108 夢見る竜(ドリームドラゴン)という仲間
「アドリア殿は安静が必要ですな……」
ロスティラフがアドリアが入院している治療院の前で悲しそうな顔で首を横に振る。俺とロスティラフはアドリアを治療院へと送り届けた後、彼女のダメージがかなり大きく、治療院の司祭から『当分安静にして様子を見てください』と言われたのち、治療院前で今後のことを相談していた。
傷自体はすでに跡形もなく消えているのだが、体力的な問題と精神面でのダメージが心配なところなのだ。
「ゆっくり休んでもらおう、俺は少し彼女に負担をかけすぎたよ……」
俺は治療院を見上げながら……無力さに歯噛みしながら、今後のことを考えている。夢見る竜は金級冒険者パーティのため、冒険者組合からの依頼を基本的に断ることができない。
現在緊急の依頼でとある村の防衛を依頼されてしまっており、その対処も考えねばいけないのだ。
「ロスティラフ……すまないがアドリアについていてくれ……」
「しかし……それでは」
「いや……アドリアがまた襲われる可能性もある……そうなったら俺はもう耐えられない……」
俺はロスティラフに頭を下げて……彼は何度か口を開こうとして、諦めて俺の肩に手を置いた。
「わかりました……無理はしないでください。アドリア殿が……悲しみます」
俺はロスティラフに微笑むと、アドリアを彼に任せて……仲間の元へと歩いていく。
「ということで、今回の依頼はこの三人でやろうと思ってる」
俺はいつもの酒場のテーブルに座っているアイヴィーとロランを前にそう説明した。二人はかなり不安そうな顔で俺を見ている。そりゃそうだろう……俺も不安でしかない。夢見る竜は五人揃って初めて能力を発揮できていると思うし。
「人数が少なすぎるのは、不安しかないな……」
ロランが正直な気持ちを漏らす……俺は頷くと少し前から決めていたことを話し始める。
「うん、だから……無理に来てくれとは言わない。俺1人だけでも依頼を受ければ良いのだから……」
その言葉にアイヴィーが流石に怒りを隠せずに俺に詰め寄ってくる。
「馬鹿にしないでよ! 私はクリフと一緒に行くって決めてるの。一人で危ない場所へ行かせるわけがないでしょ?」
結構な大声で喋っていたため、昼間とはいえ他の酔客が何事かとこちらを見るが……、すぐに興味なさそうに自分達のテーブルに向き直る。
アイヴィーは言いたいことは言った、という風に自分の椅子へと戻ると不機嫌そうに顔を背けて座る。
「俺も一緒に行くぜ。当たり前だが俺たちは仲間だからな」
ロランがニヤリと笑って手元のお茶が入ったジョッキを掲げる。俺は彼に頭を下げて……椅子に座り直すと今回の依頼内容を説明し始める。
今回の依頼は郊外にあるゲルト村からの依頼だった。
古代から存在している洞窟が村の付近にあり、過去何度もどこから漏れ出てくる混沌の下僕との戦いが続いていたが、最近洞窟の調査で、獣魔族の活動が活発になってきており、村の防衛能力では抑え切れるかわからない。そこで冒険者に防衛の助力をお願いしたい、ということだった。
「獣魔族が大群で襲撃か……」
ロランが少し難しい顔をしている……何体いるかわからないが、大群の襲来ということは少なくとも二桁の獣魔族が攻めてくる可能性があるということだ。
獣魔族は上下はあれど知的種族なので、単なる魔物の大暴走のような暴走ではない分、かなり厄介だ。
「村にも防衛部隊がいるのと、治療院が協力してくれるそうだから、アドリアとロスティラフがいない穴は埋めれそうだ」
依頼書を読みながら今ここにいない二人のことを考える。いない穴を埋められる……わけがない。連携も取れないだろうし……。確実に戦力としては落ちてしまうだろう。
「なら、私たちの出番ですね!」
え? と思って声の方向を向くと……そこにはロスティラフとアドリアが立っていた。あ、アドリア?
「アドリア? 安静にしてなきゃいけないんじゃ……」
アイヴィーが驚いたようにアドリアに駆け寄る……アドリアはにっこり笑ってアイヴィーの手を借りつつテーブルへと歩き……椅子に座ると俺の驚いた顔を見ながら、にひひと笑った。
「私とロスティラフさんがいなきゃ、クリフは依頼達成なんかできないですよ? だからさっき退院してきました」
よく見ると、息も少し荒いし方は少し震えている……顔色だってそこまで良くない。
「だめだ、アドリアはまだ本調子じゃないだろう? 危険な場所に連れて行けるわけないじゃないか……治療院にもど……」
俺はアドリアの肩に手を置こうとして……アドリアがその手を払う。
「馬鹿にしないでください、私だって夢見る竜の一員なんですよ? 仲間が危ないかもしれないって時に一人だけ寝てるような真似はしません」
アドリアは俺の目をキリッと睨みつけると……アイヴィーとロランを交互に見る。ロスティラフはオロオロしながら……というか竜人族の慌てる姿とか普通見れないよなあ、と思う。
アイヴィーは、少し潤んだ目を拭いながらアドリアをそっと抱きしめる。アドリアもアイヴィーの背中に手を回して……少し嬉しそうな顔で笑う。あ、百合展開かなんかですかね……。
とはいえ夢見る竜が再び揃った。それだけがただ嬉しい。少し潤んだ目をしていた俺を見て、アドリアが微笑を浮かべる。
「ではこの村を攻め滅ぼせばよろしいので?」
山羊頭の獣魔族が、板金鎧を着込んだ……クラウディオに頭を下げつつ問いかける。
「うむ、出来るだけ惨たらしく、凄惨に殺すのが良い。女は犯して宜しい」
クラウディオが歪んだ笑顔を山羊頭へと向けると、水晶に映る夢見る竜の様子を見ている。
半森人族の少女を痛めつけて、戦線離脱と使徒の戦力低下を図ったが……どうやら逆効果だったようだ。それはそれで仕方ない。勇者……強き者とはそういうものなのだと理解している。
「そういう輩を力でねじ伏せる……それでこそ我が勝利、わが望み……」
_(:3 」∠)_ 朝イチで退院してきた、は至高の名言
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