226 戦士たる矜持
「……よくこんな手を思いつきますね……確かに燻して誘い出す狩りの方法があるのは知ってますけど……」
俺が魔法を使って焚き火から立ち上る煙を洞窟へと送り込むのを見て、アドリアが呆れたような顔で俺を見ている。その他の仲間も俺が嬉々としてその作業を進めていることに、戸惑ったような表情を浮かべている。
今俺は、そこらへんの木や草、毒草などを焚き火で燃やして煙を作りそれを洞窟内に送り込んでいる……つまりは狼獣人を燻して誘い出す作戦、ということだ。
「……正面から殴るより広い場所に出てきてもらったほうがいいだろ?」
「そりゃそうですけど……相手が可哀想だな……」
まあ、この世界でも戦いの誇りとか、騎士のうんちゃらといった名誉を重んじる傾向はあるからな……正直あまりお勧めできない手段ではあるが、洞窟に入って奇襲攻撃を受けるよりは遥かにマシだと思うのだ。
問題は洞窟のあちこちに通気口になるような部分があるとあまり効果がない、ということなのだけど……今のところ入り口付近は煙で充満しているが、他の場所から煙が立ち上っているような雰囲気はないのでおそらく大丈夫なのだろう。
アドリア達は狩りの方法、と話していたが俺がこれを思いついたのは全く別の発想からだ……前世の学生の頃にボードゲームやテーブルトークRPGを遊ぶ同好会に入っていて、仲間の一人がこういった発想をよくしていた。
遊んでいるときは、さすがにゲームマスター泣かせだな、と思って苦言を呈していたが、実際にやる身になるとまあ、これも悪くないんじゃないかな、とは思うのだ。
「こんなのマンチキン、ってよく言ってたなあ……」
「ま、まんちき? なんです?」
「なんでもない、独り言だよ、それよりも出てきてくれるみたいだよ」
洞窟の奥の方から軽く咳き込むような声と、吠え声が聞こえてくる……そして猛獣が地面を蹴るような音も同時に聞こえている。
俺たちは洞窟の前にある広場で身構える……ロラン、カレンが先頭、その後ろに俺とベッテガ、少し離れた場所にアイヴィーとアドリアが控え、後方にはヒルダとロスティラフが弓を構えている。
「無理しないように、それと逃げ出す奴は放っておこう……恨みの連鎖だけは避けたい」
「ウオオオオオオオン!」
大きな吠え声と共に、洞窟の入り口から黒い巨大な影が飛び出す……その姿は人のようでありながら全身が毛皮で覆われ、頭は狼と瓜二つの姿、狼獣人が俺たちの目の前に飛び出す。
数は三体……そして後ろから混沌狼が複数飛び出しアイヴィーへと襲いかかっていく。
こちらの想定よりも遥かに高速移動をしてきた相手に、俺たちはほんの少し後手に回る……ロランは別の狼獣人と組み合い、カレンも同じく……アイヴィーとアドリアは複数の混沌狼の攻撃を交わしながら戦い始めている。まあ、あっちは大丈夫か。
乱戦になったことで、弓を撃ち放つ余裕がないと判断したのか、ロスティラフとヒルダは武器を持ち替えて前進するが、そこへ少し遅れて飛び出してきた狼獣人と交戦状態になっており、こちらにくる余裕はなさそうだ。
「クリフ、こいつはでけえな……」
ベッテガが俺たちの前に立ちはだかっている巨体の狼獣人を見て少し表情を歪める。文献で調べた狼獣人の大きさは人とさほど変わらない、という記述だったが目の前の個体はそれよりも一回り大きい。
俺は剣杖を構えながら、相手の出方を伺う……唸り声をあげながら目の前の狼獣人が口を開く。
「……人間がッ! 俺たちの住処に煙を送り込んで追い出そうなどと……」
「略奪行為は犯罪なんだぜ? 知ってるか?」
「無論、我が部族の命を繋ぐために仕方のないことだ。お前らも糧にしてやろう」
大きく咆哮すると狼獣人はその吠え声に何かの効果を載せてくる……咆哮は力を持ち、一直線に地面をかち割りながらこちらへと向かってくる。
普通の人間の目には不可視の衝撃波が飛んでくるように見えるかもしれないが……魔王への道を歩み始めた俺の視界には、その咆哮に載せられた魔力の残穢が見える……俺はベッテガの首根っこをつかむと一気にその場から跳躍して距離を取る。
「うわああああっ!」
「ベッテガ、カレンの援護に行ってくれ。こいつはやばい、俺がやるよ」
彼に耳打ちすると、ベッテガは俺の表情を見て、その言葉に嘘がないと感じたのだろう、一度頷くとそのままカレンの方へと走っていく。
必殺の咆哮を避けた俺を見て、感心したような表情を浮かべていた狼獣人が全身の筋肉を盛り上げるように力を込めると、口の端を歪ませる。
「一人で……魔法使いが? 戦士である俺と戦うだと?」
「ああ、仲間に危険な目をさせたくないからね……それとお前は勘違いしてる……俺は一人でも十分強い」
軽くため息をついてから、俺は威嚇をするように全身から魔力を放出させる……正直言えば視覚的な見栄え以外にはこの行動には意味がないのだけど……ただその異様な雰囲気を感じ取ったのか目の前の狼獣人は一歩後ずさる。
放出した魔力を再集結させて俺は黒の腕を顕現させる……いきなり目の前の魔法使いの肩から黒い腕のようなものが生えたことでギョッとした顔を浮かべる狼獣人だったが、再び身構えると彼は名乗りを上げるように吠えた。
「我はこの部族……ダ族を率いる戦士ドドロバス! お前如き人間に負けるわけにはいかん!」
_(:3 」∠)_ 家を漁ってたらカードゲームのマンチキンが出て来ました。一度もプレイしてないかも。
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