128 試作品の弩砲(バリスタ)
「あれはどの文献にも載っていない魔物ですね……」
空を悠々と飛行する人面の怪鳥を隠れながら観察するアドリアが困惑の表情を浮かべている。アイヴィーは空を飛ぶ怪鳥を一瞥すると、流石に手が出ないとばかりに肩をすくめて家の中に戻っている。ロランも同じようなものだ。
「私もそれなりに長く生きておりますが、見たことのない怪物ですな……混沌の手先なのではないでしょうか?」
ロスティラフの言葉にアドリアも頷く……まあこの世界の人の悪い癖ではあるが、理解できないものちょっとおかしいものを混沌として断罪する……このセリフはよく聞いた。
が、今回は俺から見てもあの怪鳥は明らかに、混沌の手が入っていると思われる。そもそも動物・植物図鑑などを見ても、ある程度形として違和感のある動物というのは存在していないはずなのだ。
例えばかなり前に襲われた夢を喰う者や姿を変える者のように物理法則や、進化の過程を無視したような生物は大体混沌の手が入ってると言っていい。
先日ゲルト村を防衛した際に襲ってきた獣魔族、蠍人族なども普通に進化したらこうはならないだろう、という生物などの代表例だ。多少の例外はあるが、そういうものだ。
あの怪鳥はどう見ても進化の過程を経ていない。強制的に変化を促されている可能性が高い。
「どちらにせよ、空を飛んでいると手出しができないな……手を考えないと」
「そうですな……なんとかして地上に下ろす必要がありますな……」
俺の言葉にロスティラフも何か手はないか、と思案を巡らせている。空を飛ぶ魔物との戦い、といえば飛竜や鷲獅子、竜あたりが連想される。
竜はその能力から、戦うには軍隊を用意するケースが多いと古文書には書いてあった。冒険者の力量でなんとかなる範囲の魔物というと、飛竜や鷲獅子クラスまでなのだという。
飛行型の魔物は基本的に一撃離脱戦法を得意としている。高空から急降下し一撃を加えて高速で離脱する。これを繰り返すことによって敵対者を徐々に減らしていく戦法だ。鷲獅子は地上に降りて戦うケースも多いらしいが。
一回地上に下ろしてみないとどう行動するのかわからない、これはちょっと危険な賭けになる。
「急降下を誘って、攻撃の届く範囲で地上に叩き落とす強力な一撃を当てロランとアイヴィーで地上に釘付けにしてトドメを刺す……が現実的な方法かな」
俺の言葉にロスティラフも頷く、問題は急降下攻撃がどの程度の速度が出るのか? がわからないので果たして攻撃を当てることができるのかという割と単純な疑問はあるのだが。
「村にある防衛施設はどうかしら?」
アイヴィーがタンタに尋ねる……タンタは村長と何やら話し込んでいるが、この村にありそうな防衛設備は大したものがなさそうだ……。
「防衛に使えそうな設備はちょっと……村の鍛冶屋なら何かを持っている可能性はありますが……」
「ではその鍛冶屋さんと相談をしますか、相手は帰ったようですよ」
アドリアが窓の外を覗き込んで、青空が広がっているのを確認している。俺も窓の外を見ると黒い雲が有機的な動きを見せながら、徐々に空へと溶け込むように消えていくのが見えた。
「村長さん、案内をお願いできますか?」
俺の言葉に不安げな顔で村長が頷き……俺とアドリアが代表して鍛冶屋の元へ向かい、その間に残りのメンバーで他に使えそうなものを捜索してもらうことになった。
村長の案内で無事鍛冶屋に到着すると、中から規則正しく槌の音が響いていた。
あの状況下でも仕事をしている、とすればずいぶん豪胆な性格だなと思わなくもないが、鍛冶屋の工房では親方……背の少し低めの髭面の男性が農機具の修繕を行なっている最中だった。
「ちょっと待っとれ、すぐに終わる」
俺たちが声をかけようとすると、親方がこちらも見ずに作業をしながら口を開いた。しかし……工房は思ったよりも広く、立派な炉が中央に鎮座している。壁には農機具や一部武器なども立て掛けられており、見るとなかなかに精度の高いものが多い。
「ずいぶん腕の良さそうな鍛冶屋ですね……」
アドリアが俺が手に取っている剣を見ながら、感心している。なんというか……質の悪い剣などは持った時のバランスが悪く、違和感を感じるものなのだが非常に持ちやすい。
ロランやアイヴィーがよく話していたが、鍛冶屋も本当に腕が良くなると魔法の武器並みの切れ味を持った武器を作ることがあるらしい。
もしかしたらこの親方はそういう腕の持ち主なのかもしれない。
「待たせたな、お前らが村にきた冒険者か」
後ろから声をかけられて、剣を壁に立てかけ直すと俺は笑顔で親方に挨拶をする。
「こんにちは、私はクリフ・ネヴィルと言います。こちらはアドリア。相談事があって参りました」
俺の笑顔にふん、と鼻を鳴らすと親方は仏頂面を崩さずに俺たちの顔をじろじろと見始める。
「珍しい組み合わせだの。他にも仲間はおるんか? お嬢ちゃんは……ずいぶん若いのぅ」
アドリアが困ったような顔で苦笑いを浮かべている。どうやらまあ話は聞いてくれそうな雰囲気だ。
「……ということで、あの怪鳥を倒すための防衛装備について相談に参りました」
「なるほどな……あれだけのデカブツ、普通の武器では難しかろうよ」
親方はアドリアと俺を1時間ほど色々な質問攻めにすると、ようやくこちらの話を聞いてくれる姿勢になった。アドリアはもう嫌だ……という顔で入り口近くで不貞腐れて座り込んでいる。
色々聞かれた……アドリアと俺の関係とか、仲間の構成とか、どうして冒険者をやってるのかとか、出身とか五月雨式に質問をされてそれにいちいち答えている、というのもなかなかの苦痛だ。
「あるっちゃあるんだが……この村には必要なくてな。倉庫に仕舞いっぱなしの武器があるぞ」
親方は俺とアドリアについてこい、という仕草をするとさっさと工房の奥へと歩いていく。それを見てアドリアに声をかけると、俺も親方へとついていく。
倉庫の扉を開けると、親方は壁にかけられた松明へと火をつけ中を照らす。そこには村の鍛冶屋には不釣り合いなくらいほどの多くの武器が仕舞われている。
「な、なんて数だ……」
俺が流石に呆れたように口を開くと親方は笑って理由を話し始める。
「この村に来る前に俺は聖王国で仕事をしていてな、軍隊相手の鍛冶屋だったんだ。そこで武器の製造を学んだ。まあ、盗賊退治とか魔物退治に使われるケースが多かったがな」
壁には槍や板金鎧、大剣。そして倉庫の中央には巨大な車輪付きの弩砲が埃を被っていた。
「攻城兵器を作ってくれ、と聖王国の軍隊に頼まれてな。三台ほど製作したんだが……こいつはその試作品だ。ここに越してくるときにバラして持ってきた」
懐かしそうな顔をして弩砲を撫でる親方。何か思い入れのあるものなのかもしれない。
「試作品なんでな、矢を飛ばすのではなく石を飛ばすようになっている。だが今回の戦いにはちょうどいいだろう?」
親方が俺に向かってニヤリと笑い、親指を立てる。これさえあれば……。
_(:3 」∠)_ 巨大な相手に攻城兵器を叩き込む、ロマンですねぇ
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