50 堕落の落胤(バスタード) 04
「くるぞ!」
堕落の落胤の腕が俺たちへと伸びる。ステップで避けるとそれまでいた地面を削り取る。
攻撃力は凄まじい、が、当たらなければどうということない、赤い人もそう言っている。
とはいえ、避けるときの風圧と威圧感が凄まじい……。
「ひいっ!! ぎ、ギリギリです!」
スレスレを過ぎていく堕落の落胤の腕に転びそうになりながらクレールさんが回避し、悲鳴をあげる。それくらいの恐怖なのだろう。明らかに動きが鈍い、このままいくと命中するのも時間の問題か。
「クレールさん! 気を確かに!」
みるとコクコクと涙目で頷くクレールさん、こりゃいかん。確実に次は避けられないだろう。
「クレールさん、俺の後ろに!」
影霧を構えてクレールさんの前に出る、柔らかい感触があってあれ?と思ったら俺の腕にしがみついて震えている。こ、これは次俺ごと逝ってしまう可能性がでてきた。
ゴオッと轟音を共に堕落の落胤の腕が迫る……こりゃ魔法で防御とか言ってられないな……半パニックになったクレールさんが涙目で悲鳴をあげる。
「……失礼っ! 掴まって!」
「えっ?」
クレールさんを抱き抱えると思いっきり横に飛ぶ。それまでいた場所を堕落の落胤の腕が通過していく。この体勢では着地なんかできないのでそのまま俺とクレールさんは横に転がる。
「いてて……大丈夫ですか?」
「……ちょっと痛いです……」
クレールさんが俺の胸の中で少し赤い顔で抱きついている。こんな時じゃなきゃなーとか思うけど。
急いで立ち上がってからクレールさんを再度俺の後ろに庇う。少し落ち着いたクレールさんが、俺の後ろで再び武器を構える。その間仲間が攻撃を加え、注意を逸らしている。
「クリフ君、上半身は魔法防御されているのに、下半身はされていない。上半身が念入りに防御されているということは、やはり弱点になるのは上半身だろう。下半身は攻撃しても意味がないと思う」
マックスが俺に駆け寄り攻撃目標を話してくる。俺もそう思う、アルピナも胴体に核を持っていてそれを破壊することで倒せたわけだし……。
「案外武器での攻撃は通るかもしれない、相手の注意を別に向けてその隙にアイヴィーやセロンさんに上半身を狙ってもらおう」
「了解です、では俺が囮になります」
マックスが驚く。普通魔道士が囮役などはやらない、彼もおそらくプロクターさんを囮役にしようと考えていたはずだ。
「危険だぞ?」
「大丈夫です、俺は戦士としての訓練も受けています。そう簡単にやられませんよ」
俺はニヤリと笑って影霧を見せる。正直いえば一発食らったら即死、だとは思うが……他の人に任せるほど俺は野暮ではない。
マックスがふぅ、とため息をつくと「任せる」と一言だけ呟くと、そのまま全員への連絡に移る。さあ、俺の仕事だ。
「こっちだ! かかってきな! <<魔法の弾幕>>」
魔法の弾幕は炎の矢などの上位版とも言える魔法で、複数の魔法の矢を対象に向けて撃ち放つ。視界に入っている対象を分けて打つことも可能だし、単体の目標へぶっ放すことも可能だ。
今回は堕落の落胤に集中して撃ち放つと、その攻撃に反応して、堕落の落胤が俺に向き直る。
複数の腕が一気に俺に向かって轟音と共に飛んでくる。当たったらミンチだな。かなり高速で飛んでくる腕だが、避けれない範囲ではない。
かわし様に影霧で腕に斬りつけると、堕落の落胤が恐怖を感じて攻撃の速度が鈍る。
「今だ! やってくれ!」
俺の声に反応して、アイヴィーとセロンが距離を詰めていく。
意識を二人に向けないようにマックスが火球で下半身に攻撃を集中し、さらにプロクターが下半身への攻撃を加えていく。
血飛沫を上げながら、堕落の落胤の下半身から新たな腕が生える。刺激臭が激しい。
セロンが雄叫びとともに一気に距離を詰め、横薙に戦斧を振るう。
堕落の落胤の肉塊との繋ぎ目、ちょうど下腹部の付近へと武器が命中する……魔法防御と違い、物理攻撃は防御できていないようで、堕落の落胤の腹部に戦斧が大きく食い込み、血が噴き出す。
「いけるぞ!」
セロンが叫ぶ、その声に応じてアイヴィーが一気に距離を詰めていく……堕落の落胤の腕を器用にジャンプして走り抜け、一気にその上半身へと迫るアイヴィー。
「これでどうだ!」
アイヴィーが堕落の落胤の上半身、その右胸に向かって刺突剣を突き立てる。堕落の落胤の動きが止まり……その一瞬後に刺突剣が突き抜けた背中側から血が吹き出す。
下半身に生えた腕がビクン、と震えるとそのまま動きを止める…かに見えたが、再びゆっくりと動き始める。
「風よ! 我が敵を切り裂け! <<風の刃>>!」
マックスの魔法が堕落の落胤に命中し、下半身をズタズタに切り裂く。
血飛沫と悲鳴をあげて堕落の落胤が動きを止める……下半身の増殖が止まり、ボロボロと表層が崩れ始める。
「今だ!」
一気にチームの全員の攻撃が堕落の落胤へと集中する。
数十分後、ひたすらに攻撃を加え続けた堕落の落胤は動かなくなった。
とにかく耐久力が異常に高かったのだ。血塗れになりながらも、最後の最後まであがきにあがき続けた。
「はぁ……はぁ……凄まじい生命力ね……」
アイヴィーも返り血で赤く濡れ、肩で息をしている。他のメンバーも返り血と自分の怪我もあって似たような状況だ。
堕落の落胤はすでに上半身しか残っていない。山羊頭の仮面は破壊できなかったが、腹部から下は攻撃でほぼなくなっている状態だ。
「仮面が気になりますね……」
アドリアの言葉に俺も少し違和感を感じた。仮面はあれだけ激しい動きをしていたにもかかわらず、全く外れなかった。食い込んでいるのか、それとも仮面自体が呪いを受けているのか?とにかく不自然なくらいに素顔を見せなかった。
「剣で突いてみればわかるかしら、酷い匂いね……うっ……」
吐き気を抑えつつアイヴィーが刺突剣で仮面を軽く突く……すると仮面の表面に亀裂が走り、縁から触手が蠢き、堕落の落胤の側頭部から血を噴き出しながらその触手が仮面へと戻る。
「うわ……なんだこれ……」
マックスもその仮面に生えた触手に驚きながら、口元を押さえる。そして仮面の触手が動きを止めると、真ん中から亀裂が入り、仮面が割れる。仮面が外れた堕落の落胤の素顔が白日の下へと晒される。
「え……う、うそ…あ…そ、そんな……うっ、うげぇえええっ!」
アイヴィーが驚きと驚愕、そして自分たちが何と戦っていたのかを理解して、我慢していた吐き気を抑えきれなくなり、涙を流しながらその場で嘔吐し始める。
マックスも、アドリアも、トニーも……彼の顔を知っている人は全員驚愕し口元を抑える。
その素顔は……失踪したはずのロレンツォのものだった。
_(:3 」∠)当たらなければどうということはない!
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