便利なアイテム
それから僕たちは商業エリアのアテナの店へ赴き、品を物色した。とりあえずそこそこの資金を調達したのはいえ、無駄遣いをするべきではない。
今僕が一番欲しているもの、
「なんかこの地図の上位互換的なやつってないんですか?」
どんなものがあるのか、詳細にはわからかいが、これだけ物が売っているならば、何かしらそういった類のものがあるはずだ。
「そうですね〜、一番高性能なので言いますと」
そう言い、店の奥へと戻り、数分後に戻ってくる。その手には小さな箱のようなものを持っている。
「これは腕時計型の地図でして、いちいち地図開く手間も省ける優れものでして」
木箱の中からはたしかに黒い腕時計のようなものが出てくる。しかし肝心の時計がついていないため、どちらかと言えば腕輪のようなものだ。
アテナは自らの腕にその腕時計を装着して使い方を見せてくれた。
「まずは腕につけて、このボタンを押します」
それは腕時計をつけたとき、ちょうど時計のある位置にぼたんがあった。アテナはそれを押す。すると、まるでプロジェクターで映したかのような映像が浮かび上がる。
「そしてまず浮かび上がるのが、この商業エリアのマップの全体像です」
たしかに、日本地図のようにメルカトル図法で商業エリアの地図が表示されている。
「ここは商業エリアの欧州地区と命名された場所で、ロンドンをモチーフとしている場所です。そのほかは三種類、あなた方の住む国、日本の江戸時代をモチーフとした、武士地区。古代ギリシアをモチーフにしたポリス地区、そして現代の高いビルに囲まれたシティー地区があります。広さとしては、おおよそ均等に四等分されているので、お好きなところで過ごされても変わりはありません」
丁寧なアテナの説明を聞きつつ、僕は地図に目をやった。たしかにほぼ真四角の地形の右上がシティー地区、右下が武士地区、左上がポリス地区で、左下がこの欧州地区だ。
「そして次にバトルエリアです」
そう言い再びボタンを押す、すると、先ほどの商業エリアの地図からバトルエリアのものに変更された。その地形はまた正方形だった。もしかすれば、意図的にそう作られているのかもしれない。
「先ほどの商業エリアが四等分になっているのに対して、このバトルエリアは非常にさまざまな物があります。国もあれば、村もあり、モンスターのひしめく場所なんかもあります」
「国があるってことは、バトルエリアにも人がいるってことですか?」
「ええ、人がいないのは西洋エリアだけです」
「でも、バトルエリアにはモンスターがいますよね? 襲われたりしないのですか?」
「まあ襲われることもあります。しかしこの世界にいる人間もあなた方の世界にいる人間となんら変わらない知力を持っています。ある国は高い壁を建設し、ある村は柵で村を囲んでいます。それだけでは不十分と、兵を募り、武器を作り上げ、モンスターなどお構いなしに覇を競っている国々まであります」
つまり日本で言う戦国時代のような感じのことが、バトルエリアにある国々で行われているということだ。
「まずその筆頭として、広大な領地と豊富な資源のある怜泉という国です。バトルエリアの北部に位置する国です。モンスターの対策もさることながら、敵対している国や領土侵略への野心が一番強い国でもあります」
たしかに地図にも記されている。菱形のような形をした国だ。その西にはモウダン川というとても長い川がある。
「そしてそのライバルとして挙げられるのは、怜泉から南へ五百キロほどの位置にある譚湖という国です。この国は非常に地形に恵まれており、北にミッサス川、東に標高六千メートル級の無仁山があり、西にも対善という山があります。つまりこの譚湖という国は自然要塞なのです」
たしかに三方向を長い川と高い山があり、たとえ怜泉から敵が攻めてくるためには、川を渡るか、山の登らなければならない。しかしすでに五百キロの道のりを進み、なおかつそんな弊害を乗り越えるのは困難だ。
僕ならば、その三方向の守りは最小限にして、南側を固くするだろう。
「そういえば、このこのバトルエリアや商業エリアって果てってあるんですか?」
地球は丸いわけで、故に果てがないが、こんな正方形では進み続ければ、いずれは終わりが来るはずだ。
「いえ、これはあなた方の世界でいうメルカトル図法を用いているので、実際は丸く作ってありますよ」
つまり、どこまでも忠実に地球をモチーフにして作られてあるということか。
「他にも国や村、後はモンスターの巣窟なんかもあったりしますので、この腕時計型の地図を使用してぜひ探索してみてはいかがでしょうか」
しかしながらここにきて一番重要なことに気がつく。その地図はつまりすでに完成された地図なわけだ。この世界にある三つのエリアすべてが記された地図。
想像しただけで震えてくるが、一応聞いてみよう。
「ところで、お値段は⋯⋯」
「六百万ネセサリーです!」
曇りひとつない笑顔で言うアテナだが、六百万ネセサリーとは。僕たちが一時間休む暇なくモンスターを狩り続けても二十万にも到達しないのに。
「すみません、少し手が出ないと言うか⋯⋯」
「そうですか⋯⋯では、こんなのはどうでしょうか?」
それなら怒涛の商品プレゼンが始まった。
「ひとつ目がこのカメラです。これの何がすごいかと言いますと、このカメラで写真を撮った場所に、いつでも瞬間移動できると言う代物です!」
「すご! いくらですか?」
「八百万ネセサリーです」
「高っ!」
そもそも六百万ネセサリーでも手が伸びないと言うのに、八百万が買えるはずない。アテナは「それでは仕方ないですね」と言い筆を商品棚に立てかけると、次の商品のプレゼンに移った。
「次はこれです。この方位磁針は所持者以外の体内に宿る神に反応して、その方角を指し示してくれる便利で優れたアイテムなんですよ!」
「でも、それ宮里にも反応しません?」
僕の場合は宮里と一緒に行動しているわけで、その体内にはテュポーン神が宿っているはずだ。となれば、真っ先に指し示すのは宮里のある方向なのではないか?
「⋯⋯たしかに、じゃあこれは使えませんね。では次です。お次はこれ、モンスターを引き寄せる力を持つお守り!」
そう言い掲げたアテナの手には赤いお守りが見える。
「これは単純明快、先ほどのお買い上げいただいた香水とは違い、時間制限がない永久に効果を発揮されます」
「しかしお値段は⋯⋯」
「百五十万ネセサリー!」
「ぐっ⋯⋯高い!」
やはりそのお守りを足がかりに、大量の資金を稼ぐことができる。今度のためには絶対に欲しいものだが、今の僕たちには二十万に満たないほどのお金しか持っていない。
「じゃあ分割にします?」
「できるんですか!?」
「ええ、最大二十回払いまでは可能ですけど」
つまり一回七万五千ネセサリーで買えるということか。ならば即決だろう。
「ではそれでお願いします」
「毎度あり!」
それからカウンターに移動して、僕は宮里から受け取った赤い袋から七万五千ネセサリーを払う。残り一万ネセサリーだが、このお守りを手にしたことのより、さらに効率よく稼げるようになると思うと悪い買い物ではないと思う。