。そしてその後力が抜けたようにその場に倒れ込む。アドリアが慌ててコレットを介抱し始めるが、すぐに項垂れる。
「ダメです、息がありません。彼女を動かしていた間も体力を奪われていたようで……」
「混沌に魂を汚染されたのだろうな……」
学長がため息をついた後、神殿の作法で簡易的にコレットの冥福を祈る。
「人選はどうしますか?」
アドリアがそんな中、俺に話しかけてくる。そうだな……戦闘力とか考えたり、首都の防衛も考えなきゃいけないだろうなあ。
「そうだな……僕とアイヴィー、アドリア、トニーは確定として、大学への攻撃がある可能性もあるからそこにも戦力を残さなきゃいけないよね」
「俺とプロクターは首都に残ったほうがいいかもな、冒険者組合との連携も考えると、資格を持っている人間が大学にいたほうがいいだろうし」
そうかもなあ……セロンさんは守衛だから大学だな。クレールさんは……。
「だ、大学でお願いします……私はクリフ君の足手まといになりそうなので……」
悲しそうな顔をしているが、まあ仕方ないだろう。果たして四人で突入して問題ないのか?と言う気もしなくもないが、急増チームで余計なことを考えなければいけないよりはマシか。
「しかし……このタイミングで動き出したのは理由があるのですかな」
トニーがふとした疑問を口にだす。そうだな……前回の堕落の落胤戦から結構な時間が経過している。その間ほぼ動きが分からなかった……警戒は聖王国内に張り巡らされていたはずなのだが、それすらも掻い潜っていたとなると、捜索側にも混沌の手先が存在している、ということだろうか?
下手に嗅ぎ回るのも危ないとは思うが、このまま放置していても問題ないのだろうか?でもどうやって探す?
「クリフ……ちょっと怖いよ」
アイヴィーが心配そうな顔で俺をみる。そっか考え事していて怖い顔になっていたのか。
「そっちは俺の管轄じゃないな……ごめんよ、心配させて」
そんなやりとりを見ながらアドリアがニヤリと笑う。ああ、もうこういうところなければいい子なのになあ……。
「とりあえず準備を進めよう」
その言葉で全員が大きく頷く。さあ、ここからは戦いだ。
_(:3 」∠)_ かかってこい、相手になってやる!
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