49 堕落の落胤(バスタード) 03
憎イ憎イ憎イ。
僕ノ前ニ立ちはだカル全てガ憎イ、壊しタイ、アノ女の言葉が僕ノ頭を支配すル。
「全てを破壊しなさい、私の可愛い坊や」
その言葉ハ強く、ソして甘美な響キで僕ヲ支配してイる。目の前ニは七人の敵ガ武器と敵意を僕ニ向けテいル。こイつラは敵ダ、あの金髪ノ少女モ敵だ、僕ヲ裏切ッた。ソして黒髪ノ男は僕に意見をしテキた、これモ敵だ。そしてアノ庶民ハ最も殺サなければいけナイ敵だ、殺ス殺スコロスコロス。
視界が赤く染マル、力が湧いテクる、黒イ衝動ガボクヲツツム。
悲鳴のような声をあげて堕落の落胤が震える。
上半身が大きく手を広げると、再び火球が複数出現する。
「イカサマすぎませんか!?」
アドリアが流石に悲鳴をあげつつ魔法の障壁に込める魔力を練るが、額には汗が流れる。
それくらいの破壊力がある魔法なのだ。
「混沌の戦士と似ているな……」
七年前の記憶が蘇る。アルピナも黒色槍撃を同時出現させていた。
そういえば混沌の影響で堕落した化け物って言ってたな……だからそういう能力を持っているのかもしれない。
火球が魔法の障壁に衝突して爆発四散していく。
その様子を見て堕落の落胤の上半身が再び考えるような動作をする。
思考能力があるのだろうか?
「たああああっ!」
アイヴィーが刺突剣を構え、連続で堕落の落胤の腕を斬り伏せるが、腕を落とすには至らない。
血飛沫をあげ、千切れかかった腕を振るうが、その勢いに負けて腕がそのまま残った肉が裂かれ、腕が地面へと落ちる。
地面へと落ちた腕は何度かのたうつように動くが、すぐに動きを止めると、黒煙をあげてそのまま溶けていく。
「ぐっ……も、もうなんなの……!」
溶けた腕は刺激臭を発するため、近くにいたアイヴィーは気分が悪くなるらしく、何度も吐き気を堪えた表情を見せている。
そんなアイヴィーを嘲笑うかのように、ちぎれた断面から新しい腕と、何本かの足が盛り上がる。堕落の落胤が吠え、再びアイヴィーを狙って腕を伸ばす。
他の仲間も大体似たような状況だ。
距離を取っているトニーやマックスですら、魔法をかけた後に後ろを向いて何度も吐き気を堪えている。俺も似たようなものだ。不快でしかない。
プロクターだけ無表情で淡々と矢を放っているが、よく見ると口元はかなり硬く絞められており、表情とは逆に限界が近そうな気もする。
あ、ちょっと下を向きそうになっている、彼も危ないかもしれない。
「ジリ貧だな……狙うなら上半身か」
肉塊はいくら切っても焼いても結局は手足が増えるだけの結果になっている。
では上半身はどうだろうか?唯一人間らしい場所を残している部分だ。前衛とは別に、逆側に走り距離を縮めて魔法の詠唱に入る。
「顕現せよ神界の乙女、その槍を我が前に!<<戰乙女の槍>>!」
速度の速い戰乙女の槍なら腕の防御が間に合わないかもしれない、と判断し死角を付くように魔法を放つ。
凄まじい速度で光の槍が射出され、堕落の落胤の上半身に迫る……そこで甲高い音を立てて戰乙女の槍が四散する。
「!? 魔法の障壁か?」
堕落の落胤に当たる前に何かにはじかれた。もしかしたら上半身には魔法に対する防御機構が備わっているのかもしれない。
「アルピナとはまた違う形だな……」
俺に向かって堕落の落胤が腕をふるう、俺はデコイとして木の杖を放り、その場からステップで回避する。
その木の杖を追いかけて腕が伸びてくる……腕にぶち当たった杖は粉々に砕ける……数年使ったそれなりに良い杖だったが、まあ仕方ない。
腰に下げていた影霧を抜き放つ……漆黒の刀身からゆらりと陽炎のようなモヤがゆらめく。
暗黒族が暗闇のなかで鉄を鍛え上げて作った魔法の小剣。
再び腕を伸ばし襲いかかる堕落の落胤。
俺は迫り来る腕をかわし、影霧で斬りつける。傷自体は浅いが、突然震え悲鳴をあげて後退する堕落の落胤。
「ど、どうしたんだ?」
マックスが突然後退した堕落の落胤に驚く。
「影霧は魔力を持っていて、斬りつけた相手の心も同時に傷つけるんだ」
俺はマックスに簡単に影霧の能力を説明する。
この能力のおかげで無駄な戦闘を避けることができるのは便利だ。
ちなみにミスをして自分の指を軽く切ってしまったことがあるが、その時は能力が発動しなかった。安全装置のようなものが存在しているのかもしれない。
「でもこの程度で後退するってことは、心は人間とあまり変わらないみたいだな」
再び影霧を構えて、堕落の落胤に向き直る。
「あらあら……魔法の小剣とはね……」
ため息をつくように、それまでの戦いを見ていたネヴァンが感心する。
その時、記憶の片隅から魔道士だが小剣を持って戦いアルピナを倒した子供の話をふと思い出した。
「小剣を持った小さな子供、とか言ってたかしらね。でもあの子はそこまで小さくはないのだけど」
混沌の戦士であるネヴァンはほぼ不死の存在である。当然時間の感覚にも乏しい。
人間にとっての七年間は彼女にとっては大した時間の経過ではない……それ故に目の前の魔道士の青年がその時の子供だった、とは理解していなかった。
「……十分可愛いわね。腕と脚を捥いでから首輪をつけたら従順なペットになるかしら」
クスクスと笑みを浮かべてクリフを見つめるネヴァン。
「でもだめね、今のロレンツォの方が美しいもの……」
堕落の落胤を見つめて、艶かしい吐息を吐き出すネヴァン。
道征く者には趣味が悪い、とは言われたものの彼女の中では、人間だった時のロレンツォよりも遥かに魅力的だった。
「どうしてみんな理解してくれないのかしら……生命とはこういう力を持っているべきなのに」
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