日独戦争ーウラジオストクの戦いー
初めての投稿です。
よろしくお願いします。
西暦1941年、ナチス・ドイツは独ソ不可侵条約を一方的に破棄し、独ソ戦が開始。ドイツは破竹の勢いでソ連の首都、モスクワを占領。ソ連を降伏させ、不平等条約を結んで傀儡化した。
その後、ドイツは極東の土地に目を向け、日本と戦争を始めることとなった。
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「Ⅵ号重戦車Ⅰ型が九輌、Ⅳ号中戦車が十五輌、あとはⅢ号中戦車が十二輌と歩兵が約四百人か……岡村、今私が言ったことを本部に連絡しろ。座標は経度が131.859962、緯度が43.053075だ 」
「はっ……ですが、戦車長、数が少な過ぎではないですか?」
「どういうことだ?」
「報告によれば敵は一個連隊で来ている筈です。どこかで分散しているのでは……」
「後ろに時間差で付いてきているんだろ。それより早く連絡しろ。お前の予想を聞いている暇は無い」
少々キツく言いすぎたと思いつつ、私は金属製の双眼鏡を持ち直した。我々がいるのはウラジオストクのルースキー島。最終防衛線のうちの一つだ。ここを取られると色々とまずい。そんな大事な島の最も前線に近い丘の下で、私は敵戦車が歩兵を後ろに連れて進んでいるのを見ている。だんだんと集団の全貌が見えてきた。そして、その後ろには敵戦車が時間差で付いてきているはずだが……いない。
「岡村、どうやらお前の予想が合っていたみたいだ。敵は分散して丘を取り囲むように進む可能性が高い。行くぞ」
「はっ」
エンジンが唸りをあげてチハが動き出す。今更こんな古い戦車を使っているのは私の国だけではないか?まあ、仕方ない。私は左右非対称の砲塔の中に入りハッチを閉めた。カラカラという車輪の動く音が車内に響き渡り、私を余計に苛立たせた。中は動く棺と言わんばかりに狭く、そして硬かった。その棺の中には乗員が私含め四人。男が三人で女が私一人。我ながら不思議だと思った。しかも私は、戦車長を任されている。
さっき私にきつく言われた岡村は通信手兼装填手。無防備に寝ている佐藤は副操縦手、隣の栗林は操縦手だ。
「おい、起きろ、佐藤」栗林が言った。戦車が動いてもなお寝ているとは実に大胆、いや、鈍感か。嘲笑と羨望の目で佐藤を見ながら私は考えた。
なぜ私はここにたった一輌で偵察任務に就いているのだ?偵察だからか?それにしても、一輌はないだろう。死ねと言われているようなものだ。しかも偵察なのに中戦車って。普通は軽戦車だろうに……
「栗林に起こさせるな、佐藤」私はそう言いながら憂さ晴らしに佐藤を蹴って起こした。
「申し訳ありません、戦車長。コイツはどこでも寝てしまうやつで……」
「知っている。お前はいいんだ、栗林」
憂さ晴らしで乗員を蹴ってしまったことに反省しつつ、私は小窓の外を見つめた。相変わらず木しかない場所だ。
すると突然、ズドンと振動が来た。近くの地面に何かが落ちて爆発したのである。そして、それと同時に私は理解した。狙われている。それも敵戦車に。
「なんでいるんだここに……」
予想とは全く違う展開に私の頭は少し混乱していた。この丘は丘にしては若干標高が高く、木が密生している。ここを通るには多数の戦車では不向きだ。だがここを制圧すれば我々の本部を直接砲撃出来る。敵はそれを狙ってリスクを承知でここに連隊の一部を分散させたのか。クソッ、だから一輌では危険だと言ったのに……あの無能指揮官め。
「栗林!急いでここを離れて本部に向かうぞ。岡村は本部に敵戦車連隊は一部を分散させてルースキーの丘を制圧しに来ると連絡して応援を要請しろ。制圧されたら大変なことになるとも伝えろ。佐藤は敵歩兵を見つけ次第撃て!」
「はっ!」三人が同時に返事した。
ハッチを開け、頭だけを出して周りを見る。敵影無し。遠くからの射撃のようだ。砲弾は徹甲弾だった。一発で仕留めるつもりだったろうが、外したな。当たっていたら我々は既に肉塊になっていただろう。幸運だ。
「戦車長!敵戦車です。回り込まれました」
「Ⅲ号中戦車か……我々の戦車では太刀打ちできん。栗林、進路を変更するぞ」
そう言ったのも束の間、直ぐに敵戦車が前に現れた。八方塞がりだ。
「……仕方ない、可能性は低いが敵戦車の間を通り抜けるぞ」
「あまりにも無謀です、戦車長。敵は我々の戦車より数倍強いドイツの戦車です。降参しましょう」栗林が緊張した声色で言った。
「そうです。ここは降参して味方に助けてもらうのを待った方がよろしいかと……」岡村が賛同した。私は数秒黙ってから出来るだけ冷静を装って答えた。
「私も正直なところそうしたい。だが、降参したところで我々の命は助かるか?今は我々以外、味方がいない。敵は降参した我々を非情にも撃ち殺すだろう。それならば、ということだ」
車内が一瞬沈黙に包まれる。すると、それを破って佐藤がこちらを見ずに発言した。
「僕は戦車長に賛成ですよ。僕たち生きて帰らないつもりでここに来てるんだから。どうせ死ぬなら戦って死んだ方が良い」その声に一切緊張は感じられない。
「佐藤、お前……はぁ。本当に行くんですね」岡村が渋々了承した。
「ああ、やってくれ、栗林」
「分かりました……やりましょう。でも、私は生きますよ。なんとしてでも」
「その時は私たちの墓を作ってくれ」
「ええ……もちろん」
チハが動き出した。全速前進。車体が後ろに傾き、エンジンが悲鳴をあげる。敵戦車の砲塔がゆっくりとこちらへ向く。距離は百メートル、五〇メートルと縮まっていった。
「行け!そのままだ!そのまま抜けろ!」そう言うと同時に、私は敵戦車が砲弾を発射した轟音を聞いた——