113 ゲルト村防衛戦 04
「フハハ! 剣の腕は確かに其方は素晴らしい……だが、油断したな」
ダビドが高笑いをしながら苦しむアイヴィーの眼前へと剣を突きつける。彼女は全身を襲う激痛と、ひどい目眩を感じて立つことができない。しかし刺突剣だけは握りしめて話そうとはしていない。震える体で必死にもがくように後退していく。そしてダビドも目の前の女剣士の目が死んでいないことに気がつき、ジリジリと距離を詰めていく。
「ううっ……こ、こんなこと……」
油断した! とアイヴィーは心の中で歯噛みする。師匠に見られたら確実に激怒されるミスだ。視野が狭くなっていた、としか言いようがない。剣と盾にばかり集中していて、尻尾の対策を怠っていたのだ。
蠍人族の尻尾の毒は知識としては知っていたはずだった。複数の毒の種類があり、単純な猛毒の場合が多いらしいが、今回の毒は麻痺毒に近い気がする。これが強力な睡眠毒だったら不味かったが、そうではないらしい。
刺された太ももからジクジクとした痛みが伝わり、体の震えが止まらない。目眩はひどいものの、まだ眼を閉じるほどではない。帝国貴族家の習いとして子供の頃から少しづつ毒への耐性をつけるための訓練をさせられてきたことがあり、その耐性がかろうじてアイヴィーの意識を繋ぎ止めている格好になっている。
とはいえ全力で動くには無理をしなければいけないだろう。今はまだ、一気に動くタイミングではない……。震える手を押さえながら、刺突剣を握りしめる。
「どうした、先ほどまでの勢いは……所詮は女だな」
アイヴィーの足の間に長剣を突き立てるダビド。彼の顔は完全にサディスティックな表情を浮かべており、舌なめずりをしながら彼女の体を舐めるように見ている。そうかこの男の本性はこの顔なのか……。
元騎士とはいえ、手段を選ばない戦い方や相手を自分のフィールドに引き摺り込むためのブラフなど、手練れの手腕ではあったのだ。
「お前はこの後周りにいる獣魔族の慰み者だ、十分可愛がってもらえ。繁殖が終われば蠍人族に転生させてやろう……我が神の慈悲は貴様のような小娘でも降り注がれる」
ダビドは笑いながら周りの獣魔族を呼び寄せる。女を犯せると考え興奮して、涎をダラダラと垂らしながら周りを囲む複数の獣魔族を見ながら怒りがアイヴィーの心を支配していく。
慰み者だと……? 私がそんなか弱い小娘だと思っているのか? 全身の筋肉を軋ませながらアイヴィーは、怒りに体を震わせながらゆっくりと立ち上がる。その姿を見てまさか動くと思っていなかったダビドと獣魔族が驚き慌てる。
「な、なんだと……? 毒が効いていないのか?」
「あなたの毒は効いてるわ、かなりね……」
彼女が刺突剣を振るうと、近寄っていた複数の獣魔族の首がゴロリと落ちる。アイヴィーの顔は怒りを通り越して無表情になっている。足の筋肉に力が込められると、軽く傷口から血が吹き出しすぐに止まる。
「はっ……私を慰み者にする? やれるものならやってご覧なさい」
アイヴィーは傷を負っているとは思えないほどの速度で一気にダビドへと接近すると、無造作に刺突剣を突き出す。その攻撃はあまりに無造作で、ダビドの目から見ても単純すぎた、それ故にダビドは苦し紛れの一手だと思い込み、油断が生じた。
「またそれか……何っ?」
その攻撃を円形盾を使って受け流そうとしたダビドの目に、彼女の白い手がアップで映る。そのままアイヴィーはダビドの顔面を掴むと腕力のままに地面へと叩きつける。カランと音を立てて転がる刺突剣とダビドの剣と盾。
そしてそのままアイヴィーは地面へと叩きつけたダビドに馬乗りになり、拳の連打を顔面へと繰り出し始めた。あまりの衝撃にダビドの目から涙が溢れる。それに構いもせずに次々と拳を叩き込んでいくアイヴィー。
「ゴバァアッ! アビャアアッ!」
情けない悲鳴をあげてダビドはアイヴィーの両拳の連打を顔面に受け続けていた。この少女の膂力は見た目よりも遥かに高い……さらに驚きで防御体勢すら取ることができずにどんどん変形していく顔面、血があたりに飛び散り凄惨な風景へと変わっていく。
なんとかもう一度尻尾を刺せば……そう考えて彼女の死角から尻尾を伸ばすダビド。しかし、その行動を予想していたのかアイヴィーは見ずに尻尾をスレスレで掴むと、そのまま尻尾をへし折る。
「あギャアアアアア!」
悲鳴をあげて苦しむダビド。そのつぶれ始めた顔を見て唇の端を釣り上げ、ダビドの返り血で血まみれになったアイヴィーが咲う。
「……このゲス野郎! もう死になさいッ!」
アイヴィーの渾身の力で放った正拳突きがダビドの顔面を完全に破壊する。大きく痙攣をすると、ダビドの四肢が地面へと落ちた。ため息をつくと、血塗れのアイヴィーが立ち上がり……地面に落ちた刺突剣を拾い、周りの獣魔族へと向かう。その凄まじい姿に恐れ慄く獣魔族達。威嚇の声をあげるものもいるが、完全に及び腰になっている。
「お前らみたいな汚れた生き物は、私が鏖殺してあげるわ!」
血塗れの少女が刺突剣を構えて獣魔族へと躍りかかる。必死に応戦するもの、慌ててその場から逃げ出すもの、恐怖で動けないままに殺されていくもの。
ギリギリとアイヴィーの胸が痛む、毒に耐性があるとはいえ流石に無理が続くとそのうち動けなくなるだろう、だから早めにこの辺りの敵を一掃しなければいけない。
金色の死神が戦場を駆けていく。悲鳴と怒号があたりに響き渡っていくのだった。
_(:3 」∠)_ 素手の方が強いのかもしれない……
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