106 アドリアの捜索と黒鴉
「やはり魔力を感じるわ……」
アドリアを拐われた路地に俺たちは立っている。アイヴィーの目がルビーのように輝き、その場に残る残留魔力を感知しているようだ。
「移動先は……こっちね」
アイヴィーは現場に残っている魔力の残滓を見ながら歩き出す。しかし……狙い撃ちでメンバーを狙われる。こんな経験は初めてだ。冒険者生活がそれなりに長くなっているが、悪意を持って攻撃されたのは経験がない。焦りが俺の心を支配していく……彼女にもしものことが起きていたら……俺は……。無駄に力が入り、体が震える……。
俺の肩に大きな手が載せられる。振り向くとロスティラフが俺の目をじっと見て話し始める。
「クリフ殿……誘拐というものは理由と目的があって行われるものです。現時点でアドリア殿を害する理由はないと考えます。早めに救出することは重要ですが、焦ってもよくない。落ち着きましょう」
その言葉と俺の肩に載せたロスティラフの手が震えていることに気がつき……俺は肩を落として両手で顔を覆う。そうか彼も辛いのだ、娘のように可愛がっていたアドリアがさらわれて一番悔しいのはロスティラフなのだ。
「ごめん……ごめん……」
「クリフ……」
アイヴィーも俺の肩に手を載せて、ぎゅっと力を込める。私も悔しい、という気持ちを感じる。そうだ、俺たち全員が悔しくて仕方がないのだ。俺は気持ちを入れ替えるために深呼吸をする……。その時、別行動をとっていたロランがその場に現れた。
「おーい、集めてきた情報を共有しよう、そっちは何かわかったか?」
「つまり……その暗殺者がアドリアを攫った可能性が高いのか……」
ロランが組織に接触して集めてきた情報によると、少し前からデルファイの裏組織に対して、ある依頼が流れていたという。依頼元は秘匿されていたが、かなり高額だったことから、話題になっていたという。
夢見る竜のメンバーを拉致し、依頼元に渡すこと。死なない程度に痛めつけて構わない、殺した場合は金は払われない……など。
「狙い撃ちか……怨恨だろうか?」
「わからない、で組織側は冒険者組合との関係性もあって二の足を踏んだそうなんだが、独立系の個人が依頼を受けた、という噂が流れていた」
その個人……話を聞いていくと、暗殺を専門にしていた『黒鴉』と呼ばれている男で、最近暗殺などの仕事が減った関連で、金に飛びついたのではないか? という情報源の言葉だったそうだ。
この男は感情を表さずに淡々と仕事をこなしていくタイプの暗殺者で、裏組織からも重宝されていた人材だとか。あまり表には出ていないが、デルファイで行方不明者が出た時は必ずこの男が絡んでいるのだとか。
「古い下水道に根城があるそうだ。そこにはそいつ以外は住み着いていないようなので、探すのは簡単だろう、という話だった」
ロランが強い意志を感じる目で俺を見つめて……口を開く。
「助けに行くぞ、クリフ。俺もアドリアが無事でいると思っているが、あまり時間がない」
俺たちは全員その言葉に頷き……下水道の入り口へと向かっていく。
「……誘拐の依頼は完了。今は動けないように痛めつけているところです。いかがしましょうか? 混沌の戦士殿」
黒衣の男……黒鴉はテーブルに置かれた水晶に向かって話しかけている。散々に痛めつけられて、憔悴したアドリアだが、意識をなんとか保ったままその会話を聞いている。
「では痛めつけた後は放置しろと? ……意味があるのですか? それは」
黒鴉が話しかけている以外の言葉は聞こえない、がどうやら殺されるまではしないようだ……そこで背中に刻まれた傷に液状生物が再び食いつき、傷を抉り始める。全身の傷にまとわりついた粘液が鳴動し、改めて全身の傷に再び食いついていく。
「く……っ! ああっ……も、もうやめて……」
痛みにアドリアの体が跳ねると、鎖がジャラリと音を立てる。その音に気が付く黒鴉が会話を終わらせ、アドリアの元へと向かってきた。黒鴉はアドリアの顎を乱暴に掴むと……顔を自分の方向へと向ける。
「雇い主からはお前を殺せ、とは言われていないのでな。せいぜい苦しむといい」
「……あ、あなたは混沌の戦士に雇われて……ううっ……!」
なんとか痛みを堪えてアドリアは黒鴉から情報を引き出そうと話しかける。その時、再び液状生物が身体中を這うおぞましい感覚と、痛みと羞恥で息も絶え絶えに黒鴉を睨みつける。
「気が強いな、気に入った……が、仕事は仕事だ」
黒鴉の姿が暗闇へと消えていく……再び全身を襲う激痛にアドリアは悲鳴を漏らしながら、彼が消えていった暗闇の方向を見続けていた。
黒鴉は部屋を出ると、別の部屋へと移り……誰もいないことを確認してから、仮面を外す。金色の髪に、栗色の目をもち顔中に大きな傷が刻まれた男性の顔がそこには現れる。
「もうすぐ、この街から出るだけの資金が貯まるな……王国にでも居を移して静かに暮らすか……」
黒鴉の目的は金。この街に流れてきた時、彼は冒険者として流れ着いたが一文なしに近い状態だった。そこを組織に拾われて、暗殺者として活動を開始することになったのだ。
思いのほか暗殺者としての活動に適性を発揮し、デルファイの裏組織の間では彼は重宝された……が、そろそろ彼自身が平穏な生活を送りたいと願うようになっていた。
そこへ今回の混沌の戦士からの依頼が舞い込み……高額の報酬を提示されたため、この都市で最後の仕事と考えて請け負った。
が、不可解な指示が多すぎる。『誘拐して痛めつけたあとは放置し、仲間に見つけさせろ。殺すことはしなくていい』……あまりに理解ができない指令だった。
血に濡れた己の手を見つつ、彼は溜め息をつく。そして仮面の姿とはいえ、アドリアに姿を見られていることには不安を感じているが、この街から逃げて仕舞えば追ってはこまい。
「まあいい……金さえもらえれば姿を隠して、余生をのんびり過ごすさ……」
_(:3 」∠)_ 捜索は下水道へ!
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