218 水面に立つ漣
「なんて爆発だ……我が軍は問題ないのだろうか……?」
トゥールインの城から外の様子を見ていた少年、ヴィタリ・ラプラスは不安そうな顔でその爆発を見ている。眩い白光と振動がこの町まで伝わってきており、只事ではない何かが起きていると全ての人が確信している。
これまで補佐役として彼を支えてくれていたアルピナも戦場へ出てしまっており、彼と数人の供回りだけが城にいる状況だ。
「閣下……危のうございます、こちらへお戻りください」
「そうだね……混沌の戦士たちは大丈夫かな……」
「アルピナは死んだ、クラウディオは逃げた……ネヴァンはレヴァリア戦士団と共に退却中だ」
いきなりそう声をかけられて、ヴィタリは声の下入り口付近を見るが……そこへまるで闇から染み出すかのように長身の黒いローブに身を包み、顔には鳥を模した仮面をつけた男が姿を現す。その雰囲気はあまりに不気味で、ヴィタリの供回りは恐怖のあまり身動きひとつ取れなくなっている。
「……あなたは?」
「名乗りもせずに失礼した……私は道征く者、混沌の戦士の第二柱、閣下に具申申し上げる」
道征く者は儀礼に則った美しく優雅な挨拶でヴィタリへと話しかける。その所作を見てヴィタリは彼が高度な教育を受けた文化人であると理解して、やはり洗練された所作のあいさつを交わす。
その上で、彼は再び自らの座へと座り直し道征く者へと問いかける。
「道征く者……アルピナは本当に?」
「その通り……アルピナを倒したのは荒野の魔法使い、貴方も会ったことのあるクリフ・ネヴィル」
道征く者が淡々とその事実を語るが、ヴィタリは少ししか話はしていないが、クリフの顔を思い出して少しだけ懐かしさを覚えて微笑を浮かべる。
その彼の表情を見て、道征く者が真意を図りかねて黙ってしまうが、ヴィタリは笑顔のまま目の前の混沌の戦士へと話しかける。
「アルピナはクリフのことがお気に入りだったから……倒されたと言っても満足はしているんだよね?」
「……あの者の心境までは理解しかねる、だが……最後まで勇敢に戦ったことは事実」
道征く者の言葉に黙って頷くと、ヴィタリは再び謁見用の椅子へと座り直す。まだあどけなさを残す少年の顔を見て仮面の下の目が不思議なものを見るかのように瞬く。
思っているよりもはるかに落ち着いたヴィタリの様子を見て、混沌の戦士はなんとなくアルピナがこの子供には優しくしていた理由がわかる気がした。
ああ、この子供は責任を負わされてもそれを自らで取るだけの気概があるのか……周りの大人にはそんなものは無いのが残念だが。
「閣下、カマラと脱出用の竜をこちらに向かわせている、あなたは旗印……逃げていただけると我々としても話が早い」
「……そうか、僕らは負けたのですね。元々勝つ見込みはなかった戦いとは思ってましたが、想像よりもはるかに早いですね……」
ヴィタリが悲しそうな顔で何かを想ってなのか少し目を閉じて黙り込む……周りの配下たちは慌てふためき、急足でこの場所から逃げ出していく。
恥という言葉を理解しているのであれば、まだ幼い主君を守るために言葉を待つだろう、だがしかし今逃げ出した恥知らずは己が命が重要らしい。
「……言葉を隠さずに伝えればそうなる、それ故に捲土重来を信じて落ち延びるという選択肢を、あなたに与えたい。それと、少しお耳汚しを失礼する」
道征く者がぱちん、と指を鳴らすと少し遅れて逃げ出した家臣たちが向かった方向で、凄まじい悲鳴が上がる……ヴィタリはハッとして椅子から駆け出そうとするが、目の前にいる混沌の戦士が首を振っていくな、と示したために少し悩む仕草を見せた後に、再び椅子へと座り直す。
その様子を見て道征く者は満足そうに何度か頷くと、ヴィタリに向かって優雅なお辞儀を見せる。
「……私の求める調和とは、混沌。それは水面に立つ漣のように常に揺れ動くものだ。あなたには生きていただきたい。それが混沌を生み出す」
まるで謎かけのような道征く者の言葉を聞いたヴィタリは、少し考えるような仕草をしてから、意を決したように少し諦めの入った笑顔を浮かべる。
その笑顔を見て道征く者は説得がうまくいかない、という事にそこで気がついた……この子供は、責任感が強すぎる、そう育てられているのか、そう教え込まれているのか。
「申し訳ない、私は死んでいった者達のために逃げるわけにはいかない。責任を取るものが一人は必要なのだとわかっている……これ以上の戦火、そして混乱は帝国を愛する者の一人として看過できない」
「帝国を愛する? 何を今更……既に水面に石は投げ込まれた、帝国は更なる混乱に巻き込まれる。その投げ込まれた石は閣下自身、貴方が元凶だぞ?」
「わかっています、だからこそ今ここで石を取り除く必要があるのです……トゥールインの民を僕の我儘に付き合わせた責任を僕自身が取らねばならない」
ヴィタリははっきりとした意思を持って、道征く者と対峙する……その目を見て、混沌の戦士は説得が難しい、と判断した。
この子供は……高潔なのだ、アルピナも随分と厄介な石を用意したものだ……と内心歯噛みをする。
既に覚悟の決まっているものを無理に逃したところで、物の役には立たないだろう……頭を振ると道征く者は大きくため息をつき、再び優雅な礼を見せる。
「……承知した、私の記憶にも閣下の名は永遠に刻まれるだろう、再び会う事ができるのであれば、その時まで壮健なれ」
「気にしなくていい、次会うときは地獄ですよ。そのときはゆっくりと語らいましょう道征く者」
ヴィタリはそのまま椅子に深く掛け直し、道征く者へと微笑む……英雄の気質、反乱を起こさねば確実に帝国の重鎮としての地位は約束された傑物となっただろう。
まあいい、帝国の未来を一部脅かしただけでも十分なことかもしれないから……道征く者は再びお辞儀をすると、そのまま謁見の間を退席していく。
そんな道征く者の様子を見ながら、ヴィタリは大きくため息をついてから不安そうに窓の外を眺めてつぶやいた。
「クリフ・ネヴィル……もう一度だけ話をしたい……きてくれ……」
_(:3 」∠)_ 今週はなんとか書けた! のんびり書いているので少し展開遅めですがよろしくお願いします!
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