37 プランナー・イン・ザ・ダンジョンズ05
「な……んだと……」
ロレンツォは目を疑った。戰乙女の槍は確実に庶民を捉えたはずだ。
それなのに戰乙女の槍は不自然な角度で軌道を変えて壁に突き刺さった。
「何が起きている……?」
取り巻き貴族子弟たちも事の異常さに気がついて騒ぎ始める。
「なんだあれは?!」
「何かイカサマをしているのでは?!」
「ロレンツォ様の攻撃を防ぐとは不敬な!」
「いつもながらこれ緊張するよなあ」
俺は汗を拭いながら、魔法の盾の展開状況を確認する……うん、出力を絞っていてもまだ機能している。
この小技のアイデアは七年前に遡る。
……俺はアルピナが復活してくるとして、そのメイン攻撃である黒色槍撃対策をずーっと考えていた。
四六時中考えすぎて、アルピナが涎を垂らしながら裸で俺に迫ってくる夢すら見たことがある、めちゃ怖かった。あの強力で直線的な攻撃魔法をどう防ぐのか?その答えとして用意したのがこの防御方法だ。
魔法の盾は相手の攻撃を防ぐ魔法で、初歩的な訓練で使えるようになる防御魔法だ。
アルピナとの戦闘でも使ったが、弱点は攻撃に当たると壊れてしまう脆さ、また高位の魔法や重い攻撃は防ぎきれないという欠点がある。そのため魔道士は正直この魔法をあまり信用していない。
ベースアイデアというのはセプティムが見せた円形盾を使った受け流しの技法だ。
7年経ってもあの受け流して反撃する剣技は、俺の目に強く焼き付いていた。
同じことができないか?と考え、数式を調整し、理論的な部分を実験、さらに大学の学生や冒険中に知り合った冒険者に頼み込んで練習を繰り返した。
衝突の瞬間に魔法の盾の座標と角度を調整して、受け流す。言葉にすると簡単だが実際にやってみるととんでもなく繊細なコントロールが必要となる技である。
まあ、他の学生からは「一体何を考えてるんだ?」と訝しがられたが。
留学前に冒険で戦った外道魔道士の攻撃をこの技で凌いだことから、「使える」と判断している。
「まあ戰乙女の槍が直線的に飛ぶ、のも幸いしたかもな」
独り言を呟きつつ仲間を見ると、皆一様にポカン、としていた。
アイヴィーですら、涙を流しながら完全に脱力して座り込んでいる。
あ、これ絶対死んだと思われたクチ? そうですよね? みなさん、そんな顔してるの絶対死んだと思ってましたよね?!
「くそっ、何かの間違いだ! 戰乙女の槍!」
ロレンツォが戰乙女の槍を召喚し、複数回投擲する。
「無駄だって、もう慣れたよ」
魔法の盾を調整して、ロレンツォに歩み寄りながら複数の戰乙女の槍を順番に受け流す。
再び壁に衝突した戰乙女の槍が爆音とともに消滅していく。
「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! チンケな魔法の盾なんかで僕の魔法を防げるはずがない!」
ロレンツォが驚愕の表情を浮かべて叫んでいる。
あー、その顔見たかったんだよねー、という意地悪な気持ちが芽生えるがグッと抑えてポーカーフェイスを維持する。
「防いでいないよ、コツがあるのさ」
ロレンツォに接近すると、愛用の木の杖で足を払う。これは予想していなかったようでロレンツォは簡単にひっくり返ってしまう。
杖を胸元に突きつけ動きを封じると、俺的に今日一番最高の笑顔でニヤリと笑って宣言する。
「さて、俺の勝ちでいいな?」
ロレンツォは案外あっさりと負けを認めてくれた。
そして去り際に「覚えていろよ!」と、どこかで聞いたセリフを吐いて走り去っていった。取り巻きも似たような感じだったが、まあ諦めてくれたようでよかった。
「よかった。これで魔導石もアイヴィーも無事だな」
しかし……もう少し長期化したら正直危なかった。
この方法、凄まじい集中力が必要となるため、長く使うと疲労で失敗する確率がどんどん上がるのだ。
ミスをすると即死、そんな緊張感は長くは続かないのも仕方ないのだけど。
「あ、あれ……」
あ、だめだ相当疲れている……疲労で足元がおぼつかなくなる。
その時、俺の胸の中にアイヴィーが飛び込んできて支えきれなくなった俺は尻餅をついた。
「クリフ! クリフ! ……うわぁああああん……」
アイヴィーが子供のように泣きじゃくる。びっくりしたが、心配してくれたんだなと思って頭を撫でる。
「大丈夫だよ、俺は勝ち目のないことはしないから、ありがとう」
いやいやをするように頭を振って俺にしがみつくアイヴィー。体も震えている。
こういうところ見てもいつもの勝ち気な性格は、繊細さの裏返しなんだろうなあ。
「ん、こほん。さすがですなクリフ殿」
トニーが恥ずかしそうに少し咳払いをしてから話しかけてくる。
「いいなあ……あ、いやさすがクリフさんですね。あの時絶対内臓ぶちまけて死んだと思いました!」
アドリアが何やら羨ましそうな顔をしつつ、恐ろしいことをサラッと言う。
「ずーっと練習してたんだ。いつか再び戦わなきゃいけない奴がいて……そいつに勝つためにずーっと考えてた」
「そうなんですか……でもあんな使い方ができるのは他にいないと思いますよ。それと……」
呆れたような仕草をしてアドリアが泣きじゃくるアイヴィーを見つめ……ため息をついて笑顔で「今は貸しておいてあげます」と呟く。
「でもこれで明日まで魔導石維持したらイベント終了だね」
笑ってアイヴィーの涙を懐から出した布で拭ってあげてから、もう一度優しく頭を撫でる。
「ほら、俺たち友達だろ? 友達のために体を張るのは当たり前なんだから」
それでもアイヴィーは泣いたまま俺の体に抱きついてしばらく離れようとしなかった。
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