267 勇者と魔王の邂逅
——遠くに光が見える、それは出口の光なのだと俺はわかっていたのだが……。
「……あそこが出口だな……」
俺の言葉にしっかりと俺に身を寄せていたヒルダがなぜ分かるのか、とでも言いたげな表情で見上げてくるが、なぜかと問われると答えるのに苦労しそうなのであえてここは詳しく説明することを避けた。
アルピナの知識……その中で星幽迷宮は一度取り込んだ対象を離すことは珍しいとされていて、今みたいになんとか出口へと出れたのは相当に運が良い。
まあ、これも知識の一環でしかわからないので本当かどうかわかっていないんだけど……なんとかなるでしょ。
そう思って一歩を踏み出した俺の視界が突然ぱあっ、と弾けたように変わる……まるで目の前に全く別の世界が広がったような、そんな感覚を覚えて俺は思わず立ち止まる。
そこは今俺がいる世界のようでそうではない、同じ時間のようであって恐ろしいほど遠い未来のイメージのように感じる。
そこでは俺の周りに数多くの人が息絶え、憎しみと絶望の表情を浮かべて空を見上げているような強い死のイメージとなって目に焼きついていた。
目の前に立っているのは黄金に輝く槍を手に、悲しそうな表情を讃える翡翠の瞳に、黄金の髪をもつエルフの男性が立っている。
彼と俺は死力を尽くして戦っており、お互いの肉体からは激しく血液が流れ出している……彼は何事かを俺に向かって叫ぶ、それは非難の言葉だったか?
俺も彼へと言葉を投げつける……音は聞こえない、強い相手を侮辱するような激しい言葉を放っているはずなのに、それは耳へと届かないのだ。
彼は俺の言葉に諦めたような、それでいて憎しみよりも遥かに強い悲しみの感情を露わに、エメラルド色に輝く魔力を集中させていく。
俺は口元を歪ませ、その魔力に応えるように光輝く魔力を集中させていく……そうだ、俺は魔王でありこの世界にて最強の魔法使いである、その自負と意識が己の感情を高めていく。
お互いが同時に魔法を放つ瞬間……その世界の一部が壊れ、彼と俺は同時に強大な魔力同士の衝突を前に、そのばから吹き飛ばされていく。
互角の魔力、そして古くから神話の時代より定められた最終戦争において、俺たちが殺し合うかもしれない一つの未来……はっきりと、白昼夢のようにそのイメージが脳内へと焼き付けられた。
「……は、あ? なんだ今の……最終戦争?」
あまりの違和感に俺は、隣でしっかりとしがみついているはずのヒルダへと視線を落とす……だがそこにいるヒルダはまるで時が止まったかように硬直し不安げな表情を浮かべたまま人形のように動いていない。
あまりの違和感に俺は困惑しつつ、ヒルダの額をちょんちょんと指でつついたが感触は生身の人間を触ったかのような感じだった。
どうしたものかと辺りを見渡すと、そこには一人の男性が俺を見て驚きで少し目を身開いたまま倒木の上に座っているのが見えた。
彼の周りには俺の仲間たちが俺を見て顔を綻ばせているのが見える……アイヴィーやロラン、そしてロスティラフに何故か俺とヒルダを見て頬を膨らませているアドリアもいるが、彼らは一様に時が止まったかのように硬直しているままだ。
「……どう言うことだ……」
「君がクリフ……そうか、今ここで我々が出会うのは定められた運命とでも言うのか」
男性が俺に向かって話しかけてくるが、俺は初めて会う人間だったためどう反応していいのかわからず黙ったままお互いがじっと見つめあっていた。
その瞳は翡翠のような輝きを放っている……黄金色の髪に少し先の尖った耳、男性としてはほんの少し小柄な体型だがその手に握られた金色の紋様が刻まれた槍には恐ろしいほどの魔力が込められているのがわかる。
そして……俺の中にある別の魂が緊張からなのか酷く怯えのような感情を伝えてきていることに強い違和感を覚えた。
そしてその感情から読みとれる……目の前の男性が何者であるかと言うこと、彼は間違いなく勇者と呼ばれる存在に他ならない。
「……クリフ・ネヴィルだ、初めて会うよな? アンタは?」
「針葉樹の槍と呼ばれている、初めてお目にかかる」
ああ、昔名前を聞いたことがある……北方の森林地帯を根城にして大陸全土にエルフの傭兵を派遣し、武勲を立てている凄まじい戦士達がいると。
魔法と槍を組み合わせた独自の技術を持っており、彼らはただ一人の主人のために命を捨て、その命を持って故郷に栄光をもたらしている。
その傭兵団の名前は針葉樹の槍、そしてその主人もまた同じ名前で呼ばれている勇猛な傭兵団の名前だ。
ロランから伝説的な傭兵団がいるとは聞いていたが、まさかその本人と会えるとは思わなかった……大荒野を旅していた際に帝国よりさらに北へ行けば会えるかも、と酔客が話していたのがつい先日のように思える。
「それで? アンタはなんでここに?」
「君に会いにきた、と言っても戦いにとかではないよ」
「俺は別にアンタに用はないぜ?」
「そうだね……君の顔を見た瞬間強烈なイメージを感じた、それは現実ではないけど現実のようなイメージだ」
針葉樹の槍は少し頭痛を感じているのか、軽く頭を押さえたまま首を振る……イメージではもっと憎しみに満ちた表情を浮かべていた彼だが、目の前にいるとそれほど敵意があるようには感じられない。
未だ時の止まった空間の中で、俺と針葉樹の槍はじっと目を合わせる……もしかしたら遠い未来、何もかもが過去になった時代に戦う運命なのか。
だがそれも今現在の時代ではないと心のどこかで感じる、針葉樹の槍は少なくともこの時代では敵対をしないのだ、という確信めいた何かを感じる。
俺は黙って右手を差し出す……単純なもので、この世界においても利き手を出すという行為は敵意を示さないことにもつながっている。
彼は少し躊躇するそぶりを見せていたが、すぐに俺が敵対する気がないと理解したのだろう……そっと俺の手を握ると優しく微笑んだ。
「……イメージは強烈だが君が私と戦う気がないという意思は理解した、よろしく頼むよ魔王様」
_(:3 」∠)_ 遠い未来、遠い世界で彼らは戦うのかもです
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