122 ゲルト村防衛戦 13
「キリがない……マジでドカンと行ける魔法はないか?」
ロランが九頭大蛇の三本目の首を槍で突き、一旦動きを止めたもののすぐに動き出す様子を見て流石に声をあげる。アイヴィーも別の首に刺突剣を突き刺して蹴り飛ばすが、やはり少し間を置いて動き出す首を見て……かなり困惑している。
「これは……不利すぎるわね……クリフなんとかならない?」
前世の記憶を探っていく……九頭大蛇、ギリシア神話でヘラクレスに倒された怪物は、九本の首を持っていて、首を切り落とすと二本の首が新しく生えたんだっけか。ヘラクレスは困って甥のイオラオスに助言を求めて……切った傷口に松明の火をあてて焦がすことで増殖を止めた、だったかな。
この世界の九頭大蛇も同じかどうかわからないが……やる価値はありそうだ。
「よし、首を切り落とそう。そこに火球を当てて首が復活してこないようにする」
俺の言葉を聞いて、皆が頷き……再び武器を構える。そこへトサカ首が口を膨らませていく……これは……毒の息吹の準備行動?
「いかん、毒の息吹です!」
ロスティラフが慌てて俺たちに叫ぶ、その声を聞いてアドリアが巨大な魔法の障壁を展開する。トサカ首が口を大きく広げると、紫色の息吹が勢いよく放出される。
魔法の障壁に毒の息吹が衝突すると、凄まじい音を立てて、もうもうと紫色の煙が立ち上る。
毒の息吹自体を喰らっていないにもかかわらず、匂いと煙は完全には防げず俺たちは咳き込んでしまう。喉がピリピリと痛む……そうかギリシア神話でも毒は解毒できずに後にヘラクレス自身をも倒してしまうのだったっけ。
「ぐっ……これは直撃したらまずいな……」
「毒の息吹は猛毒です! 直撃したら助からない可能性があります!」
注意を引くためにロスティラフが複合弓を連続して矢を発射し、二本の首を射抜くもののやはり一旦は動きを止めても再び動き出してしまう。
「みんな大丈夫か?」
アイヴィー、ロランは咳をしているものの問題なさそうだ。ロスティラフは……問題ないな。アドリアはかなり苦しそうだが、俺が見ていることに気がつくと、少し笑う。
「大丈夫ですよ、やっちゃってください」
俺はアドリアに頷くと、魔法の詠唱準備に入る。ここでドカン、といくのであれば……やるしかないだろう。
「時紡ぐ蜘蛛……蜘蛛により紡がれた時間、引き裂く力……我が前にその時の魔力を顕現せよ……時は歪み、歪みは亀裂へ……<<歪みの亀裂>>!」
空間が歪み……九頭大蛇の首のうち二本を巻き込んで、嫌な形に歪みが生じそのまま元に戻る衝撃でブチブチと肉が裂けていく音と共に血を噴き出しながら九頭大蛇の首が引きちぎれていく。
痛みに咆哮を上げて怒り狂う九頭大蛇だが、千切れた首へと続いて俺の火球が炸裂する。
肉が焦げる匂いをさせながら、首の千切れた首が炎上していく……そのまま首は動いているが新しい首が生えてくる様子は見えない。どうやら前世のギリシア神話作戦は正解だったようだ。
怒り狂った九頭大蛇が再び毒の息吹を撒き散らす。これもアドリアの魔法の障壁に阻まれて俺たちの元には届かない。その様子を見て……トサカ頭が何かを考えるような素振りを見せている。そして、アドリアを見ると……薄く笑うような表情を見せる。
蛇の顔が笑う? という不思議な光景を見て俺の頭が混乱する……なんとも言いようがないのだが、口元が歪んだように見えている。
九頭大蛇が残った五本の首を鞭のようにしならせて魔法の障壁へと叩きつけ始めた。その様子を見てアドリアが呆然とした表情を見せる。
「こ、この化け物……私がこの魔法の障壁を張っているのに気がついたの……?」
衝突のたびにアドリアの顔が歪む……魔法の障壁は衝撃や攻撃を受けるたびに、弱まるため続けて魔力を追加しなければならず、アドリアは怪我の影響もあって体力的に不安があるのだ。
どうやってなのか九頭大蛇はアドリアがこの壁を維持していることを理解しており、さらにアドリアが本調子でないことも理解しているようなのだ。
次々と凄まじい衝撃が魔法の障壁を襲う。その度にアドリアの額に滲む汗が増えていく。
「くっ……こ、この化け物……頭がいい」
アドリアが苦しそうな顔で魔力を維持している……長くは持たないだろう。俺は覚悟を決めてやらなければいけないことを、覚悟を決めた。やる、ここで必ずあの魔法でこの九頭大蛇を灰にしてやる。剣杖を大きく振り回して……魔法の詠唱を開始する。
「すまないみんな俺に命を預けてくれ……本当にデカイの一発ぶっ放してやる」
_(:3 」∠)_ やるぞ!やるんだったらやるzo!
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