131 限界の果てに……
轟々と炎をたちのぼらせるゲル状の液体が燃え尽きると、少し考えるような仕草をした怪鳥は俺たちに向かって次々とゲルを吐き出す。
「くっ……これじゃ近づけないじゃない……」
アイヴィーが歯噛みしながら飛んでくるゲルを避けていく。地面に落ちると炎をあげるため、彼女は大きく距離をとって避けており、接近戦に持ち込めていない。
ロランも似たようなものだ。アイヴィーよりも重武装の彼は大盾を使って炎を避けているが、このままだとジリ貧になってしまうだろう。
「援護します!」
「<<石弾>>!」
ロスティラフとアドリアが遠距離から弓と魔法で援護射撃を行う。両方の攻撃が体に当たるも、怪鳥の攻撃が届かない位置なのか、現時点では比較的近距離で立ち回っているアイヴィーとロランへゲルを飛ばし、接近されると体を回転させて、尾羽による攻撃を繰り出しており、現時点では決定打に欠けてしまっている。
弩砲は……先程の衝撃で完全に破壊されてしまっており、二度と使えそうにない。申し訳ないことをしてしまったな……ただあの一撃で確実に怪鳥を叩き落とせたことは確かだ。
「シトォ! シトォ! コロスゥ! ねゔぁんニイワレタァ!」
いきなり怪鳥が発した言葉に、俺とアドリア、アイヴィーの表情が凍りつく。ネヴァン、混沌の戦士にして三年前に俺たちが倒したはずの混沌の眷属……何となく感じていたがこの怪鳥もネヴァンが何らかの形で作り出した元人間ということだろう、ロレンツォのように。
あの薄桃色の長い髪と、邪悪すぎる歪んだ笑顔、金色の目を昨日見てきたかのような幻覚が蘇る……そ、そうかやはり生きているのか……。あまりに呆気なく倒せたので少し違和感を感じていたのだ。
「あ……あ……い、いや……」
アドリアが真っ青な顔で震え出す。遺跡の時もそうだったが、アドリアにとってあの時のネヴァンによる精神攻撃は心的外傷となっており、彼女は恐怖を抑えこむかのように両手で自分を抱きしめるようにして震えている。その様子を見てロスティラフが攻撃をやめて彼女のケアに入る。
俺はロスティラフと目が合うと、頷き怪鳥に向かって魔法を放つ。
「時紡ぐ蜘蛛……蜘蛛により紡がれた時間、引き裂く力……我が前にその時の魔力を顕現せよ……時は歪み歪みは亀裂へ……<<歪みの亀裂>>!」
空間の歪みをみて、攻撃されたことに気が付いたのか怪鳥が一歩だけ後退する……しかし空間の亀裂はすでに始まっており、怪鳥の左足を無理やりにもぎ取っていく。悲鳴をあげてちぎれた傷口から派手に血を吹き出し、悶え苦しむ怪鳥。
そこへアイヴィー、ロランの攻撃が加えられ、体の各部に刺突剣と槍が容赦なく突き立てられる。
もがきながらも残った足をばたつかせて抵抗を続ける怪鳥。
怪鳥が苦しみながら俺をぎろりと睨みつけ……残った右足だけで無理やりに尾羽を振り回してアイヴィーとロランを引き剥がす。
「くそっ、まだ動けるのか」
ロランが少し距離を取って、大盾を再び構える。片足でなんとか立ち上がった怪鳥が弱った巨体をよろめかせながら、俺を再び睨みつけ……口を開いた。
「シト……シ……使徒よ。苦しみを……終わらせて……私を神の元へ」
急に口から出た流暢な言葉に、俺は驚くが先ほどまでの狂った眼光ではなく、少しだけ理性の光がある気がした……。しかしその後急に咆哮を上げると怪鳥は少し離れた場所にいた俺に向かってゆっくりと歩き始める。そして次第に駆け出すように俺に突進してきた。
「わかった……。影より生まれよ腕」
俺は他の仲間を手で制すると、魔法を詠唱し始める。
「漆黒の腕よ、わが意思に従い敵を討ち滅ぼせ。<<黒の拳>>!!」
<<企画実行、魔力増幅を発動します>>
ギリギリまで迫った怪鳥を俺の体から立ち上った黒い霧が瞬時に黒い拳の姿へと変化すると……思い切り叩きつけるような格好で、怪鳥の頭ごと地面へとめり込ませる。轟音と土埃、そして赤い血が目の前で舞う。
土埃が晴れると、目の前に地面へとめり込んだ怪鳥のあちこちが嫌な形に変形した死体があった。まだ痙攣をしているが、確実に仕留めたと思う……。
魔法を解除すると、拳の形をしていた黒い霧が空気に溶け込むように消えていく。
「やったか?! しかし……なんて魔法だ……」
ロランが俺の元に駆け寄り、怪鳥が確実に死んでいるのか槍で突いている。アイヴィーも刺突剣を鞘に仕舞うと、額に浮かんだ汗を拭う。
アドリアが俺に駆け寄り抱きつくと涙をいっぱいに浮かべた目で俺を見つめて、口を開く。
「ク、クリフ……その化け物の声……私聞き覚えがある……私を誘拐した人の声……」
その言葉にロランやロスティラフ、アイヴィーが固まる……やはりこいつは……元々人だったってことか。
「ということはやはり叫んでいた通り、ネヴァンが絡んでいるってことか……」
「ネヴァンって聖王国で倒したっていう混沌の戦士のことか?」
ロランの質問に俺は頷いて答える。アドリアがまだ震えていて、俺にしがみついたまま離れようとしていないのだ。彼女の頭を撫でながら、俺は呟く。
「倒したはずなんだ……でも復活したってことなんだろうか?」
「……倒されたな」
「倒されたのう……クハハ」
クラウディオとネヴァンは同時に黒鴉の死を感じ取った。ネヴァンからすれば倒せると思って嗾しかけたわけではないので、別に痛くも痒くもない。クラウディオはこれからも密偵として動かそうと思っていた手駒を失ったわけだ。
「直接使徒との決着をつけた方が良さそうだが……そういえば、道征く者からの呼び出しがかかっているのだったな」
クラディオがため息をついて、座っていた椅子から立ち上がる。板金鎧の各部が擦れ合う音を立てるが、まるで普通の服を着ているかのような軽やかな動作を見せるとクラウディオは面白くなさそうな顔で、部屋を出ていく。
その後ろ姿を見ながらネヴァンは笑う。
「強くなる……使徒がどんどん強くなる……これは面白い、限界の果てに何が見えるのか……」
_(:3 」∠)_ クリフくんは強くなってるんですぅ……!
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