54 下水道に潜む魔物 01
「こっちは何もなさそうだな……」
「そうね、衛兵の情報も案外当てにならないわね……」
冒険者組合の依頼として首都の地下にある下水道内の調査を受けた俺とアイヴィーは、二人で下水道内を調査していた。アドリアとトニーは別の依頼を受けて情報収集を行なっている。というのも地下道は狭いので、多くの人数での調査が難しいという話となり、別々の依頼という形になったのだ。
首都レイヴァーディンはここ数ヶ月最高レベルの警戒体制となっており、冒険者登録をしているものは緊急依頼を与えられて例の女魔道士を捜索している。俺たちのこの仕事もその一環だ。
で、最初はトニーと組む話をしていたのだがアドリアが急にトニーと依頼を受けるので、と彼を連れて行ってしまったのだ。含み笑いを見せながら去っていくアドリアの顔はとても悪い顔だったのを覚えている。
「謎の白い化け物……か」
「本当にいるのかしらね……いたとしたらもう少し噂になってても良さそうなもんだけど」
ランタンを片手にアイヴィーが蜘蛛の巣を刺突剣で払っている。
「あ、何これ取れないじゃない! 全く……」
どんどん汚れていく刺突剣を見てガッカリしたような表情を見せるアイヴィー、ため息をつくとランタンの火種を近づけて纏わりついた蜘蛛の巣を焼き落とす。そんな彼女を見て少し微笑ましい気分になる。
その後、アイヴィーは前と同じように明るく笑顔を見せるようになった。大学は復旧作業中だが、簡単な講義などは再開されているため、俺たちはいつものように講義を受けたり、学食で食事をしたりしている。なんとなくお互い距離をとってしまっているのは、それまでにも増して人がよく話しかけにくるようになったからだ。たまに目が合うとアイヴィーは笑顔を見せてくれるのでそれはそれで嬉しいことなのだが。
「この区画も特に何かありそうな雰囲気ではないなあ……」
下水道は古くから首都に設置されている施設で、生活排水だけでなく、噴水の水などもここに流され、魔道具により浄化されて海へと流れ込んでいく処理施設の役割も担っている。匂いはそれなりにあるが、前世の下水のような状況ではないため、少し汚れた川が地下に存在している、という印象か。
「そうねえ……昔は盗賊団とかが根城にしていた、とか担当者が話してたわ。かなり前に討伐されて今は誰も住んでいないはず、とは話してたけど」
「とりあえず別の区画に移動しよう、あと二〜三箇所回って何もなければ戻って報告だなあ」
そうね、と頷いてアイヴィーが俺と共に通路を進んでいく。
次の区画に入ったときに、ふと違和感を感じた。なぜかこの区画だけ他と違って蜘蛛の巣が綺麗に掃除されている。
「なんか変だな」
「そうね……何でこんなに小奇麗になってるのかしら」
アイヴィーも違和感を感じているらしく、警戒した表情になる。もしかしたらここには人が住んでいるのかもしれないが、ここまで差が激しいと逆に警戒される、と思わなかったのだろうか。
戦闘になったらランタンを持っていると邪魔かもしれない。俺は新調した杖を握り、アイヴィーにランタンの火を落とさせた。
「光よ、我が元へ<<光>>」
暗闇の中で魔法で光を作る。その光を杖に纏わせて、アイヴィーに後背の警戒をお願いしつつ通路を進んでいく。少し暗いのだが、戦闘に影響が出るほどではない。
通路を進んでいくと、少し大きめの広間にでた。そこは小型の池のような形になっていて、その奥に扉がひとつ壁に設置されていた。俺たちが入ってきた通路とは別に広間から2つの通路が伸びており、分岐となっているようだ。
「扉……何でこんな場所に扉なんだ……」
「通路の先はここからでは見えないわね、扉の先に部屋があるのであればそこから調べる方がいいかしら」
アイヴィーはどうする? というふうに俺をみる。
うーん……あからさまな罠のようにも思えるのだけど……魔法で罠の存在を感知してみるが、扉自体にはそういった悪意を感じない。であれば、開けるしかないな。
慎重に扉を開ける。何かが飛び出してくる可能性も考えて、武器を構えたままゆっくりと扉の先へと侵入していく。
そこは小型の部屋だった。明らかに生活感の漂う部屋で、一通りの生活用具が揃っている。
「な、なんだこれは……」
俺も戸惑ったが、アイヴィーも部屋の中を見て絶句している。そりゃそうだ、迷宮探索だと考えてここにきているのに、人為的に手の入った小部屋が出てきたのだ。普通驚くよな。
部屋の中を調べ始める俺たち。
「うーん……部屋の持ち主がちょっと前まで生活してた形跡があるなあ」
どの程度この部屋に戻っていないのだろうか、食料などは置かれていないし埃なども積もるほどではないが、ここ1週間か2週間程度はこの部屋は使われていないのではないだろうか?部屋の中にあった大きめのランタンに火を灯し、魔法の光を消す。部屋の中をじっくりとしらべることにした。
「ねえ、クリフ。日記があるわよ」
アイヴィーが部屋の端に置かれていた机の上にあった本を発見し、テーブルに置いた。ご丁寧に大陸共通語で表紙に「日記」と書かれている。テーブルには椅子が2脚あるため、一旦そこに座って日記を見ることにする。アイヴィーも椅子に座って俺が日記を開くのを待っている。
「何も日記って書かなくてもな……しかも日付がないから時系列がわからないな」
苦笑しつつ、日記を開いていく。
ーー
記録のためにこれを残す。
首都の地下にこんな場所があるなんて知らなかった。部屋を見つけたのでここで当分生活をしようと思っている。
生活用具などは、スラムから拝借してきた家具を運び込み、拠点とすることにした。
ーー
生活用具の搬入が大体終わった、寝具だけは大きすぎて運べないので簡単なものにしている。食料は一旦は携帯食などを中心にする必要があるだろう。飲料水は部屋の前にある水が飲めることがわかった。念の為煮沸してから飲むことにする。調理用具なども揃えたので、当分はここで生活できそうだ。
「うえっ……あの水飲んだのね」
アイヴィーはあからさまに嫌な顔をする。浄水されているとはいえ元は排水だ。煮沸しても臭みなどもあるだろうから飲むにはきついレベルだと思うが……。
部屋の隅を見ると、確かに簡易的な調理用品などが並んでいた。火も起こせるタイプのもので、冒険者の基本セットとなっている野営用の用具だな。
ーー
なかなか、ここに来れなかった。安心する。
戻ってきて周辺の探索を進めた。何度か大きなネズミや小型のモンスターなどに遭遇したが、対処ができた。肉は食用になるかもしれないと持ち帰り、捌いて焼いて食べてみた。案外食べれることに気が付き食料事情が解消しそうだと思った。明日から再び外の仕事だ。
ーー
外での仕事が終わり、再びここに戻ってきた。部屋の前にいた大きなネズミを処理し、今日の夕食とした。気になるといえば、ここに戻ってくる間に何か大きなものを引きずる音が聞こえていた。付近に何かがいるのかもしれない。警戒はしておくに越したことはない。
「何かを引きずるような音か……」
「それがもしかして例の白い化け物ってやつかな?」
アイヴィーも俺も日記に集中していく。
_(:3 」∠)_ 下水道ってダンジョンみたいですよね。
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