238 漆黒の子山羊(ゴート) 04
「……これで勝ったつもりか? 新たなる魔王よ……そうだとしたら片腹痛いぞ……」
ガラタンが荒い息のままニヤリと笑う……そこで初めて俺は相手の様子を詳しく見定める……ダメージはそれなりにあるだろうが、あの攻撃で四肢が千切れることもなく、身体中に傷が入っているが重傷というわけではなく、まだ動ける状況……彼がいう通り、まだ俺は勝ってはいないということだな。
「まだ奥の手とかあるんだろ? それを見せてもらってから勝ち誇ることにするよ」
その言葉に多少の驚きと、そして俺の言葉に侮蔑を感じたのかガラタンの表情に怒りが混じるが……彼が懐から不気味に脈動する肉塊のようなものを手に取る。あの
肉塊……今の俺にはわかる堕落の種子と呼ばれるものであることと、その効果は誰も予測できないということも。
<<そうね……堕落の種子は混沌の戦士だけでなく出来損ないの堕落の落胤を生み出すこともできるわ。何になるのかは……使ってみないとわからない、どう一個使ってみる?>>
そんな……サプリメントでも服用するような軽いノリで言いやがって……前世の知識でいうならソシャゲのガチャみたいなもんだな。
ガラタンは俺がその肉塊を見ても表情を変えないことで、それがなんであるのか理解しているとわかったらしく、再び舌なめずりをして咲う。
「……何が起きるかわかっているようだな……では我は今からお前を超える……」
「超える……可能性があるって話だろ? 超えてからそういう台詞を言えよ……」
クククッと笑うと、ガラタンが肉塊を飲み込む……うわ、どうやって使うのかは理解してなかったけど、あれ食べ物なんだ……気分が少し悪くなるが、そんなことはお構いなしにガラタンは満足そうな顔で笑っている。
次の瞬間、ガラタンの体がまるで風船のように膨れ上がる……あれ? なんで? 俺は咄嗟に仲間のいる位置に魔法による防御結界を展開する。
「危なくなったら逃げてくれ!」
ガラタンは驚いたように膨らみ切った自分の体を見ていたが、次第に体を震わせる……その表情は恍惚としたものへと変化していく。
肉体はそれまでより二倍近くに膨れ上がると、限界に達したかのようにそこで膨張が止まると、ガラタンは膨れ上がった体の中心で俺を見てニヤリと笑う。
「……いくぞ魔王よ……我は適合したようであるッ!」
<<……クリフ、気をつけなさい……思っていたよりもこいつは厄介よ……>>
アルピナの警告が響くと同時に、ガラタンの肉体が文字通りひっくり返っていく……口から、目から、鼻から、そして指先や足先からまるで肉が盛り上がるように、避けた腹からは内臓が露出し、肉体を覆い隠していく。
肉体の崩壊に伴って大量の血液が噴出するが、その血液は球体を描くかのように彼を覆い隠していく……それはまるで何かの繭か、卵のように空間ごと覆い尽くしていく。本能的に何もしないのは本当にまずい、と俺は悟って慌てて魔法をその球体へと叩き込む。
「……黒い槍ッ!」
超高速で飛翔する黒い槍がその血液で覆われた球体へと衝突するが、表面で爆発して威力が完全に削がれてしまう。
ぐ……膨れ上がる魔力の波に俺の全身の毛が総毛立ち、ビリビリと皮膚を刺激していく、周りではその様子を見ていた獣魔族がまるで神の誕生を祝うかのようにその球体へとひざまづいて祈りを捧げている。
球体から不気味な肉剥き出しの腕がずるり、と伸びると地面でひざまづく獣魔族達をその手で掴み取ると、次々と球体の中へと放り込んでいく。
悲鳴と獣魔族の肉体を砕いていく咀嚼音があたりに響く……十体近い獣魔族を取り込んだ球体の動きが止まる。
その球体を中心に、巨大な黒い触手が何本も突き出すように生えていく……そして球体が再び何かの形を取り始める……巨大な四本の足がぐちゃりと肉体を突き破るかのように突き出し、地面へと力強く立ち上がる……そしてその太い幹のような巨大な胴体と、そこに出鱈目に生えているいやらしい笑みを浮かべる複数の口からは、紫色の舌と、ドス黒い涎を流しながら全ての口が同じ言葉を発していく。
「「「「「生きたまま食ってやるぞ魔王ォ!」」」」」
その大音響に俺の体がビリビリと震える……こいつは、とんでもない化け物に変化したのではないか? 冒涜的なまでに出鱈目な作りと、その肉体は臓物がそのまま張り付いたような形状をしている。
醜悪な外見に相応しく、まるで腐った肉のような臭いを撒き散らしながら、ゆっくりとその巨体を震わせつつ足を踏み出す。
<<あらあら、随分とレアな子が……あれは子山羊ね……豊穣と繁殖の神話における堕落の堕とし子、さてあなたの能力で勝てるのかしら?>>
楽しそうなアルピナの声に内心イラッとしつつ、俺は魔力を集中させていく。
どの程度の魔法が通用するかわからないのだから、以前やったように純粋な魔力をそのまま打ち出してしまった方が良いと判断して、俺は黒い腕から連続で魔力の弾丸を子山羊へと叩き込んでいく。
魔力の弾丸は超高速で子山羊へと着弾すると、表面で連鎖的に爆発を起こしていく。
「やったか?」
立ちこめる爆発が収まった後、ゆっくりとその巨体を震わせながら子山羊が俺に向かって触手を鞭のように振るっていく。
俺は後ろへとステップしながらその攻撃を避けていくが、触手がぶち当たった地面が凹み、轟音と共に土煙を巻き上げていく……見ている限り傷はついているようで、その太い幹のような肉体からは真っ赤な血が流れてるが、それ以上に凄まじいまでの耐久能力を持っているようで、そんな攻撃など意に介さないと言わんばかりに周りの木々を薙ぎ倒しながら突き進んでくる子山羊。
「「「「「効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ効かぬ!」」」」」
_(:3 」∠)_ やっぱり敵キャラはちゃんと変身しないとね!
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