268 勇者の導き
「……まあ、お互い敵対しないって条件なら」
「ああ、共通の友人を失いたくはないからね」
針葉樹の槍は俺の手をそっと離すと、もう一度『よろしく』と微笑む。
森人族というのはこちらが想像しているよりも遥かに美しい種族で、彼もまた整った顔立ちが特徴的な人物である。
アドリアは半分だけ森人族ではあるが、それでも彼女の顔立ちは非常に整っておりその身に流れる血の影響を色濃く受け継いでいるのを感じる。
「共通の友人?」
「君もよく知っている人物だよ、トニー・ギーニ……彼は今私と共に行動している」
「トニー……ああ、それでシェルリングの……」
シェルリング王国は北方に位置する王国で、聖王国魔法大学の同級生であるトニーの出身地でもある……針葉樹の槍の主な活動拠点は北方という話を聞いたことがあるので、おそらくそう言った意味でも彼とその傭兵団はシェルリング王国の支援を受けていたりするのだろう。
聖堂戦士団も実際には帝国やその他の国の支援を受けたりするらしいし、傭兵団の運営も豊富な資金やバックアップがあってこそ成り立つと言っても良いのだろう。
それまで俺たちだけしか動けていないような時間が過ぎていた中、空間が元へと戻っていったのだろう……突然姿を現した俺を見つけたアイヴィーが驚いたように声を上げる。
「あれ?! クリフ……いつの間にそこにいるの?!」
「ん? 普通に出てきたんだけど……あ、どうも戻りました」
アイヴィーだけではないが、夢見る竜のメンバーが一斉にその声に反応して俺へと視線を向ける……そして俺の腕にしっかりとしがみついていたヒルダが不思議そうな表情で俺を見上げた。
先ほどのイメージ……それは彼女たちには見えていないということだろうか? まああんなイメージを見せられても困るしな。
そして針葉樹の槍が目の前にいることにそこで初めて気がついたのか、驚いて小さく声を上げるが、森人族の勇者は優しくヒルダへと微笑むと軽く頭を下げた。
「どうも姫君……私は貴方の曽祖父に力を貸したこともございます、今後ともお見知りおきを」
「私の……わかるんですか?」
「血筋というのは顔立ちなどに出るものですよ、ジブラカン王家の皆様は大変残念でした」
針葉樹の槍は頭を下げたままそう答えるが、この人何歳なんだろう……と俺は少し疑問を感じてしまった。
見た目は若そうに見えるんだけどな、森人族の年齢は本当によくわからないという人もいるので俺たちが想像するよりも長い時間を彼は過ごしているのかもしれない。
ヒルダは針葉樹の槍をじっと見た後に、少しだけ寂しそうな微笑を浮かべると彼に対して深く頭を下げる。
「今はただのヒルダですから……」
「そうですか……ただ貴女は数奇な運命を辿ることになります、決して愛する者の手を離さないように」
彼の言葉にヒルダの頬がほんのり桜色に染まる……それを見たアドリアが俺の脛を思い切り蹴っ飛ばしてきた。
ガンッ! という音と共に激痛が走る……痛い! と俺は声を上げずに背後にいたアドリアへと視線を向けるが、彼女は少し膨れっ面を浮かべながら俺を睨みつけていた。
彼女にずっとしつこいくらいに言われていたヒルダに手を出すな、という約束を結果的には破ってしまったことを直感的に理解したのだろう。
「……いや、おそらく薬を盛られたんだ」
「誰にです?」
「……ネヴァンだった」
俺の言葉に夢みる竜のメンバーの顔色が変わる……混沌の戦士にして精神を自由に操る魔法使い、アドリアも彼女の精神操作を受けておかしくなった時期があったが、とにかく心の隙間に入り込むという術に関しては、ネヴァンの右に出る者はいないだろう。
アドリアは少し眉を顰めると考え込むような仕草を見せる……アイヴィーはヒルダへとそっと歩み寄ると優しく抱き寄せて彼女の頭を撫でた。
「……大丈夫?」
「うん……クリフは優しかったから……」
「そっか……」
アイヴィーはヒルダをもう一度優しく抱きしめて離すと、今度は俺の胸へとそっともたれかかった……俺は彼女をそっと抱きしめる。
それを見ていたロランとロスティラフはやれやれという身振りを見せるが、これ以上この沼地にいる意味も無くなっている。
すでにモーガンを倒しこの沼地にひしめいていた不死者の群れは崩壊を始めており、あと数年もすればこの場所は元の静かな水源へと戻っていくに違いない。
不死者の怨嗟に満ちた声はすでに聞こえない……俺の目にはモーガンが長年ためていた負の魔力が薄れ始めているのが見えている。
冒険者組合からの依頼内容としては十分な成果が出ているとも言える……俺は仲間たちに軽く頭を下げると、宣言した。
「カレンやベッテガが先にブランソフ王都に行っているから、早めに追いつこう……ここで少し時間を使い過ぎたのは予想外だけどな」
_(:3 」∠)_ 久々に書くとキャラ設定を忘れてしまう……
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