51 黒いローブの魔道士
「あらあら、負けちゃったわ」
ネヴァンは堕落の落胤が滅ぼされる様を眺めながらため息をついた。が、その様子には悔しいとか、残念という感情は見られず、どちらかというと玩具の一つが壊された、くらいの様子だった。
「もう少し頑張れる子だと思ったのに……ロレンツォ、あなたはイケない子ね」
「少々弱すぎるな」
道征く者が突然ネヴァンの背後に現れる。闇から現れるというよりは闇の中から生まれ出たという表現が正しいだろうか。ネヴァンは驚く様子もなく、恭しく道征く者へと頭を下げる。
「もう少しやれるかと思ったのですが……魂はそこまで強くなかったようです」
ネヴァンからしてもロレンツォがここまであっさり倒されるとは思っていなかった、というのが本音だ。もう少しやれると思ったが、見込み違いなのか……と頭を下げつつ考える。
「貴様が見誤るのも仕方ない。敵側に使徒がいたのだからな」
道征く者は面白くなさそうにネヴァンの謝罪に応える。
「使徒でございますか……あの小剣を持った魔道士ですか?」
ネヴァンの目から見ても、堕落の落胤と戦った者たちの中で異質な存在が一人いた。クリフ、とかいう王国出身の魔道士。戦士でもないのに小剣を振るい、魔法を使いこなして戦っていた。
「おそらくな、使徒となると厄介だ。理を歪め、世界に影響を与える存在になるやもしれん。早めに滅せなければ今後も修正を余儀なくされるかもしれぬな、不快ではあるが」
まあ、それもゲームとしては余興の一つだな、と道征く者は言葉に出さずに納得する。とにかくゲームの相手は理不尽なのだ。奴にしかわからないルールが存在しているのだろう……だが、使徒とはいえ倒せぬ相手ではない。
「貴様はどうする?使徒が敵方の駒として盤面にいるとして、貴様の存在意義を満足させるのだ?」
その言葉にネヴァンは顔をあげ、くふ、と笑う。
「我々の存在意義は変わりません、混沌がとるべき道は一つしかございませぬ」
その言葉に道征く者は満足そうに頷く。彼もまた、混沌の戦士としての存在意義を考えていた。ただただ終わりなき混乱と破壊を、それだけが道征く者の道、そして全て。
「では貴様に任せる。私は私の行動を終わらせよう」
「承知いたしました」
ネヴァンは再び頭を下げ、道征く者は闇に紛れて消える。気配を感じなくなったネヴァンは頭をあげ……使徒と予想されるクリフを屋根の上から睨みつける。今はあの金髪の令嬢を介抱しているようだ。
「使徒であっても、心はヒトと変わらない……それは前回知ったわ。だから、あなたの大事なものを壊すしかないわね」
アイヴィーは震えながら座り込んでいる。自分が戦っていた相手が誰だったのか、それを考えれば仕方ないのかもしれない。
「わ、私……ロレンツォだって知らなかった……」
下を向いて震えているアイヴィー、むしろ誰も知らなかったのだから仕方ないと思うが、それでも散々斬りつけ、剣を突き刺し、攻撃をした相手が「堕ちた婚約者」だった、となったらそれは確かにショックだろう。
「アイヴィー、仕方ないよ。俺たちは誰もロレンツォだって知らなかったんだ」
「そうですよ……アイヴィーさん、私たち全員がそれを知りませんでした」
アドリアがアイヴィーに優しく話しかける。トニーも、マックスもその言葉に頷く。しかし視線の先には横たわり、魔道教師と守衛による調査を受けているロレンツォの死体がある……それまでいた人間がこうなってしまう、という恐ろしい事実に目が離せないのだ。
「カスバートソン令嬢、これはロレンツォ殿を使った混沌による揺さぶりだと考えるべきです」
マックスがアイヴィーに語りかける、が、彼女は頷くものの表情がその言葉に納得できていない。涙を流しながら、何度も頭を振る。
「……堕落でロレンツォさんがこうなった、とすると帝国はどう動くのでしょうか?」
アドリアが疑問をマックスに問いかける。王国では堕落が起きた事件は少なくとも記録がなかったわけで、知識としては聞いたことがあるが、実際に変容した人を見たのは初めてだ。
「少なくともカンピオーニ家はロレンツォを廃嫡する方向に動くでしょうね……堕落をした貴族の子弟など政治的には弱みにしかなりません」
そうですか、と頷くとアドリアは何かを考え始める。
忙しく動き回る守衛や魔道教師を横目に、ふと視線を感じた。
俺はその視線の先を探る、上か……。
屋根の上を見上げると、そこには黒いローブを着用し、薄桃色の長い髪を垂らし、フードを深く被った何者かが立っていた。その人物は俺の視線に気がつくと、恭しく頭を下げ……暗闇に溶け込むように消えていった。何者だ?あの感じ、昔どこかで感じた不快さだ。
俺が全然違う方向を見ていることに気がついたアドリアが、こちらに寄ってきた。
「怖い顔してどうしたんですか?」
「いや……堕落を発生させた張本人がいたかもしれない……もういなくなってしまったけど。黒いローブで薄桃色の髪を垂らした魔道士らしい人物だ」
その言葉にアドリアが周囲を慌てて確認する……が喧騒と炎だけしか周囲には存在していない。
アドリアが不安そうに呟く。
「まさかとは思いますが、大学の関係者でしょうか……」
本日は休日なので少し早めに更新 _(:3 」∠)_
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