115 ゲルト村防衛戦 06
「アイヴィー殿とロラン殿はまだ大丈夫そうだな……」
ロスティラフは物見櫓にて油断なく相手の動向を確認している。彼がクリフと確認している役割としては、仲間が危険な場合は弓にて援護を行う、もしくは物見櫓から降りて加勢する。そういった危険性が高くないと判断した場合は、弓で敵獣魔族の数を減らしていく。さらに他の方向から攻められた場合は、その方向からの侵攻を押しとどめること。
村の自警団にできるだけ犠牲を出さない……ということも命令されている。とはいえロスティラフが不可能だと思ったら反故にしてもいい、とクリフは話していた。クリフは時折恐ろしく現実主義者的な一面を見せる……最優先は自分と仲間の命だと、はっきり口に出していることも多い。それがたまらなく魅力的なのだ。
ロスティラフは付き合いを長くしていくに従って、クリフに心酔していく自分を自覚している。
「ロスティラフさん、村は大丈夫でしょうか?」
自警団の射手が不安そうな顔で、獣魔族に弓を射掛けている。彼らの弓は獣魔族を倒すまでに至ってないが、傷を負わせていることで侵攻速度は遅くなり、展開している自警団が有利に戦う手助けにはなっているようだ。
「……大丈夫。今のところ、まだ私たちの方が有利と見ている」
ロスティラフは仲間の様子を確認していたが、アイヴィーは少し危ないところがあったものの、すぐに押し返して相手を倒していた。後で助けが必要な気もするが、今現在は大丈夫だろう。
ロランは安定して相手を圧倒していた……まあ盾役としての彼はかなり優秀なので、そう簡単に崩れることはないだろう。
クリフは……まあ、彼であれば問題ないのではないか? と考えている。信頼というよりは信用している、というのが正しい。どんなに危険な目にあっても彼はなんとかする、という気がしているのだ。
アドリアは怪我人の看護や、治療にあたってるようなのでこちらも問題ないだろう。彼女の性格的に前線に出たがったのだろうが、今のところ体力的にも戦闘に参加して戦い切れるとは思えない。
複合弓を構えて、獣魔族の射手へと矢を射掛ける。ロスティラフの弓は剛弓だ。人間の腕力ではそう簡単に引くことができない。野宿の時のお遊びで、複合弓を引かせてみたがロランはなんとか引けたが、クリフは全く引けなかった。
驚きだったのはアイヴィーがきちんと引けていたことだった。本人曰く、力ではなくコツなんだと話していたが。
凄まじい速度で矢が飛翔し、獣魔族の一体が血飛沫をあげて絶命する。それを見届けるとすぐに櫓の壁に身を隠し、次の獲物を狙って目を凝らしていく。単体の敵射手を減らしてもそもそもの数が多すぎる。
ある程度の数は減らしているが、根本的にクリフの魔法などで吹き飛ばしていく必要があるだろう……クリフの援護に回るか……?
そんなことを考えていると、軽い風切り音がロスティラフの耳に届く。
「! すぐに伏せろ!」
ロスティラフの声にあわてて自警団がしゃがむと物見櫓の柱に、甲高い音を立てて弓矢が突き刺さる。そのあと複数の風切り音とともに数本の矢が次々と櫓に突き刺さっていく。こちらの弓よりもはるかに高い密度で矢が飛んできている。
「流石に学習しているな……相手の弓兵を片付けないと援護ができん……」
「くそおっ!」
一人の若者が自暴自棄になって弓を構えて櫓の中から顔を出すが、狙い撃ちされたように数本の矢が頭に突き刺さり、絶命した彼はそのまま櫓から落ちていく。ああ、一人若者を先に逝かせてしまった……心がざわめくが、喉を軽く鳴らして気持ちを落ち着ける。動揺しているそのほかの若者を見ながら、ロスティラフは口を開いた。
「絶対に頭を出すなよ、簡単に死ぬぞ」
ロスティラフは、恐怖で震えながら頷く自警団の若者を見つつ、ため息を漏らす。その間もどんどん狙い撃ちをされていく物見櫓。木製の櫓なので獣魔族が少し頭を回して火矢を射掛けたらその時点で逃げ出すしかない。今のところはそうではないのが救いか。
今後の選択肢を考える。このまま櫓にいても死ぬだけだろう。特に自警団の若者たちはなんとかして逃さなればいけない、櫓から逃すには……囮が必要。
「今から囮を作る、急いで櫓から飛び降りるのだぞ」
ロスティラフは若者にニヤリと笑う……とは言え彼の笑顔は獰猛な肉食獣のそれなので、ぱっと見は恐ろしいのだがその甲斐もあって若者たちが青い顔のまま頷く。
竜骨を削って作成した小剣を抜き、櫓の側壁から軽く切先を出して動かしてみる……その動きに合わせて、一気に矢が集中し櫓の壁に次々と矢が突き立つ。
「今だ! 飛び降りよ!」
若者たちはあわてて櫓の梯子を滑るように降りていく。囮の甲斐もあり先ほど撃たれた若者以外は基本的には逃げ出すことができている。するとその時、甲高い音とともに櫓の屋根に火矢が突き立った。
ああ、流石に学習しているな……とロスティラフは何本も突き立っていく火矢とパチパチと音を立てて火が燃え移っていく櫓の屋根を見ながら、小剣を鞘に入れ直すタイミングを見計らう。
矢の雨が止んだタイミングで、櫓から軽く飛び降りる。ロスティラフを狙って矢が放たれるが、ロスティラフには当たらず無事に地上へと降り立つ。複合弓を手にアイヴィーの援護へと走ることにする。先ほど確認した時には動きがあまり良くなかったので、もしかしたら怪我をしている可能性もあるのだ。ロスティラフは走り始める。
「彼女に何かあれば……クリフ殿やアドリア殿が黙っていないでしょうからな……」
_(:3 」∠)_ 音楽聴きながら小説を書いてるとめちゃくちゃそれに引っ張られますねw
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